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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第二十話 作られた世界
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4 人造異世界ミドワルト

 ファームの元となったミドワルトプロジェクト。

 それは仮想世界に命を吹き込んだ人造異世界の構築計画だ。


 最初に計画が始動したのはE3ハザードよりも前。

 ラバースコンツェルン総帥、新生浩満が傘下企業に命じて開始させた。

 当時世界最高の性能を持つスーパークァッド(量子)コンピューターを使った、半分は浩満の趣味で始まったプロジェクトであった。


 人造異世界自体はそれ以前にも浩満の息子であるルシフェルこと新生二郎助が個人で成功させていた先例がある。

 しかしミドワルトがそれと大きく異なるのは外に向かって大きく拓けていることだ。

 単純に言えば世界の広さがまったくの桁違いなのである。


 ミドワルトプロジェクトはまず地球と同規模の惑星ひとつを創造した。

 それに加えて主惑星の周りには現実世界の天の川銀河を丸々コピーしたデータがある。


 あくまで主惑星の環境維持のための外部舞台装置、および将来の資源採掘用であり、主惑星外に現実で観測されていない地球外生命は一切存在しない。

 限りのある宇宙ではあるが、その広大さはまさしく『もう一つの世界』と言って憚りない規模であった。


 主となる惑星は現実の地球とは異なり実在種からオリジナル種まで様々な動植物が配置されている。

 人間が住める環境維持のため個体数の調整は厳密に行われており、かつてルシフェルが作ったモンスターも存在していた。


 そしていよいよ人間を……

 という所で計画は一旦凍結された。

 E3ハザードの発生直前に新生浩満が急死したためである。

 

 計画が再起動したのはほんの数年前。

 感情元素の収集先としてミドワルトプロジェクトに目を付けたSHINE研究所が、放置されていたデータを再利用して人類を配置した。

 そこに複数の天使が『この世界の外側の力』を注ぎ込み、ミドワルトを現実とはズレた場所にある『実在する世界』として再構築させたのだ。


 ミドワルトは当初、新生浩満の趣味で中世風ファンタジー世界として作られるはずだった。

 だが結果を言えばそれは完全に失敗に終わってしまう。


 データとして作り出したリアルな人間。

 彼らに街を作り、文明を作り、役割を与えた。

 しかし決まってそれら人類はあっという間に滅んでしまう。


 製作期間半年を費やして最初に配置した人間たちは半年持たずに絶滅した。

 その後も問題点を洗い出して改善に努めたが、四年を越えて栄えた文明はなかった。

 王は王の役割を果たさず、戦士は無意味に民衆を殺害し、農民は食料を生産しようとしない。


 長い試行錯誤の末、すでに完成した人間社会を人工的に構築するのは不可能らしいと結論に至る。

 人類が自壊せずに生存できるのはようやく火と石器の使い方を覚えた段階のレベルでないと無理だと判明したのだ。

 ただし、そのレベルの原始人類からは感情元素を得ることはできなかった。


「人間なんて基本的には獣と対して変わらないんだな」

「理由は不明でござるが、おそらくFGが人型でなければ稼働できないのと同じ理屈でござろう」

「でも過去には感情元素を収集できた例はあるんでしょう?」


 博士二人を無視してアオイはバジラに尋ねた。

 彼は手元の資料を見ながら説明をする。


「先ほどリュウイチさんが仰っていた都市国家を築いた時ですね。どうやら一定の文明力を得た段階で脳は十分な感情元素を放出し始めるようです」


 現代人と獣や原始人類の違い。

 その境は生物学者にとってはただの定義の違いに過ぎない。

 しかし彼らSHINEに関わる研究者たちから見ればハッキリと一線を引くことができる。

 すなわち感情元素を放出するか否かである。


 目下、ミドワルトプロジェクトは人類の育成が主な目的となった。

 人造世界はリセットができるし、時間が進む速度の調整も自由自在に行える。

 これまでにも研究所は幾度となく人造異世界に住む人類の滅亡と再配置を繰り返してきた。


 感情元素を抽出できるレベルになるまでミドワルトに住む人類の文明レベルを引き上げる。

 それは一見簡単なように見えるが非常に難しいことだ。

 現在までに八十三回、ミドワルト世界の人類は絶滅を繰り返している。

 何らかのきっかけを与えなければ人々は自然の中で淘汰されてしまうのであった。


「そこで使徒の派遣とSHINE結晶体の投入ですよ。この世界で八十四回の人類、その文明レベルを外からの干渉で強引に引き上げます」

「上手くいくものかしらね」

「それはやってみなければわからないんだな」

「干渉の度合いによってはまた自滅する可能性はあるでござるからな」


 一足飛びに便利な道具やシステムだけを与えても原始人類は使いこなすことができない。

 人造異世界に生きる人類を少しずつ高度な文明へ目覚めさせる必要がある。

 そのために研究所が考えたのは『使徒』を使ったテコ入れだ。


「個人的には使徒を使うのは反対なんですけどね」

「あら、どうして?」

「可哀想じゃないですか。何も知らない子どもを洗脳して利用するなんて」


 バジラの物言いをアオイは鼻で笑った。


「今さら良識面? さんざん命をもてあそんできたくせに」

「作られた命や動物素体の実験体と現実の人間じゃ話が違うでしょう」


 ハッキリ言って無意味な区別である。

 アオイは彼自身の感傷に関わることに興味はない。

 とにかく仕事さえきっちりやってくれるなら何であれ同じことだ。


「それより、今回の計画が成功したら管理局は間違いなくSHINE精製の方法を開示してくれるんでしょうね?」

「もちろんよ。なんなら念書でも書きましょうか」

「意味がないので結構です」


 各地で抽出した感情元素を集めた後、それを精製してSHINEに変える技術は今のところ管理局が独占している。

 バジラはその製法を聞きだした上で故郷のクリスタ共和国に持ち帰るつもりなのだ。


「そうか、バジラ氏はこれが終わったら国に帰るでござるか」

「外国人の感性と意見は貴重だったんだな。今後の給料アップも見据えて考え直してくれてもいいんだな」

「すみませんね。でもファルと一緒にクリスタに帰るのはすでに決定事項なので」

「そっちの話は後にして。使徒はこれからすぐ投入するの?」


 アオイは若干の苛立ちを声に含めて話の続きを促す。

 苦笑いの表情を浮かべながらバジラは椅子を回転させた。


「いいえ、今日のところはSHINE結晶体の設置に留める予定です」

「そのために軍の人間を呼んだんだな。今回は大規模な転送実験も兼ねてるんだな」

「転送……ああ」


 つまり外のFGは輸送機代わりに使うのか。


「あの大きさの物体を安定して送れるようにはなったのね」

「飛行艦艇クラスになるとまだまだキツイんですけどね。そうだ、後でよければ小型の転送装置を管理局にお譲りしますよ。所長からも許可は取っています」

「別にこっちはそんなもの……」


 いらない、と言おうとしてふとアオイは口を噤んだ。

 ドアの向こうに強い気配を感じたからである。


「どうしました?」


 他の三人はまだ誰も気づいていない。

 とある人物がこの部屋へと近づいていることに。


 敵意はなく、また威圧するつもりも本人は皆無だろう。

 しかし隠そうとしても隠せない莫大すぎる力を持つ者は、その存在だけで感じ取れる者を威圧してしまう。


「こんにちは~……って、あら? アオイが来ていたのね」

「っ!」


 アオイ以外の三人は即座に椅子から立ち上がった。

 彼らは姿勢を正して入って来た人物に深く頭を下げる。


「お、おはようございます天使様!」

「本日もご機嫌麗しゅうございます!」

「あらあら、そんなに畏まらないでっていつも言ってるのに……」


 オタク共がキャラ付けのための語尾も忘れて取り乱す様は滑稽である。

 が、アオイはなんとなく面白くなかった。

 単なる客人扱いだった自分に対しての態度とあまりに違う。


 この女を恐れる理由は十分に理解できる。

 とはいえ、アオイにとっては単なる旧友に過ぎない。


「今日は貴女も来ていたのね、アテナ」

「ええ。大きな進捗がある時は何があるかわからないからね」


 第五天使アーティナ。

 この世界の外側の力を持つ天使のひとりである。

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