7 新型変身アイテム
「それじゃ頼んだわよ、瑠那」
「はい」
管理局の地下駐車場で黒塗りの車に押し込まれた。
車を運転するのは軍服姿の若い男の子だった。
アオイさんは一緒には来ないみたいで少し安心。
けど、私はこれからどこに連れていかれるんだろう……
「あ、あの、軍人さん。質問してもいいですか?」
「ボクは軍人ではありませんよ」
勇気を出して話しかけてみると、軍服男子は優しい声を返してきた。
怖い人じゃないみたいで少しだけ安心する。
「速海瑠那と言います。本業はウォーリアですが、事情があって管理局に出向しています」
「ウォーリアってクリムゾンアゼリアの外を守ってる人?」
「はい」
それってたしか彼が勤めてるところだよね。
ん? そういえば速海って……
「もしかしてあなたって速海駿也さんの息子さん?」
「……ええ、そうです」
少し言葉につまった感じの後、瑠那くんは頷いた。
「そうなんだ。お父さんは元気?」
「ご存じないのですか?」
「何が?」
「いえ、いいんです」
なんだろう、聞いちゃいけないことだったのかな。
「元気だとは思いますよ。しかし現在の父の事情は機密事項に関わることなので、詳しく語ることはできません」
「そ、そうなんだ」
ウォーリアっていう人たちの事を私はそんな詳しく知らない。
紅武凰国のクリムゾンアゼリアの外の地域を守ってるってことくらいだ。
もしかしたらもう何年も会ってないとか、話したくない事情があるのかもしれない。
「それじゃあさ、星野空人って人のことは知ってる?」
「もちろん存じています。我々ウォーリアの伝説のような方ですから」
「へえ! どんなふうな伝説があるのかとか、聞かせてもらってもいいかな?」
「大変申し訳ありませんが、彼も現在は機密に抵触する人物なので、お話しすることはできません」
「そ、そうなんだ。ごめんね……」
特殊なお仕事だし、一般市民には気軽に話せないこともいっぱいあるんだろう。
余計なことを聞いて困らせちゃったかなって反省していると、今度は彼の方から話題を振ってくれた。
「昔のご友人の方々のことが気になるのですか」
「友人っていうか……うん、まあそんなところかな?」
「貴女に関する情報は聞いています。かつてのL.N.T.で最強クラスの能力を操り、天使に最も近い力を持つと言われた固有能力者。ボクからしたら貴女も伝説のひとりです。遅くなりましたが、お会いできて光栄です」
「い、いや、私なんて全然すごくも伝説でもないから」
結局、素質無しって認定されて放置されたわけだし。
そうこうしてる間に能力も失って今じゃただの一般人だ。
「若いのに大変なお仕事をしてるあなたの方がすごいと思うよ」
「偉大な先輩方に比べたら全然たいした人間ではありませんよ」
そんな風に和やかにお話をしていると、車は街はずれの研究所に到着した。
※
「はじめまして、ミス・スプリング! 会えて嬉しいです!」
研究所の応接室で私を出迎えたのは金髪の外国人の男の子だった。
しかも忘れたい名前で覚えられてるのはなんで!?
「そ、その呼び方は恥ずかしいからやめて欲しいかな……」
「アリス博士からの推薦と聞いて楽しみにしていました。『天使』に最も近い素質を持つと言われた女性ミス・スプリング。あなたなら必ず我々の期待に応えてくれると信じています!」
「ミス・スプリング……? あなたは大島春陽という名前のはずじゃ……」
「瑠那くんも詮索しないでっ!」
金髪の男の子はにっこにこ笑顔で握手を求めてくる。
無視するのも悪いので私は仕方なくそっと手を握り返した。
ところで、この子はどうやらあの学園鬼ごっこの時のマークくんの子供らしい。
詳しい事情は知らないけど今はアリスさんの助手として働いてるそう。
あれからずいぶん長い時間が流れたんだなあって実感する。
「それで私はここで何をすればいいの? もうJOYは使えないんだけど」
「難しいことは求めません。ただ適性検査を受けていただいて、その結果が良ければ我々の開発した変身アイテムを使ってもらいます」
へ、変身アイテム?
「適性がないってわかったらどうなるの?」
「残念ですがお引き取り願うことになると思います。ほぼ確実に死ぬことを覚悟でぶっつけ本番を試してもらうこともできますが」
「ほぼ確実に死ぬ!?」
そういえばジョイストーンも適性のない人が使えば死ぬかもしれない恐ろしい道具だった。
L.N.T.ではまず素質を見るためにDリングっていう道具を使っていたことを思い出す。
「お断りすることを前提に詳しく説明をして欲しいんだけど……」
「口頭での説明よりも、まずはこちらをご覧ください」
バジラくんが指を鳴らすと、彼と同じ年くらいの金髪の女の子がやって来た。
彼女は無言でテーブルの上に野球のボールくらいの丸い機械を置く。
「これって、最近よくCMでやってるやつ?」
「はい。輝子人形です」
この機械を稼働させると空中に像が投影される。
ちゃんと意志を持って会話もできる、実態を持たないAIロボットだ。
車一台分くらいの価格だから気軽に買えるものじゃないけど、教育用や高価なオモチャとして結構な人気があるらしい。
「最新型の輝子人形であるこのSWZAM/6は、一度でも稼働させればSHINEを定期補給することで本体の保持を必要としなくなります。本来の開発用途は教育及び子守用ですが、精神同期システムや辞書機能なども備えていて、軍事用のサポートAIとしても十分な性能を備えていると認められました。まずはこれを使ってあなたの適性を調査します」
「テレビで見たことあるけど、魔法の国の妖精さんみたいなやつだよね」
「おや?」
「あっ……」
幼稚な例えをして呆れられたかと思って私は慌てて口を閉じた。
バジラくんは興味深そうに私の顔を見てしきりに頷いている。
「さすがに勘の鋭いお人だ。適正調査方法や、変身後にできること、やってもらいたいことはすべてその輝子人形にインプットしてありますので、起動後は彼女の指示に従ってください。あたかも選ばれた少女が魔法の国の妖精に従うようにね」
「えっと、あの……?」
「それでは変身アイテムをお渡しします」
バジラくんは足元に置いてあったトランクをテーブルの上に移動させる。
厳重に鍵がかかったそれを開けると、中身は意外というか予想通りというか、
「クロスディスター同様のリング型ではなく、より高性能なSHINE変換装置を搭載可能なスティック型を採用しました。理論上は現状最強であるジェイドとも互角以上に戦えるはずです。あるいは『魔人』や『上海の棟梁』に対しても有効な……」
先端にピンクの大きなハートがついた、魔法のステッキだった。




