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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第十六話 クリムゾンアゼリア
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5 内憂外患

 瑠那は暇を持て余していた。


 父親であり上役でもある速海駿也から自宅待機を命じられ、はや三日。

 十一階層にある実家に戻って久しぶりに母の顔を見た時は目じりに涙も浮かんだものだ。


 しかし現在はあくまで任務中の待機状態。

 己を厳しく律しなければならないが、ここにウォーリアとしての仕事は何もなく、退屈が続けば気も緩んでしまう。

 このままではいけないと思って一日の半分は庭で槍の稽古を行っているが……


「瑠那ちゃーん。お昼ご飯よー」


 母親というものはいつまでたっても息子を子ども扱いしてくるようだ。

 せめてちゃん付けはやめて欲しいが、文句も言えない瑠那は苦笑いをした。


「いま行きます! ……クロスチャージ」


 召喚武器の槍を消して状態リセットを行う。

 風呂に入らずとも汗と汚れが綺麗になるのは日常生活でも便利だった。




   ※


「輝きの術だか魔法だか知らないけど、あれを使えば誰でも能力が使えるようになってことか」


 ジョイストーンのような個別利用の道具ではない。

 周囲の人間すべてに魔法のような力を使えるようにしてしまう宝石。

 あの超々高密度SHINE結晶体という物質は使いようによっては非常に危険なものである。


「誰でもってわけじゃないわ。たぶんあなたでは無理よ。私もダメだったわ」

「ジョイストーンみたいに年齢制限があるのか?」

「年齢ではなく適正の問題ね。受容体……つまり使用者の脳と体に相応の素質がなきゃ使えないという結論になったわ。ただし適応者の()()は可能よ」


 年若い子供を使っていたのは年齢上の理由があるのだと思ったが、現実はもっと胸糞が悪かった。


「薬物投与とか人体改造でもやってんのか」

「そこまで露骨に酷いことはしていないわ。ただ常識が定まる前の幼い子供に専門の教育を施しているというだけよ」

「そんな風に作ったガキ共をどこの戦場に投入しようってんだ」


 さっきのあれを見る限り、たいした力でもない。

 ジョイストーンやNDリング無しで能力を使えるのは画期的だが、所詮はそれだけの話だ。

 数を集めたとしても戦力としては並のウォーリア以下だろう。


「戦いになんて使わないわ。『使徒』の子どもたちはその名の通り、迷える民を導く役目を持つ者たちなんですから」

「具体的に説明しろよ」


 アオイはもったいぶった喋り方で相手を混乱させて楽しむ節がある。

 そんなところも速海がこの女を気に入らない理由であった。


「上役の『天使』からして不仲のはずの管理局と研究所が、わざわざ手を組んであんな意味不明なモノを開発する理由は――」

「いい加減にしなさい、速海駿也」


 アオイは低い声で速海の詰問を遮る。

 周囲の気温が急激に下がったような錯覚に見舞われる。


()()()である貴方にこれ以上の説明をする義理はないわ。わざわざここを見せてあげたのも、管理局からの警告だということがまだわからないのかしら」

「警告だと」


 アオイは凍り付くような目で速海を見る。

 速海は顔をそらして彼女と視線を合わせることを避けた。


「管理局と研究所は利権を争うこともあるわ。けれど本質的にはどちらも紅武凰国の発展を目的とした機関。片方を利用してもう片方の力を削ごうなんて考えても無駄よ。ましてや外様のウォーリアごときが調子に乗るものじゃないわ」


 この女は速海の真意を見抜いている。

 ひょっとしたら、その裏にある国家への反抗の意思も。


「……ずいぶん言いたい放題に言ってくれるじゃねえか」


 しかし脅しに気後れする速海ではない。

 踏んだ場数はこちらの方が上なのだ。


「それで、あんたはオレをどうするつもりだ」

「貴方が何もしなければ私たちも何もしない。大人しく息子共々ウォーリアの分限を守って東京へ帰りなさい。研究所が作ったオモチャは管理局が預かっておく。クリスタから来た子たちもあなたには渡さないわ」


 速海は思考を巡らせた。

 ここで突っぱねれば、この場で一戦交えることになるかもしれない。

 氷を操るこの女は速海にとってかなり相性が悪い。


 それでもコイツだけなら何とでもなる。

 だが管理局を統括する『天使』には逆立ちしても絶対に敵わない。

 最終的には無意味な抵抗の後に無駄死にをするだけだ。


 そしてこいつらは瑠那の存在も掴んでいる。

 最悪、息子や妻にも危害が及ぶかもしれない。


「……ちっ」


 悔しいがここは引くしかなかった。

 研究所との縁も切らざるを得ないだろう。


 速海はアオイとにらみ合ったまま大きく後ろに跳んだ。

 背中を見せた瞬間に氷の刃で刺し殺されないよう素早く離脱する。

 制止する警備員の脇をすり抜けてホールから脱出し、その足で速海は駅まで駆けた。




   ※


「ふん……」


 アオイは息を吐いた。

 さすがはL.N.T.の生き残りというべきか。

 可能ならこの場で暗殺するつもりだったが、さすがに簡単な相手ではない。

 内藤清次から奪ったアオイの能力を知っている速海は最後まで絶対に目を合わせようとしなかった。


 管理局と研究所がいがみ合っているのは事実である。

 だから速海がそこに目をつけたのは決して間違いではない。

 しかしアオイは目的達成のためなら何でもする女だった。


 上役の『天使』に無断でアリスと話をつけて協力を確約。

 理論上の物質でしかなかったSHINE結晶体の精製に成功した。


 どうせ第四天使は結果さえついて来れば過程にはこだわらない。

 宥めすかしつつ地道に少しずつ有利な状況を積み重ねていくつもりだ。


「本気で国家に敵対する気なら、短絡的な結果ばかり求めてちゃダメよ?」


 まあ速海駿也ごとき放っておいても問題ない。

 それよりも彼女の障害となりうる要素は他にある。


 そのうちのひとつ、最大の障害だったショウは管理局とウォーリアが協力して排除に成功。

 現在その身柄は厳重に封印を施して管理局が預かっている。


 残る大きな脅威は二つ。

 最強のウォーリアである星野空人。

 速海の同僚であり逸脱者(ステージ1) の資格を持つ危険な男だ。


 L.N.T.の生き残りとして脳改造を受けた国家に従順な兵士だったはずだが、いくつかの調査からすでに洗脳は解けている可能性が高いと目されている。

 速海の今回の行動もいつか起こす反乱を見据えたものと見て間違いないだろう。


 管理局、研究所、軍、そしてウォーリア。

 紅武凰国内部の水面下での内輪もめはしばらく止むことはない。


 国の外にも問題は多い。

 クリスタ共和国が生み出したクロスディスターという人間兵器。

 ウォーリアの戦場管理が弱まったことにより急速に連携を取りつつある大陸の三大連合。

 そして最後の脅威、ショウを捕らえた今、紅武凰国最大最強の敵……荏原新九郎。


「まったく、問題は山積みね」


 アオイは先の苦労を思って深く息を吐いた。

 しかしその顔はどこか現状を楽しんでいるようでもあった。

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