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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第十三話 反紅武凰国地下組織
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5 反紅武凰国地下組織

 マコトはエビナコミューンを西方へと逃げていく。

 すぐに相模川を縦に割るように建てられた巨大な街壁が見えた。

 コミューン間の境界であるその町壁を越えて隣のアツギコミューンへ入る。


 紅葉はマコトを追いかけてエビナコミューンを出た。

 壁を越えた瞬間の待ち伏せを警戒したが予想した攻撃はなかった。

 向こう側にあるのはこちら側と同じく自由を奪われた別の三等国民地域である。


 このアツギコミューンは東側に住宅街、西側に工場地帯があるインダストリアルコミューンである。

 さらに西に行けば小規模な農地があって山中には手付かずの森林も残る。


 マコトが向かったのはコミューン最西部の森林地帯だった。

 さらに隣のキヨカワコミューンとの境である山中の壁面付近でマコトはついに足を止める。


「この辺りでいいかな」


 マコトは振り返ってそんなセリフを呟く。

 紅葉は罠を警戒した。

 何故かRACはこの男を脅威と認識してくれない。

 しかし紅葉自身の直感がこの場にいるマコト以外の存在を確かに察知している。


「何がしたいんだお前は」


 紅葉はそこで初めて目の前の敵に問いかけた。

 ウォーリア・マコトは肩をすくめて溜息を吐く。


「こっちは最初から話し合おうって言ってんのに、お前が聞く耳を持たなかったんだろ」


 そう言って彼は腕に嵌められたリングを片方を外す。

 ウォーリアの力の源であるNDリングではない。

 直後、目の前の男から直前まではなかった強い力を感じ取れるようになった。


「クロスディスターのRACを誤魔化す装置だ。な? 俺が敵じゃないってわかるだろ?」


 しかし反面、紅葉のRACは彼を脅威とはみなしていない。

 マコトにまったく敵意がないのだ。


「お前はウォーリアじゃないのか?」

「ウォーリアだよ。別に紅武凰国に忠誠は誓っちゃいないけどな……おい、出てきていいぞ」


 彼が手を叩くと、木陰から二人の男が姿を現した。

 どちらも歴戦の戦士を思わせる険しい顔の壮年男性だった。

 片方は時代劇の浪人のような総髪、もう片方は浅黒い肌の筋骨隆々の男である。


「この少年がクロスディスターか」

「年若い……まだ子どもではないか」

「先に自己紹介しろって。疑われてんだからさ」


 どちらも紅葉に対する敵意がないのはわかる。

 ウォーリアの証であるNDリングも持っていない。

 だが、彼らは一体……?


「俺はタケハ。反紅武凰国組織『ニューアルコ』の長である」

「同じくケンセイだ」

「反紅武凰国組織……!」


 紅武凰国に反抗する地下組織。

 彼らは紅葉が探していた者たちなのか。


「貴公が我々への接触を試みていたことは知っていた。だが信用に足る人物か判別ができなかったため、これまで様子を見ていたのだ」

「マジで敵に居所がバレたら終わるからな」


 色黒筋肉男タケハの説明をマコトが補足する。

 彼らの間には気心の知れた者同士の空気が流れている。


「地下組織のスパイとしてウォーリアをやっているのか」

「そんなところだ。こいつらとはガキの頃からのダチなんだよ」

「そちらの人たちが騙されている可能性は?」

「ない」


 紅武凰国は人の記憶を操る。

 友人だとしても時を置けば信用できるとは限らない。

 だがタケハは紅葉の懸念をはっきりと否定した。


「マコトが洗脳を受けて本当に寝返る可能性は常に想定している。我々は最大限の注意を払って定期的に互いの正気を確認し続けているのだ」

「それにこうして我らがまだ生きているのが何よりの証拠」

「自分たちで言うのもなんだけど、わざわざ泳がされる理由もないしな」


 三人の男たちは顔を見合わせて自嘲的な笑みを浮かべた。

 何やら想定していた地下組織と随分と違う。

 紅葉は彼らのやり取りを見て少し不安になった。




   ※


「我らは少数精鋭。故に紅武凰国に見つかることなくこれまで活動を続けて来られた」


 タケハはそう語ったが、ハッキリと指摘するなら物は言いようである。

 神奈川西部を拠点に活動している反紅武凰国組織。

 その構成人員は以下の通り。


 リーダーを務める色黒の筋肉男、タケハ。

 ウォーリアにしてスパイ、マコト。

 物静かな剣士、ケンセイ


 以上三名である。


「本当はもっと大勢いたんだけど、大半の仲間は潜入中に本当に紅武凰国側に転身するか、地下暮らしは嫌だって言ってロシアに渡っちまった」


 これでは組織と呼べるかどうかも怪しい。

 たとえ彼ら全員が上位のウォーリアに匹敵する力を持っていたとしてもだ。

 たった三人の組織なんて紅武凰国にとって脅威にもならないだろう。


「東京のウォーリア部隊を壊滅させたというのは貴方たちじゃないのか?」

「そいつらの情報は聞いてるけど俺たちとは関係ない……って、どこに行くんだよ」


 背を向けて立ち去ろうとすると、マコトが慌てて紅葉の肩を掴んだ。


「悪いが、これなら一人で行動してた方がマシだ」

「アジトの場所まで教えたんだ。協力を確約してもらえなきゃ帰せないぜ」


 面倒な奴らに捕まってしまった。

 組織とも呼べないような自称・反紅武凰国の地下ゲリラ集団。

 アツギコミューン山中にある小さな隠れ家で、当ての外れてしまった紅葉は深い溜息を吐いた。

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