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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第十三話 反紅武凰国地下組織
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2 カーネリアン出現

 背筋がゾッとするような悪寒に、瑠那はとっさに反応し顔を上げた。

 体育館の中二階にある開いたままの窓際に誰かが立っている。


 そいつは一言でいえば、赤い。

 長い髪は左右で二つに纏められ足元に届くほど。

 真っ赤な衣装は一見すると忍者風だが、どこかアニメのキャラを思わせるデザイン。


 逆光で顔はよく見えない。

 だが、間違いなく瑠那の探していた人物だ。


「赤いクロスディスター!」


 出現率が最も低く、闇に浮かぶようにわずかな目撃情報だけが残る赤いクロスディスター。

 ディスターカーネリアン。


 瑠那は即座に武器を召喚した。

 自分の身長ほどもある長槍が虚空より出現する。


 額を汗が伝う。

 ハクシュウを前にした時にも似た緊張感。

 あいつは間違いなく並のウォーリアよりもずっと手強い敵だと確信できる。


「降りてこい!」


 気合い負けしないよう大声で叫ぶ。

 しかしカーネリアンはこちらの言葉を無視し、窓の外へと飛び出した。


「待てっ!」


 瑠那はカーネリアンを追いかけた。

 奴を捕縛、もしくは打倒すれば任務は終了だ。

 このチャンスを逃すわけにはいかない、そんな焦りが油断に繋がった。


 一足飛びで中二階に飛び移る。

 さらにそこから窓の外へ向かって飛ぶ。

 瞬間、先ほどに倍する悪寒が下から沸き上がった。


「がっ!?」


 とっさに身を捻るが遅かった。

 右膝を奇妙な感覚が通り抜けていく。


 真下に視線を向けて、最初に目にしたのは宙に舞う自分の足。

 夕日を照らして輝く刃とそれを握るカーネリアンの姿。

 痛みを認識したのはその後だった。


 両手にそれぞれ小太刀を持つカーネリアン。

 奴は瑠那の右足を切断した方と逆の刃を突き出してくる。


 今度は正確に喉を狙ってきた。

 反射的に左腕を犠牲にガードをする。

 冷静に槍を構えて弾く余裕などなかった。


 刃は軍服衣装の袖を易々と切り裂いて左腕を貫通する。

 だがおかげで狙いは逸れ、ギリギリで喉を守ることに成功した。


「クロスチャージッ!」


 全力で叫びつつ左足でカーネリアンの肩を蹴って距離を取る。

 そのままくるくると回転しながら体育館裏の茂みに降り立った。

 すでに切断された足も元通りになっており左腕の傷も塞がっている。


 どんなダメージを受けようがチャージさえすればベストコンディションに戻る。

 痛みも疲労も空腹すらも周囲のSHINEを吸収して回復する。

 RACと並ぶクロスディスターの特徴である。


 一見すると無敵の能力だが、弱点は声を出さなければチャージができないことだ。

 カーネリアンは明らかにそれを知った上で迷わず喉を狙ってきた。

 初太刀で足を斬り落とされパニックに陥っていたら間違いなく命はなかっただろう。


 脚を斬られたのは致命的な油断があったからだ。

 RACはしっかり警告を発していた。

 功を焦って警告を無視して突っ込んだ結果がこのザマだ。

 相手は自分と同じクロスディスター、決して油断できる相手ではないのに。


「……」


 カーネリアンはフェンスの上に立っていた。

 顔の半分を赤いマフラーで覆って容貌はよくわからない。

 すでに彼我の距離はかなり離れており、瑠那は黙って敵を睨み上げた。


 十秒ほど無言の睨み合いが続く。

 カーネリアンはふいにこちらに背を向けた。

 そのまま奴はフェンスの上を走ってどこかへと逃げていく。


「っ、逃がすか!」


 瑠那はフェンスに飛び乗ると、カーネリアンと同様にその上を走る。


「うわっ!」


 だが四歩目で足を踏み外してしまった。

 落下しそうになってとっさに手をつき踏み留まる。


「な、なんてバランス感覚だ!」


 フェンスの幅はわずか数センチ。

 この上を足下も見ずに走るのは至難の業である。

 気付けばカーネリアンは端まで到達し学校の外へと飛び出していた。


 噂通りの、赤い忍者。

 そんな表現が奴にはぴったりだと思う。

 だからといってみすみすと逃がすわけにいくか。


 瑠那はフェンスから飛び降りて民家の屋根の上に着地した。

 そこから屋根伝いにカーネリアンを追いかける。

 しかし足は敵の方が格段に早く、距離はどんどん広げられるばかり。

 気付けば視界の中のカーネリアンは豆粒大のサイズになって、やがて見失ってしまった。


 敵の姿はもう見えない。

 RACによる危機感も消失。

 完全に逃げられてしまったようだ。


「くそっ!」


 赤い奴は他のクロスディスターと比べて俊敏性に優れているという報告があった。

 結果だけを見れば今回の対峙は完璧に自分の負けである。

 瑠那は悔しさに奥歯を噛みしめた。




   ※


 体育館に戻ると、すでに七奈の姿はなかった。

 警察ブシーズが後処理をしたのだろうか、さすがに対応が素早い。


 事件として処理されてしまったらもう自分ができることは何もない。

 一抹の寂しさを感じながら、瑠那はせめて彼女が国外追放程度の罰で済むように願った。


 更衣室で髪を切り、黒染めを施して予備の制服に着替える。

 クロスチャージは行うたびに着ている服がなくなってしまうのが欠点だ。

 衣装も際限なく増えていくので処理に困る。

 とりあえずビニール袋に詰めてゴミ箱に突っ込んでおいた。


「よう瑠那、いま帰りか?」


 後処理を終えて廊下を歩いていると、窓の外から楓真に声をかけられた。

 体操着姿の彼はどうやらサッカークラブの活動中らしい。


「七奈と同じクラブに入ったんだっけ? 気が変わったらいつでもサッカークラブに来いよ」

「う、うん、考えておく……」

「じゃ!」


 曖昧に返事をしてランニングに戻る楓真に手を振る。


 彼が七奈の名前を覚えていられるのもたぶん今日が最後になる。

 明日には睡眠中の記憶改竄によって彼女の存在はクラスメイトの記憶から無かったことになる。


 自分が来たせいで彼は友人を一人失ったのだろうか?

 そうではない。

 ルールを破った七奈自身が悪いんだ。

 瑠那は自分の心にそう言い聞かせながら帰路についた。


 PDAの学業モードを解除して拠点のマンションへ向かう。

 途中ですれ違った生徒に挨拶をしなかったことで二回ほど女王に怒られた。


 部屋に戻ると弁当とカップ麺の食べ残しがテーブルの上に置いてあった。

 マコトが来ていたのだろうか。

 せめて片付けくらいはしていって欲しい。

 文句を言える相手ではないので黙って片付けるけれど。


 服を脱いでシャワーを浴びる。

 部屋の中の監視がなくなったのは気分が楽だ。


「はぁ……」


 風呂から上がり、シャツだけを身につけてベッドへうつぶせに倒れ込む。

 戦闘の傷や疲労は完全に回復しているが無性に寂しい気分だった。


 以前はこんな事なかった。

 乱暴な上役とだってそれなりに上手くやってきた。

 大陸で一緒だった先輩たちに比べればマコトはずっとまともな人である。


「琥太郎、今ごろどこにいるんだろ……」


 人知れずに友人の名を呟く。

 初めて同年代の対等な立場の仲間ができた時はすごく嬉しかった。

 長い付き合いにはならなかったし、ぶっきらぼうな男だったけど、真っ直ぐでいい奴だった。


 二等国民から三等国民に落とされたという彼の経歴はここの同級生達と一緒だ。

 琥太郎がここに居たらいろいろと相談に乗ってくれたかもしれない。


 離ればなれになる直前に酷いことを言ってしまったことも謝りたい。

 敵が昔の友人だったと知って戸惑う琥太郎に不満をぶつけてしまった。


「……ふう」


 娯楽もない部屋で特にすることはない。

 まだ早い時間だが瑠那は電気を消して布団を被った。

 暗闇の中で悶々としながら眠りに落ちたのは、それから数時間後だった。

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