3 なんでオレだけ
「さて、琥太郎」
陸玄が牢屋の中の琥太郎に声をかける。
琥太郎は座ったまま反抗的な眼差しで陸玄をにらみ返した。
「朝と同じ質問をするよ。と言ってもたぶん答えは変わらないだろうけど」
「ああ」
小学校卒業の時、琥太郎は遠い町へ転校すると言って翠の前から姿を消した。
しかし実際には三等国民に落とされていたらしい。
東京で何も知らず平和に暮らす二等国民。
それに比べると三等国民に自由は全く与えられない。
紅武凰国の産業基盤を支えるための過酷な労働を強要されていると聞いている。
三等国民に落ちた琥太郎がどんな生活を送っていたのかは知らない。
きっと想像もできないような苦難があったのだろう。
仲間を殺されたとも言っていた。
あんなに良い奴だった琥太郎がクソッタレのウォーリアになってしまうような理由があったのだ。
いいさ、それなら嫌になるまで説得してやる。
あいつらがどれだけふざけた奴らかってことを語ってやる。
オマエが考えを改めるまでな。
決意を新たにする翠の横で、陸玄は琥太郎に勧誘の言葉を投げかけた。
「紅武凰国を捨てて日本のために戦いなよ」
「いいぜ」
「いいのかよ!?」
ばしっ。
思わず木格子を裏拳で叩く翠。
痛む手の甲をさすりながら牢屋の中の元友人を怒鳴りつける。
「オマエ紅武凰国のウォーリアじゃねえのかよ! やむにやまれぬ事情があって敵対してたんじゃねえのかよ!」
「な、仲間になるの、ダメか?」
「ダメじゃねえけど!」
もちろん琥太郎がウォーリアから足を洗ってくれるなら大歓迎だ。
だがあまりにもあっさり過ぎて戸惑っただけである。
「そ、その……この前は酷いこと言ってごめんな。あの時はちょっと気が動転しててさ」
気まずそうな上目遣いで呟くように謝罪の言葉を口にする琥太郎。
その顔には小学生時代の面影が確かにハッキリと残っている。
そんなふうに謝られたらもう強く責めることができない。
「い、いいよ。ってか個人的に争う理由もねえし。事情と経緯は聞かせてもらうけどな」
「と言うことで牢屋からは出すけど、間違っても変な気は起こさないでよ?」
陸玄が牢屋の鍵を外して格子を開ける。
琥太郎はゆっくりと外に出た。
肩の辺りで乱暴に切られたアニメのヒーローを思わせる真っ黄色の髪はクロスディスターに変身した証。
つり目勝ちの勝ち気な眼は小学校時代の面影を残しているが、久しぶりに会った琥太郎はほとんど別人と言っていいほどに変わっていた。
「変わったな、コタ」
「そっちこそ」
視線を交わし合い、気まずい気分で苦笑いをする。
小学校時代の友人が久しぶりに会ったと思ったらお互いにヒーローなんて。
世の中奇妙なこともあるもんだって……
「っていうかスイ、胸になに詰めてんだよ」
ふにょん。
「ひあっ!?」
思わず変な声を出してしまった
翠は慌てて口を押さえる。
琥太郎は手を伸ばした姿のまま固まっていた。
「え? え? あれ、何……?」
「なに何じゃねえよ! 胸を触るな!」
「胸? え?」
触られた翠以上に琥太郎は混乱していた。
彼は自分の手と翠の胸元を交互に見て顔を真っ赤にする。
「え? あれ? スイが女の子になってる……?」
「そうだよ! クロスディスターになったらこうなったんだよ!」
「あれ、君は元から女性じゃないの?」
「違えよ! 変身前は男だ!」
後ろから翠の胸元を覗き込みながら陸玄はぶつぶつと独り言を呟く。
「へえ。変身によって肉体変化生じるとは聞いてたけど、性別まで変化することがあるんだ」
「あ、あんまりマジマジ見るな!」
「ずいぶん恥ずかしがるね。精神的にも女の子になってるの?」
「なってない!」
と、思いたい。
「琥太郎は? 変身して元の身体から変わった?」
「たしかにやけに細くなったけど、性別までは変わってない。ラピスラズリもそうだったぞ」
琥太郎装束の前をはだけて上半身を晒した。
色白で華奢ではあるが、しっかりと筋肉のある男の胸だ。
紅葉が変身したカーネリアンは忍者装束みたいな衣装だった。
今は着ていないが琥太郎ことアンバーは西洋鎧、ラピスラズリとかいう奴は軍服風の服装。
どれもアニメのヒーローみたいだが、よりによって翠だけ女の子向けバトルヒロインに変身してしまったのである。
「なるほど。ジェイドだけ特別な何かがあるのか、それとも開発者の趣味なのかな」
「なんでオレだけが……」
よりによって自分だけがハズレを引いた。
その現実に改めて絶望をする翠だった。




