8 雨中の激突! ジェイドVSアンバー!
こちらがウォーリアと名乗った途端、明らかに緑色の奴の動きが変わった。
突きが、蹴りが、的確に急所を狙って鋭い攻撃をしてくる。
迸るような殺意がRACをビンビンと刺激する。
こいつは間違いなく並のウォーリアよりも遥かに強い。
この身体になって初めて全力で戦える相手と出会った瞬間だ。
「うらうらうらうらうらぁ!」
琥太郎は歓喜の声を上げながらジェイドの殺意に応える。
防御を考えない拳のラッシュ。
ひたすら相手に致命打を入れるべく攻める。
琥太郎もだが、ジェイドも格闘技術などは皆無に等しいようだ。
というより互いに持っている力が強すぎて、ひたすら殴る方が有効とわかっている。
「ほらほら、どうしたそんなもんかぁ!」
「うるせえ!」
殴り合いを続けながら挑発を繰り返す。
ジェイドはいい感じに頭に血が上っていた。
琥太郎は舌戦で隙を誘っている。
こいつも自分の性質はよく理解しているだろう。
クロスディスター相手に生半可なダメージの蓄積は全く無意味だ。
何故なら、いざとなればクロスチャージで疲労ごとあっという間に全快してしまうから。
狙うのはただ一つ。
最大最強の必殺技を当て、一撃で沈めるだけだ。
琥太郎の最強技クロススマッシュは戦斧を召喚した状態でのみ使える。
だが戦斧を持った状態では機動力が著しく落ちるという欠点もある。
並の相手ならともかくジェイド相手では不利になる可能性が高い。
ギリギリまで素手で応戦。
チャンスを待つ。
しかし。
「くっ……」
攻撃特化だけあって殴り合いではジェイドの方が分があるようだ。
向こうが五回攻撃する間にこちらは三、四回しか反撃できない。
しかし防御力はおそらくこちらの方が高い。
琥太郎は劣勢に立ちながらも相手の攻撃を受けて反撃を続けた。
「このっ、調子に乗んな!」
やがて体力よりも我慢が先に限界に達した。
琥太郎は肩をぶつけるように全力で体当たりを敢行する。
互いの距離が離れ、二人はほとんど同時に左腕を振り上げて叫んだ。
「クロスチャージ!」
「クロスチャージ!」
眩い光と共に互いの体力が全回復する。
びちょ濡れになった鎧も一瞬だけ新品状態になり、改めて降り続ける雨に濡れていく。
同じタイミングで突進。
また殴り合いを再開する。
「ちっ」
これでは埒が開かない。
思い切って勝負に出るべきか?
「おうらっ!」
琥太郎は足を踏み込み、わざと大振りの一撃を放つ。
ジェイドが身を屈め琥太郎の拳は宙を切った。
隙だらけの身体にジェイドの拳が触れる。
打撃ではない。
握り締めた拳をそっと当てただけ。
その瞬間に琥太郎のRACが凄まじい勢いで警鐘を鳴らす。
必殺技が来る。
当たれば一撃で殺されかねない超強力な決め技が。
琥太郎はわずかに身を後ろに逸らすと、戦斧を召還してジェイドと自分の間に差し入れた。
「クロスシュート!」
翠色の光線がジェイドの拳から放たれる。
それは戦斧の腹に突き刺さり、激しい衝撃を伝えてきた。
「うおおおっ!」
まともに食らっていたら相当にヤバかったのは間違いない。
だが武器で受け止めたので後は攻撃が止むまで耐えるだけだ。
ジェイド最大の隙はまさにこの必殺技の後に発生する。
これまで多くのガゼンダーやウォーリアを沈めてきた翠色の光。
この技を放った後には数秒間ほど脱力状態になることが確認されている。
直撃を防いだ時点で琥太郎は勝利を確信した。
が、
「っ!?」
戦斧に亀裂が走る。
ジェイドの必殺技に耐えきれず刃が崩壊を始めたのだ。
やがて戦斧は琥太郎が握っていた柄部分だけを残してバラバラに砕け散った。
わずかに残った光の奔流が琥太郎の無防備な腹へ突き刺さる。
鋼鉄よりも頑丈なアンバーの鎧が音を立て破砕される。
「……がっ!」
琥太郎はとっさに後ろに飛んだ。
衝撃を殺しつつ倒れて地面を転げまわる。
前後の感覚が一瞬わからなくなる。
激しい激痛の中、ほとんど反射的に叫んだ。
「くっ……クロスチャージっ!」
痛みが消える。
腹の傷が塞がって鎧も元通りになる。
危なかった。
もう少しチャージが遅れていたら。
あるいはジェイドが素早く追撃を行っていたら。
琥太郎は意識を失い、あのまま殺されていたかもしれない。
脱力状態から回復したジェイドが突っ込んできた。
琥太郎は復活した戦斧を振り回して牽制。
強引に間合いを開き仕切り直す。
ジェイドはゆっくりと円を描くように移動しながら隙を窺っていた。
やはり甘い相手ではない。
悔しいが拳での殴り合いではあちらに分がある。
武器なしで戦うのは危険だ。
隙を誘おうとしてやられては元も子もない
こうなれば長期戦を覚悟しつつ、自分の間合いで戦うしかない。
そう琥太郎が思った直後だった。
ジェイドはくるりと背を向けて唐突に走り去った。
「……は? おい、どこ行くんだよ!」
思わず呼びかけるが、ジェイドの動きに迷いはない。
あっという間に街道脇の川を飛び越えて山中へと逃げて行ってしまった。
「琥太郎!」
反対側の民家の屋根から派手な軍服姿の少年が降りてくる。
二人の勝負を見張っていた瑠那ことディスターラピスラズリである。
「敵の技を食らったように見えましたが、大丈夫ですか!?」
「……ああ、そういうことかよ」
「えっ」
ジェイドの必殺技で琥太郎がやられたと思った瑠那が割って入ろうとしたのだろう。
それをRACで感じ取ったジェイドは二対一では分が悪いと思って迷わず逃走を選んだわけだ。
「お前、俺が負けたと思ったんだろ。早とちりしてないでちゃんと見張ってろよな」
「で、でも、琥太郎が倒されたら任務が……」
「その任務のために言ってんだよ。仕方ない、二人で追うぞ」
幸いにも琥太郎のRACはまだジェイドを脅威と見なしている。
奴がどこに逃げようがその位置はおぼろげにわかる。
瑠那も同じ感覚を共有しているだろう。
「うう……っ」
失態を犯したことに気づいて落ち込む瑠那。
彼の頭を軽く小突くと、琥太郎は戦斧を消してジェイドが逃げた方へ向かって跳んだ。
その後を瑠那も追いかける。
こうなったら鬼ごっこだ。
二人がかりなら追い詰めて確実に仕留める。
黄と青のクロスディスターは獲物を狩る獣のように山中を駆けた。




