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CROSS DAYSTAR JADE -Jewel of Youth ep3-  作者: すこみ
第九話 悪のクロスディスター! アンバー&ラピスラズリ!
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10 仕組まれた反乱ごっこ

「突撃、突撃ーっ!」


 反乱鎮圧部隊のブシーズ隊員たちがライフルを手に空港ターミナルに入っていく。

 正式ではないとはいえウォーリアに先制攻撃を加えた上、ガゼンダーまで使われたのだ。

 多少の犠牲や問題が発生しようとも武力による即時鎮圧という解決手段を選ぶのは当然であった。


「くっ……」


 瑠那はこのような結果になってしまったことが悔しいらしい。

 苦々しく顔を歪めながら琥太郎に提案した。


「反乱勢力はまだ何か隠しているかも知れない。ボクも行ってくるよ」


 本音はブシーズ隊員たちがやり過ぎないよう監督したいのだろう。

 こうなった以上は反乱勢力に手心を加える理由もない。


 それでも可能な限り犠牲者の数は減らしたいと思っている。

 老人を助けたときの瑠那からはそんな必死な感じが伝わってきた。


「わかった。こっちは任せろよ」

「はい」


 槍を手に先行するブシーズ隊員を追いかける瑠那。

 彼を見送った琥太郎は残った仕事を終わらせることにした。


「さて、と」


 琥太郎はそこから数歩前に進む。

 そして足を止めて肩に担いだ戦斧を持ち上げた。

 野球のバッターのように両手で柄を握り締め、思いっきり振りかぶる。


「であああああっ!」


 ブロック塀を一撃で破壊する戦斧の全力スイング。

 攻撃半径にあるものはすべて両断もしくは粉砕する。


 琥太郎が斧を振るった場所にはなにもない。

 だが、確かに手応えを感じた。


 目の前の風景の一部が歪む。

 それは人の形を取り、やがて数秒前まではいなかった人物が現れた。

 胸元がざっくりと裂けて血を流した顔色の悪い男が。


「……危なかったよ。もう少し反応するのが遅かったら死んでいたじゃないか」

「殺すつもりだったんだよ」


 それは反乱勢力の代表の中にいた村上という男だった。

 しかし、さっきまでとは顔つきがまるで違う。

 わずかに怒りを湛えた攻撃的な表情。

 彼の目には飢えた狼のようなギラギラした殺気に満ちていた。


「お前は何者だ」


 三等国民が偶然ガゼンダーなんてものを手に入れられるとは思えない。

 あれを上手く使えばコミューンを監視しているブシーズを殲滅することも可能だ。

 奴らが望む通りに壁を破壊して強引に自由を掴むことだってできたはずである。


 だが、奴らはまず最初に交渉という手段を選んだ。

 要求が決して認められない以上、機を逸すれば必ずウォーリアがやってくるのに。


 ウォーリアが派遣されたら鎮圧されるのは時間の問題に決まっている。

 あれだけの兵器を所有していながら、やったのは一時の革命ごっこだ。

 上っ面だけの戦力を預けて扇動した者が必ずいる。

 そして、そいつはガゼンダーを横流しした者であるはずだ。


 三等国民を騙して先導し、治安を乱す者。

 こいつは反乱なんかよりもずっと大きな問題である。


 琥太郎がこの村上という男を怪しいと思ったのは、老人がガゼンダーを呼んだ時に露骨に不快そうな表情を見せたからだ。

 あの状況で突発的にガゼンダーを使った老人に対する不満が顔に出た。

 そんな感じだった。


 しかも反乱勢力代表の人間たちが算を乱して逃げ始めた時、こいつは上手く他人の影に隠れつつ、ふと姿を消した。


 瞬間移動の類いではないのはすぐにわかった。

 ガゼンダーが倒れた後もRACが脅威の残滓を教えていたからだ。

 おそらく透明化の類いだろうと当てをつけ、思いっきり斧を振ってみたのである。

 攻撃は当たらなかったが琥太郎の読みは正解であった。


「逃げられると思うなよ」


 琥太郎は斧を担いで敵との距離を縮める。

 瑠那もこいつの存在には気付いていたはずだ。

 その上で市民たちを優先して琥太郎に後を任せた。


 脅威ではあるが、たいした相手ではない。

 クロスディスターの力があれば間違いなく勝てる程度である。

 ところが、追い詰められたはずの村上はふっと息を吐いて肩をすくめてみせた。


「OK、合格だ。君たちは完璧だよ。まさかここまでできるとは思わなかった」

「何?」

「そんな怖い顔をしないでくれ。殺されそうになって気が立っただけだよ」


 RACが伝える脅威が消える。

 こいつは完全に戦意を失っている。


「俺は君たちと同じウォーリアだ。序列三十六位≪空間擬態トランスパレンター≫のムラカミさ」


 男が左腕の袖を捲ると、そこには見慣れたNDリングがあった。

 紛れもなく本物のウォーリアの証である。

 透明化は固有能力だったのか。


「どういうことだ。なんでウォーリアが市民の反乱に混ざってるんだ」

「裏切りとかじゃないから安心してね。俺は心から国家に忠誠を誓っている忠実な兵士さ。今回の任務は国民のガス抜きと君たちの試験監督なんだよ」

「……ああ、なるほど」


 琥太郎はすぐに理解した。

 つまりこの反乱はすべて茶番だったわけだ。


「娯楽を与えているとはいえ、やっぱり狭いコミューンに閉じ込めっぱなしだと不満が出るんだよね。だから本当に暴発する前にこうやって適度に反乱ごっこを楽しませてあげるんだ。そして反乱を起こした事実とその末路を風の噂に乗せてで近隣のコミューンに流すって寸法さ」


 三等国民の生活は窮屈だが平和である。

 狭い空間の中に閉じ込められていると現実に対する想像力の欠如が起こる。


 本気になれば何ができるんじゃないか。

 自分たちは何かを成せるんじゃないか。

 そんな風に考えてしまう。

 東京への密入を計画した琥太郎たちもそうだった。


 その勘違いの結果が何をもたらすか。

 恐ろしい結末になると知っていれば危険は冒さない。

 あの時、琥太郎だって仲間の命を失う可能性を本気で考えていたら、あんな無茶な計画には参加しなかったはずだ。


「この反乱は最初から鎮圧される予定で、あいつらは処刑されるための生贄に選ばれたんだな」

「人柱は必要だからね。誰もやりたがらないからこっちで選ぶしかないじゃないか」

「俺たちが来たせいであいつらは殺されるのか」

「それはたまたまだって。反乱扇動のついでに君たちのテストをするように中央から追加で命令を受けただけ。反乱市民に肆式を使わせてもいいって言われた時は驚いたけどね。俺でもあれは止められるかわからないからさ。よほど期待されてるんだね、君たちは」

「そんなことはどうでもいい」


 結局、この国の民には自由なんかない。

 反乱ですら作られた予定調和のシナリオなのだ。

 力では決して壊せない巨大なシステムがあって、自分たちはその中の歯車の一つに過ぎない。


「うおおおおおおっ!」


 琥太郎は咆哮と共に戦斧を頭上に掲げた。

 そして腸で煮えたぎる怒りを暴力に変えて解き放つ。


「クロススマッシュ!」


 地面に叩きつけられた戦斧が地面に激しい亀裂を作る。

 それはさっきガゼンダーが作った裂け目を飲み込み、十数メートルに及ぶ破壊をアスファルトの大地に穿った。


「おおーっ」


 ムラカミが感嘆の声を上げる。

 地面の裂け目が自分を除けて背後まで届いているのに暢気な様子だ。

 正体を明かした今、この力が自分に向けられるかもしれないとは微塵も考えていないのだろう。


 そして、それはその通りである。

 こんな力を持っていても、琥太郎は紅武凰国に反旗を翻すことなどできはしない。

 歯向かったところで本当の意味での自由は絶対に手に入らない。


 ならば、この紅武凰国という限られた枠の中で可能な限り上位を目指してやる。

 束縛されるのではなく、束縛する側になるために。


 銃撃の音が鳴り響く空港ターミナルに背を向けて琥太郎は歩き出した。

 遙か遠くの雲の隙間に、天を貫くクリムゾンアゼリアの威容がうっすらと見えていた。

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