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第九話・伯爵令嬢と子爵令息(前編)

投稿が遅くなりました。

本日は、続けて次話も投稿します。

「あれ?サビーナさま?」


不意に声をかけられ顔を上げると、そこにいたのはジェームズ=リボウ子爵令息。

いつも険しい表情を崩さない彼は、マシューの学園に入ってからの親友で、現在男ミネ部の副主将をしている方です。

その関係で、わたくしも愛称で呼ばせて貰うこととなった人。


「ジム…?」


「どうしたんです、こんなところで。練習は?」


「あの…ちょっと調子が悪くて。帰らされてしまったの」


「大丈夫ですか?お送りしましょうか?」


「いいえ、大丈夫ですわ」


「こんな暗いところに独りでいては駄目ですよ」


警備の方がいるから大丈夫と言うわたくしの隣に、それでも心配だからと腰をかけるジムは、何か書類の入っていそうな封筒を抱えていて。


「ジム、おつかい?」


通常、貴族の令息が使い走りなどをすることはありません。

けれど、学園に所属している間は、部活動で必要なものなどは部員が自ら調達します。

そこに身分は関係なく、備品などは必要な人が必要な時に部費で購入しますし、書類の遣り取りも部員が行います。

けれど、それは殆ど庶務担当の仕事で。


「うん。今日も庶務担当がマシューの付き添いで治療院だから」


今日も…。

マシューは、ビアちゃんと一緒…。


「ふ…っ…ぅえ…」


どうしよう。

もう、止まりません。

こんな感情、要りませんでした。

知りたくありませんでした。


「え、ちょ、サビーナさま?!」


ジムが驚いています。

そうですわよね、急に泣かれたら、困りますわよね。

でも、今のわたくしには、ジムを気遣う余裕などありませんから。


タオルもハンカチも鞄の中…。

こんな汚い顔、見せられません。

両手で顔を隠し、俯きます。


「あ、の。これ、タオル、使ってください…。新品だから、汚くないし」


差し出されたタオルを、無言で受け取ります。

顔を見られないように、全体をタオルで覆いました。

ジムは一応、気を使って目を逸らしてくれてはいるけれど、こんなところに女の子を独りで放ってはおけないみたいで、そのまま隣に座ってくれています。


「ごめんなさい。ちょっと今日わたくし、ミスが多くてすごく叱られたから、凹んでいたの。もう、大丈夫ですわ…」


顔を上げずにそう言うと、ジムはふぅっと溜め息をつきました。


「それだけ?」


え…?


「サビーナさま、隠すのが上手いから気付かなかったけど、相当精神的重圧感じてるでしょ」


精神的重圧…。

感じているわ、色々。

主将ですもの。

でも、ビアちゃんが来てからは…。


「駄目ですわよね、主将なのに、こんなに弱くては」


ぐすっと鼻をすすりながら答えます。

ああ、恥ずかしい。


「ひとりで抱え込むからですよ。マシューにも相談していないでしょ」


「どうしてマシュー?六連覇がかかってるマシューに、いくら幼馴染みでも頼れないわ」


思わず顔を上げると、ジムは吃驚したような顔で。

ああ、やはりこんな汚い泣き顔、見せては駄目でした。


「あ、いや、あれ?幼馴染み?…えっと、サビーナさまって、マシューと婚約してるんじゃ?」


「えっ?!え、何故?」


「いや、だって…」


「もしかして、男ミネにもそんなデマが流れているの?女ミネの庶務担当が勝手に言っているだけですわよ?」


「え、そうなんですか?」


「マシューの耳にも入ってるのかしら…迷惑ですわよね、大事な時期なのに…」


「や、それは大丈夫…」


「良かったですわ。マシューの邪魔にはなりたくないから」


視線を足元に落とします。

ジムは、何か考えていたようだけれど、(おもむろ)に口を開きました。



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