第七話・伯爵令嬢、責められる
クリスと別れて、迎えの馬車で家路を急ぎます。
いつもより一時間遅くなってしまいました。
マシューの家、ネイスミス侯爵邸の門が見える位置まで来た時、家の前に人影を見止めました。
王都内で運用されている乗合馬車から降りてきたのは、マシューと、―――ビアちゃん?
何故?
ビアちゃんの家は、反対方向だと…。
どうして、ふたりで?
頭の中が、ぐるぐるして、訳が分からなくなってしまいます。
わたくしに気付かず、マシューはビアちゃんに手を振って敷地に入ります。
振り向いたビアちゃんが、わたくしの家紋のついた馬車に気付きました。
位の低い者からの声掛けは規則違反。
だからビアちゃんはわたくしに気付いても頭を下げるだけ。
このまま無視して行く訳にもいかず、馬車を停めて声をかけます。
「こんばんは」
「こんばんは。随分、遅いお帰りですね」
「ええ、副主将と少し、話をしていて…」
少しトゲのある言い方―――と感じてしまったのは、穿ち過ぎでしょうか。
「あの、ビアちゃんはどうしてここへ?」
疑問を投げ掛けると、今度は少しどころか明らかに侮蔑の視線で貫かれてしまいました。
「マシューさまの婚約者なのに、ご存じないのですか?」
え?
「え…婚約者ではありませんわ…」
「そんなこと、どうでも良いです。いちばん近くにいらっしゃるのに、お気付きでないのですか、と申しているのです」
いちばんって。
いちばん近くにいるのは、ビアちゃんではないの。
わたくしなど、近寄れないでしょう。
「どういう…こと?」
「マシューさま、膝の具合がお悪いのです」
「え…」
確かに、そんな話をしていました。
成長痛だけれどね…と笑っていらしたけれど、そんなに酷いのでしょうか?
「今日は練習を途中で切り上げて、治療院に行ったのです。状況を監督に報告しなくてはいけませんけれど、みなさまは練習があるからわたしが代表して付き添いで。別段深刻な状況ではありませんが、わたしが肩をお貸しして、ここまでお送りしました」
そう…でしたの…。
練習中ふたりを見るのが辛いから、なるべく見ないようにしていたのです。
途中でふたりが抜けたのなんて、ちっとも気付きませんでした。
どうして、わたくしが責められているのでしょう。
「正直、サビーナさまには失望しました」
どうして?
どうしてビアちゃんはこんなにわたくしを責めるの?
「最近のサビーナさま、おかしいです。プレーに精彩はないし、どこか上の空だし」
それは、否定できません。
マシューとビアちゃんのことが気になっていたから。
主将として恥ずかしいと、思っています。
でも、ビアちゃんには、言われたくありませんでした。
「わたしとマシューさまのこと、気にしているのかもしれませんけれど、しっかりしてください。貴女は女ミネの主将なのですよ」
「そんなこと、ないわ。ふたりのこと、気にしてなどいないから」
「そうですか」
「精彩を欠いていたのは、申し訳ないと思っていますわ。でも、自分で分かっていますし、改善するつもりですから、ビアちゃんは心配しないで頂戴」
ビアちゃんは何か言いたそうだったけれど、それ以上は何も言いませんでした。
「安心しました。明日の準々決勝、期待しています」
ビアちゃんはそう言って一度頭を下げた後、マシューと共に乗ってきてマシューを降ろした後停まったままの乗合馬車に、再び乗り込みその場から立ち去りました。
なんなの…。
涙が、溢れてきました。
わたくしのミントネット自体を、侮蔑されたような気がして。
しかもそれは自分自身の自業自得から来ていたから、救いようがありませんでした。
【王都内で運用されている乗合馬車】
タクシーのようなものだとお考え下さい。
誤字などありましたら教えてください。
ポイントなどを頂けると喜びます。
更新時間について、ご希望がありましたらお知らせください。




