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第五話・伯爵令嬢の恋心

マシューと向かい合って馬車に揺られる帰り道。

練習のある日は自分の家の馬車で帰るから、月に二回の部会のある日は、マシューと一緒にふたりで帰れる貴重な時間。


ガタンッ!


「きゃっ」


不意に馬車が大きく跳ね、前方へ放り出されるように倒れ込んだわたくしを、マシューが抱きしめるように支えてくれました。


「危なっ!」


マシューが驚いたような声を発したけれども、わたくしの方はそれどころではないくらい動揺してしまって。


「すみません、石に乗り上げてしまったようで…」


御者が申し訳なさそうな声をかけ、馬車の速度を緩めます。

マシューはわたくしを抱き留めたまま向かいから横へと腰を移し、並んで座ってわたくしの肩―――というか二の腕の辺りを抱いて、前のめりになったわたくしの躰を起こしてくれました。


「大丈夫?どこも怪我はしていない?」


と言って、マシューが微笑みます。


「ええ、大丈夫ですわ、ありがとう」


マシューの手が離れると、急にドキドキが襲ってきました。

ぷにぷにした腕を、触られてしまいました。

恥ずかしい。

痩身をしなくては。


「ね、ビーナ?やっぱり今日、なんか変だよ?俺が聞いていいことなら聞くし、駄目ならクリスに話すとか…。とにかく、独りで抱え込んじゃ、駄目だよ?」


マシュー…。

なんだか今日は、頭の中がぐちゃぐちゃで、全然纏まらないの。


不安気にマシューの顔を見上げると、ん?と見返してくれます。

やっぱり、好きですわ。


「大丈夫ですわ。マシューがいてくれるから、頑張れます」


「もっと頼って良いんだよ?幼馴染みなんだし」


ツキンっ。


あ、また。

胸が痛いです。


「ええ。ありがとう」


幼馴染み。


結局わたくしは、マシューにとってはただの幼馴染みでしかないのです。

多分、兄妹(きょうだい)のように育ってきてしまったから、この先も恋愛感情なんて持っては貰えないのでしょう。

このまま、マシューが誰か別の人と恋に落ちるのを近くで応援するのは、わたくしには到底できそうにありません。


早い内に、今の内に、マシューから離れた方が良いのかもしれません。

自分のためにも、マシューのためにも。



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