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第四話・伯爵令嬢の孤独

女ミネの部室に入ると、中には誰もいなくて。


「無用心ですわね…鍵もかけないで」


誰か待っていてくれるかと思っていたのに、拍子抜け。


考えてみれば、女ミネはそこそこ全体的に仲は良いけれど、何も気にせずに話ができるのは、長年の付き合いのクリス―――クリスティン=グラサフィーリョ伯爵令嬢だけ。

そのクリスも、今日は部会で練習がないから、部会の後は婚約者の所に行くと言っていたのでした。


…駄目だわ。

ここにいては、孤独感に押し潰されそう。


主将としてのわたくしは求められていても、友達として求めてくれる人は意外と少なくて。

好きとか憧れているとかの言葉で濁して、みなさまわたくしとは一線を引いた付き合いしかしてはくれないのです。

生真面目で綺麗事しか言わないから面白くない―――と、面と向かって言われたこともあります。


さっき、マシューとビアちゃんが一緒にいるところを見て、確信しました。

大丈夫ではなかったのです。

全然大丈夫なんかではないのです。


そういう気持ちを隠して、大丈夫って取り繕うから、駄目なのね。

わたくしのそういうところをみなさまは分かっているから、親身になってはくれないのでしょう。

みなさまに一線を引かせてるのは、わたくしのせいなのです。

でも、今更それが分かったところで、どうしようもないですし。


うだうだと考えていると、部室のドアをノックする音。


「はい」


開けてみると、そこにはマシューと、―――ビアちゃん。

胸がツキンっとしました。


「ビーナ、もう帰れる?」


「え…ええ、帰れますわ」


この遣り取りは、部会の日にだけの楽しみでした。


初めての部会に参加した日、普段の部活動とは終了時間が違うし日によってまちまちであると聞いていたため、家からの迎えの馬車をどうしようか迷っていました。

早めに来て待っていて貰うか、終わってから連絡して迎えに来て貰うか、学園の通学用乗合馬車を利用させて貰うか。

結局、迎えには来て貰わず、終了時間によってどうするか決めようと思っていたのです。


そうした所へマシューが声を掛けてくれ、 


「迎えは来ている?もしまだなら、暗くなったし迎えの馬車を待つのも危険だから、うちの馬車で一緒に帰ろう?送るよ」


と言ってくれたのです。


それ以来、部会の日にはいつもマシューが一緒に帰ってくれています。

元々領地が隣の幼馴染みで、王都での屋敷も隣同士だからできることなのです。


「あれ?」


マシューは突然、わたくしの目元を右手で拭いました。


「もしかして、泣いてた?」


「え…」


え、涙が、出ていたのでしょうか?


「いいえ、目に何か入っただけですわ」


そんな嘘もマシューは信じてくれますけれど、ビアちゃんには見透かされているようで居心地が悪いです。

一緒に帰ろうって、ビアちゃんも一緒でしょうか。

女の子ひとりですし。


「あ、あの、ビアちゃんは、お家はどちらですの?」


「わたしはおふたりとは逆なので、ここで失礼します」


「えっ?でも女の子ひとりですし、危ないですわ」


「サビーナさまだって、マシューさまが迎えに来られなかったら、おひとりでお帰りになるつもりだったのでしょう?大丈夫ですよ」


練習のある日はもっと遅いのだし…とビアちゃんは続けました。


わたくしはまた、綺麗事を言ってしまったみたい。

本当はマシューとふたりきりが良いのに、良い人のふりをして。


「じゃ、早く帰ろう」


部室の施錠を済ませ、部室棟から外へ出ると、曇っているのか星も月も見えませんでした。



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