第三話・伯爵令嬢と男爵令嬢
部会は滞りなく終わり、各々自由に席を立ちます。
今日は意外と盛り沢山な内容でしたから、資料への書き込みが乱雑でまとまっておりません。
後で見た時に分からなくなっては困りますから、少し残って纏めることにします。
その間にみなさまは出て行ってしまったみたいで、教室にはわたくしひとりだけでした。
陽が落ちるのは早いもので、まだ五時なのに外は真っ暗。
「早く帰りませんと…」
部会のある日は練習はお休み。
もうみなさまお帰りになってしまったかしら…と思いながら部室へ向かいます。
男子部室の前を通ると、ちょうどビアちゃんが部室へ入ろうとしているところに出くわしました。
ふっと目が合ったので、できるかぎりの微笑みを添えて
「お疲れさま」
と声をかけてみます。
「お疲れさまです。え…と、サビーナ=ハルステッド伯爵令嬢さまですね、女ミネ主将の」
「ええ。サビーナで結構よ、ビアンカ=アコスタ男爵令嬢。確か、皆さまからビアちゃん…と呼ばれていましたわね」
「はい。よろしければサビーナさまもそのようにお呼びください」
「では、そうさせて頂くわ」
無表情で淡々と応えるビアちゃんは、確かに少し冷たい印象を受けます。
わたくしよりも少し背の高いビアちゃんは、わたくしよりも随分と体重は軽そうで、まるで女騎士さまのようにすらりとしていて格好良いです。
むちむちとした自分の身体が、ミントネットの選手として恥ずかしいくらいに。
「あの…ビアちゃんは、どうして男ミネの庶務担当に?」
みなさまが気にしていたことだけれど、わたくしも気になっていたから、思い切って聞いてみました。
はしたないことではありましたが。
「選手としてではなく庶務担当を選んだ理由という意味であれば、膝の故障で諦めざるを得なかったからです。女ミネでなく男ミネを選んだ理由という意味であれば、そうやって詮索されるのが嫌だったからです」
あら…随分とはっきり仰るのですね…。
「実際、女ミネの庶務担当はもう固まっていて、今更増員しなくて良いではないですか。それにわたし、女同士の馴れ合い、嫌いなんです」
参りました。
こんな質問、見透かされているようで、恥ずかしくなってしまいます。
「でも。サビーナさまは、なにか違う感じがしますよね。さすが主将…という感じで」
「え…そう、かしら…」
「ちゃんと部員を統率しているイメージです」
わ、なんだか嬉しいですわ。
「ありがとう」
素直にお礼を言いましょう。
「そのままでいてくださいね。今、男ミネ大切な時期なので。間違ってもマシューさまの負担になるようなこと、しないでくださいね」
冷水を頭からかけられたような衝撃。
持ち上げてから、落とされた気分。
わたくしのマシューへの想いを、拒絶されたみたい。
「では、失礼します」
扉を開けて男ミネ部室に入るビアちゃんを目で追うと、部室の中でひとり座っているマシューの姿が見えました。
ふたりきり?
マシューと、ビアちゃん、部室でふたりきりなのかしら?
もやもやとした想いを抱えたまま、わたくしは女ミネの部室へと急いだのです。
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