第二話・ミントネット部、部会
放課後、月に二度の部会。
女ミネ監督兼顧問の、マノン=アンディッシュ侯爵夫人が担任をしている教室に、ミントネット部男女の主力選手と、庶務担当が集まります。
「なんですの、あれ」
女ミネ庶務担当のご令嬢が、マシューの方を見ながらわたくしに耳打ちをしてきました。
「マシューさまにべったりじゃないですの。わたしたちには冷たい顔しかしないくせに、感じが悪いですわ」
そうなのでしょうか。
確かにマシューの隣には、見慣れないご令嬢がいらっしゃいます。
噂の“ビアちゃん”でしょうか。
ビアンカ=アコスタ男爵令嬢。
ピンクゴールドのふわふわとした髪を肩口で揃えた、スレンダーで身長の高い彼女は、特ににこやかでも媚びを売るでもない表情でマシューとお話をしています。
べったり仲が良さそうと言うよりは、真面目にミントネットのお話をしているだけのように見えますけれど。
「何故、男ミネなのかしら。庶務をやりたいのなら女ミネに来れば良いでしょうに。ねぇ?サビーナさま」
「別に良いでしょう?それは人それぞれですわ」
「サビーナさまはお優しいから…。それとも、余裕なのかしら?マシューさまはサビーナさまのもの…って?」
「?!そんなのではありませんわ?マシューはただの幼馴染みですし…」
「はいはい、そーゆーことにしときましょ」
もう。
本当に違うから、そんな風に言われると困ってしまいます。
マシューに変な話が伝わって、意識して避けられたりしたら辛いから。
本当にやめて欲しいのです。
「ほら、部会が始まりますわよ」
着席するように促して、いつものように教卓前のマシューの隣の主将席、ビアちゃんの反対側にわたくしも着席致しました。
★★★★★
今日の議題は、数ヶ月後に行われる全国大会の予選について。
ここ数年連続して全国優勝を果たしているこの学園にとって、予選はあってないようなものです。
けれども、油断をするわけにはいきません。
昨年までいらした主力の先輩方はもう卒業されています。
わたくしたちの実力が、どの程度のものかなど、誰にも判りはしないのですから。
特に今年は大きな改革がありました。
鞠の質が向上したのです。
ミントネットに使われる鞠は、両手でやっと抱えられるくらいの大きさで、弾力があります。
護謨ノ木という木から採れる樹液を加工してできたもので、軟らかく当たってもそれほど痛くはないのですが、かなり脆く、破れやすいのが難点でした。
競技の途中で破れてしまうと、途中で中断して最初からやり直さなくてはなりません。
そのせいで、試合時間が長引くこともありました。
その鞠が改良され、破れ難くなったというのですから朗報です。
部員のみなさまも俄かに沸き立ちました。
ふ…と、昔のことを思い出します。
当たってもそれほど痛くはないといっても、やはり男子の打つ威力には勝てません。
子どもの頃、ミントネットを始めたばかりのマシューに、鞠の扱いを教えて貰っていた時でした。
マシューがふざけて、わたくしに思い切り鞠をぶつけたのです。
飛んでくる鞠を防ごうとしたのですが間に合わず、わたくしは顔面で受け止めてしまったのでした。
痛いのは痛いのですけれど、それ以上に恥ずかしくて、思わず泣いてしまいました。
マシューはおろおろと慌ててわたくしを介抱してはくれましたが、恥ずかしさのあまりわたくしはなかなか顔を上げられませんでした。
結局、マシューはその後、ご両親にしこたま叱られ、わたくしは両親に連れられて帰宅したのだけれど、あの時、何故あれほどまでに恥ずかしかったのか。
そう。
きっと、わたくしはあの頃からマシューに想いを寄せていたのです。
好きな男の子の前で、醜態を晒したことが恥ずかしかったのです。
わたくしはミントネットを始めました。
もう二度と、マシューの前で恥ずかしい想いをしないように。
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