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第十三話・伯爵令嬢と公爵令息(後編)

「俺、本当に子どもの頃からビーナのこと大切にしてきてて、ビーナのことなんでも知っていたいって思ってた。ビーナが泣いてる時はいちばんに慰めたいし、ビーナが困ってる時はいちばんに助けたい。だから昨日はジムに先を越されて、すごく悔しい」


マシューが、辛そうな顔をします。

本当ですのね。

言わない方が、マシューを傷付けてしまうのですね。


「ごめんなさい…今度から、ちゃんとマシューに相談しますから…」


だから、そんな顔、しないで?

マシューに辛い想いはさせたくないのです。


「分かってる?俺、ビーナのいちばんでいたいんだよ?」


??


マシューにとって、わたくしは幼馴染です。

ずっと、兄妹のように育ってきました。

兄のように、妹のような存在のわたくしを気遣ってくださるマシューを、わたくしは“いちばん”だと思っています。


「…ええ、マシューは、わたくしのいちばんですわよ?」


そしてそれが、わたくしの中で“恋”に変わってしまったからこうして悩んで…。


なんでしょう、何か噛み合っていないような…。

マシューは考え込むように、額に拳骨(げんこつ)を押し付けています。


「あの、さ。俺、ビーナと付き合ってるって思ってた。このまま、卒業したら婚約して、結婚するって」


「え…」


ええええ!?


「でも、ちゃんとそんな話、したことなかったよね」


「えっ…な…ぅそ…っ」


「嘘じゃないよ。俺は誰よりビーナが好きだし、大切にしたい。ビーナは?さっき俺のこと、いちばんって言ってくれたけど、それは俺の“好き”とは違うもの?」


マシューの“好き”?

『付き合ってるって思ってた』?

それって、恋人的な“好き”で、合っているのかしら?


「わたくし…ずっと片想いだと思っていたのだけれど…そんなことを言われたら…期待してしまいます…」


わたくしの“好き”と、マシューの“好き”が、同じだって。


どうしましょう…ドキドキが止まりません。

昨日から、涙腺が緩いのだもの。

このままでは、泣いてしまいます。


「ビーナ、やっぱり、ちゃんと言わなかった俺が悪いね」


マシューは、一歩下がって(ひざまず)きます。


「サビーナ=ハルステッド伯爵令嬢。貴女が好きです。俺と結婚してください」


「マシュー…っ!」


わたくしの左手を取り、その薬指に唇を落としたマシューを見て、とうとう、わたくしの涙は限界を超えて溢れ出してしまいました。


「ビーナ?返事は?」


マシュー…マシュー…っ!


「はぃ…。わたくしも、マシュー…=ネイスミス侯爵令息さまが、大好きです…よろしく、ぉ願…ぃ、致しま…す…っ」


なんとかそれだけ伝えて、顔を隠しました。

泣き顔は恥ずかしい。


「ビーナ…ビーナ?顔、隠さないで?」


だって…不細工ですもの、嫌ですわ。

いやいやをすると、マシューは立ち上がってわたくしをぎゅうっと抱き締めました。


「ビーナ。好きだよ。今まで言わなかったこと、いっぱい言うから、ビーナも我慢しないで、全部言って?」


うん、うん、と頷く。

おずおずと、マシューの背中に腕を回すと、ちょうどマシューの心臓の辺りに耳が当たりました。

ドクドクと鼓動が早いのが分かります。

マシューも、緊張していたのでしょうか。


「マシュー。好き」


「うん」


「大好き」


「うん。俺も大好き」


「わたくし、マシューの恋人になったの?」


「そうだよ。この後、正式に婚約して、俺たちは結婚するんだよ」


「嬉しい…」


「俺も嬉しい…」


マシューが、頭を撫でてくれます。

あったかい。


「ぁ…もぅ、片付けなくては…。アンディッシュ侯爵夫人に叱られてしまうわ…」


ずっとくっついていたいけれど、なんだか照れ臭くて。


「じゃ、さっさと片付けて帰ろう。お迎えには話を通しておくから、今日はうちの馬車で一緒に帰ろうね」


ふたりで支柱を片付けるとマシューが、最後の仕上げと鍵は返しておくから着替えておいで…と言うから、お言葉に甘えて先に出させて貰いました。



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