第十二話・伯爵令嬢と公爵令息(前編)
学校に戻って、いつも通りの練習をします。
いちにち休んで頭が冷えたからか、以前より良いプレーができました。
これなら、明日は行けます。
みなさまは帰り支度を始めたけれど、わたくしはもう少し開始打の練習がしたくて、ひとり、居残り練習を志願しました。
「あんまり無理をしては駄目よ」
と言うアンディッシュ侯爵夫人から室内競技場の鍵を預かり、練習を続けます。
男ミネも練習を終えたから、ここには本当にわたくしひとり。
鞠の弾む音と、わたくしが踏み込む靴音だけが、静寂の中に響きます。
今日も、途中からマシューの姿はありませんでした。
ビアちゃんは競技場にいたから、一緒に行った訳ではないらしいです。
膝の具合はどうなのかしら。
話す機会があったら、聞いてみようと思います。
★★★★★
開始打の練習を続けます。
開始打は、最初に相手の陣地に鞠を打ち込むプレーで、ここでそのまま得点を取ることも可能です。
わたくしはこの開始打が得意で、そのおかげで注目される選手になれたのです。
昨日はそれがどうにも上手くいかず、結果、他のプレーにも影響が出てしまっていたのでした。
丁寧に鞠を放り上げ、美しいと評価して貰えた型で素早く打ち切ります。
小一時間練習をして、調子が良いことを確認しました。
真っ直ぐに綺麗に決まって気持ち良いです。
「明日も、よろしくお願いします」
鞠に願いをかけて、片付けを始めます。
ネットをしまって、支柱に手をかけた時、背後に人の気配を感じました。
「ビーナ」
「…マシュー…?」
練習着姿のマシューが、こちらに歩いて来ます。
「ひとりで片付けてるの?」
「ええ」
「手伝うよ」
「えっ?!大丈夫、ひとりでできますわ?マシュー、膝が痛いのでしょう?」
マシューは少し淋しそうに笑って、わたくしの頬を撫でます。
「ビーナは、人の心配しすぎ。俺にもビーナの心配させて?」
「マシュー…」
温かい掌。
なんだかすごく久し振りな気がします。
「今日、試合出なかったって?調子悪い?」
「ええ…。ちょっと凹んでいたのですけれど、もう大丈夫。明日は出ますわ」
「そ、っか。…明日、俺たち男ミネも応援に行くから、頑張って」
「本当?では、更に頑張らなくてはね」
にっこり微笑むと、マシューははぁ~っと大きな溜め息をつきました。
「凹んでたのから浮上できたのって、ジムのおかげ?」
えっ?!
どきん、と胸が振動しました。
ジムが、マシューに何か言ったのでしょうか。
「え…え、昨日、偶然会って…」
「今日、俺、ジムに叱られた」
「え?」
「なんにも言わないのが優しさじゃないって」
マシューの瞳が、後悔の色を湛えて揺らぎます。
「ビーナが凹んでるの分かってた。俺のこと、気遣って何も言わずにいてくれてるのも分かってた。それでも、いつか相談してくれるって勝手に思ってたから、昨日のこと、正直哀しかった」
「哀しい…?」
「ジムがさ、言うんだよ。女の子はそんなに強くないって。ちゃんと言葉で伝えないと駄目だって」
マシュー…?
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