第十話・伯爵令嬢と子爵令息(後編)
二話同時投稿です。
新着からお越しの方で前話をお読みでない方は、お手数ですが『第九話・伯爵令嬢と子爵令息(前編)』からご覧ください。
「あの、サビーナさまは、マシューのこと、好きじゃないの?その、幼馴染みとしてじゃなくて、ひとりの男として」
「え?」
思わずジムの顔を見ると、真剣な表情。
かあぁっと、顔が赤くなるのを感じました。
なんだか、ジムには見透かされている気がします。
そうですわよね、さっき泣いたタイミングも、話の内容も、わたくしがマシューを好きなことなんて、バレバレですわよね。
「うん…好…き、よ。でも、内緒にしていて?」
面食らったみたいな表情になったジムは、続けて言います。
「マシューには、言っていないの?」
「言えないわ…ずっと幼馴染みだったのだもの…。今の関係が壊れるのは、怖いの」
「サビーナさま…」
「でも、それも駄目かもしれないわ」
また、涙が込み上げてきます。
「何故?」
「もう、わたくしダメダメ過ぎて、マシューの幼馴染みですらいられないかもしれないわ。ビアちゃんに指摘された通り、主将としての役目、何もできていないの。ビアちゃんに嫉妬して自分のプレーができなくなるなんて、みなさまに顔向けができませんわ…っ」
「ビア…?」
ボロボロと、涙が零れました。
「…っ…ぅえ…。っ…ビア、ちゃんの方が…っ、よっぽど、…マシューの、こと…、分かってる…から…」
しゃくりあげながら言います。
一度決壊してしまうと、もう止まりません。
貴族令嬢として躾けられてきたことが、こんなにも意味をなさないなんて。
「ごめ、ね。ジム、関係…なぃ…っのに…」
「え、いや…その…」
再び、貸して貰ったタオルに顔を埋めます。
なるべく呼吸を整えようとするけれど、込み上げてくる感情がそれを許してくれなくて。
「…っ…、ぅ…」
「サビーナさま、泣きたい時は、我慢しないで泣けば良いと思う。でも、気休めにしかならないかもだけど、マシューとビアは、何もないから」
いつも厳しい表情のジムは、たぶん今も険しく眉根を寄せているのだろうけれど、声音はどこまでも優しいのです。
「サビーナさまはミントネットもマシューも好きだから、苦しいんだろうね。どっちかひとつなら、楽だったろうにね」
わたくしは欲張りだから、ミントネットもマシューも手放せないのです。
せめて幼馴染みのままでいられるなら、どちらも手放さなくて良かったかもしれないのに。
欲張ったせいで、どちらも手放さなくてはいけなくなってしまいました。
「~~~~~っ、ぅあ…」
更に涙が溢れてきて、止まりません。
ジム、学校に戻らなきゃいけないはずなのに、ずっとそばにいてくれて、申し訳ないです。
「ごめ…ね…、ごめんね、ジム…」
「や、俺は良いけど。やっぱりマシューとはちゃんと話した方が良いよ。最近サビーナさまが元気ないの、あいつも気にしてたし」
「え…?」
「俺たちは全然気付かなかったけど、あいつ、気にしてたから。たぶん、何も言わない方があいつにとっては苦痛だと思う」
「…ほんと…に?」
「うん。だから、ちゃんと話してやって?好きとか、そういうのは言いたくなったらで良いから、ミントネットのことだけは」
「ぅん…分かったわ」
ビアちゃんからは、話し掛けるなという空気が出ていたけれど、マシューはそうでもないのかしら…。
頑張って、話しかけてみようかしら…。
どちらにしても、明日を乗り越えなくてはならないけれど。
「ありがとう、ジム」
頑張って微笑むと、ジムもめったに見せない笑顔を見せてくれました。
その後ジムは迎えの馬車が来るまで一緒にいてくれて、わたくしはなんとか落ち着きを取り戻してから帰路に就いたのです。
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