第一話・伯爵令嬢の憂鬱
異世界のスクールラブ。
スポーツ恋愛ものです。
最近、「男ミネ部に庶務担当の令嬢が置かれたのですってね」と、よく訊かれるようになりました。
「そうみたいですわね」としか答えられないのですけれど、皆さま一体何がお聞きになりたいのでしょう。
わたくしは女ミネ部の主将で、男ミネ部とは部会の時に少しお話をする程度ですのに。
わたくしの住むこのモーガン王国は、“ミントネット”という球技を国技としています。
性別で規則が異なるため、略して男ミネ・女ミネと呼ばれています。
四角い敷地を中央で区切ったネット越しに、排球と呼ばれる鞠を打ち合い得点を競う球技。
自分たちの敷地内で三度まで触ることができ、地面に落さずに相手の陣地に打ち返すのです。
打った鞠が相手の陣地に落ちたら自分の得点、相手の陣地以外に落ちたら相手の得点です。
他にも細かな規則はありますが、反則をせず鞠を落とさないことが強さの秘訣です。
一チーム六人で行われるのですが、背の高い選手に有利な球技のため、六枠外に入れ替わり可能な守備専門の選手を置く実質七人での競技です。
どの都市も年代別のチームを有し、定期的に大会の行われるこの国技は、王都にある国立学園でも最も人気で注目を集める球技なのです。
王族だろうが平民だろうが、この球技に長けている者は羨望の的で、このわたくし、サビーナ=ハルステッド―――ハルステッド伯爵の長女も例外ではありません。
★★★★★
「ビーナ。これ、今日の部会の資料」
「あ、ありがとう」
ざわめく。
彼が現れると、その周辺がざわめくから、直ぐに分かります。
男ミネ部の主将、マシュー=ネイスミス。
ネイスミス侯爵のご令息です。
わたくしのことを“ビーナ”と気安く愛称で呼ぶことのできる数少ない幼馴染みの内のひとりで、未だお互いに婚約者のいない状態でのわたくしの想い人です。
ただわたくしは、ちゃんと気持ちを伝えたことはないし、伝える勇気もないし、今の関係が崩れるのも嫌なのです。
という訳で、このままの関係でいたいと思っているお方です。
―――狡いかもしれないけれど。
この先、もしマシューに想い人ができたとしても、既に存在しているのだとしても、わたくしには何も言う権利はありませんし、ちょっと落ち込むかもしれませんけれど、冷静でいられると思っていたのです。
「ビーナ、何か困っていることでもあるの?」
「えっ?!」
「いや、なんか、困った顔をしているから」
まさか、顔に出てしまっていたのかしら?!
「男ミネの新しい庶務担当さんのことを色々と訊かれるのだけれど、まだお話をしたことがありませんから分かりませんの。今日の部会で少しでもお話できると良いのだけれど」
「ああ、ビアちゃんね」
―――ズキン。
あら、なんでしょう。
お名前をお聞きしただけなのに、なんだか胸が痛みました…。
愛称呼びだったから…でしょうか?
「一年生だけれど凄くしっかりしていて、俺たちも尻に敷かれている感じ。あ、なに?女ミネでなにか言われているの?」
「いえ。部外の方々に…」
マシューの顔つきが、少しだけ険しく変わりました。
「あんまり、部外の人には部内のことは言わない方が良いかもね」
あ…。
ばか…。
わたくしは女ミネの主将ですのに。
言われないと分からないなんて不覚。
「そう…ね。ええ、気を付けますわ」
「ビーナなら大丈夫だよ、ちゃんと主将をやれているよ」
「なんですの、それ」
ふふっと笑って、
「じゃあ、また放課後にね」
と、マシューは行ってしまいました。
【ミントネット】
ネット越しにボールを打ち合う球技。
現在のバレーボールとほぼ同じものを想定しています。
ただし、ボールはソフトバレーボールを想像してください。
異世界の女性が行うには衣装もルールも想像し難いかと思いますが、床を転がったりするようなハードなことは行わず、乗馬服やドロワーズ風のパンツを着用しているものとお考え下さい。




