第1話 とある迷宮での話
「ようやくたどり着いたな」
「そうね」
とある街近くの迷宮の最深部。
女神を思わせる女性像の前に男女二人が立っていた。
「準備は良いかい?」
「ええ、何があっても受け入れるわ」
男女二人はうなずくと共に、女神像の差し出す手に互いの手を重ねて置いた。
「よく、ここまでたどり着きました。ここは精神世界です。試練を乗り越えた貴方たち二人に祝福を授けるため、私が貴方たち二人のために用意した場所です。さぁ貴方たちの望みを。叶えられるものであれば叶えましょう。」
男性が一歩前に進み出る。
「女神ヴァスティアよ。ありがたき幸せ。しかし我らの望みは祝福ではないのです。私たちは子宝に恵まれておりません。生命を司るヴァスティアよ。どうか貴方の力で私たち二人に子を」
「なるほど、確かに貴方たち二人に子を宿すの難しいようですね。私は生命を尊ぶ神とされています。ですが、申し訳ないのですがそう簡単にはいかないものです。」
女性が残念そうに応える。
「そうですか。無理なお願いだと思っていました。では祝福を」
女神が頬笑む。
「そう急ぐことはありませんよ。貴方たち二人は運が良いのかもしれませんね。今なら子を授けることができます。ただ条件があります。」
男女二人は顔を合わすも、男性が慎重な顔で問う。
「条件とは?」
「もともと貴方たち二人の子は、魂と肉体が結び付くい特異な体質であり受肉をしても、魂がその肉体に定着しないのです。しかし私の手元には強力に定着しうる魂の用意があります。ただしこの魂は強烈に肉体を求める反面で、その性質でもって前世の記憶を保持してしまうでしょう。それ故に、あなたたち二人が求める理想の家族像というものからはかけ離れたものになるかもしれません。肉体の都合上3才程度から完全に前世の記憶を取り戻すでしょう。」
「そんな……どうしようか。ライラ」
ライラと呼ばれた女性は女神に尋ねる。
「その魂は善良なのでしょうか?」
「そうですね。私が覗いた限りでは貴方たちと同程度の価値観を有していると思います。」
「私はその魂を受け入れようと思う。構わないよねアシュレイ」
「ああ構わないさ。何、少し特殊な関係になるかもしれないが。」
「では貴方たち二人に子を、そして私も助かりましたので二人には通常通り祝福を授けましょう。」
「恐縮なのですが祝福を我が子に授けることは可能でしょうか。」
「人の愛とは美しいものですね。分かりました。夫アシュレイの祝福を子に補填しましょう。」
「では、私の祝福も我が子に」
「両名の願いを受け入れました。二人の祝福は子の前世を元に私が選んでおきましょう。」
「「はっありがたき幸せ!」」
というのが、俺の出生秘話であるらしい。
どういったながれで魂がこちらの世界に来てしまったかは知らないが。
3才になってまもなく前世の記憶を隠すのがつらくなってきた俺を察したのか両親が打ち明けてくれたのだった。