第八節 デート
爆破スマシ――。深夜、満月の下ライダースーツを身にまとい、バイクを走らせている。
(軍隊である私たちは常に死と隣り合わせ――。其れがどうした事か、その事実とは裏腹に、互いに傍らに居り、笑いあっている姿が当たり前のように思えていた。あの笑い合っている瞬間が、確かに私たちの日常だった。なのに――)
「何が隊長だ! 名倒れも甚だしい! クソっ‼」
爆破は自責の念に駆られていた。街道を少し飛ばし目に走る。
(喉が渇いた。何か買おう)
爆破はコンビニに立ち寄る事とした。
「いらっしゃいませ!」
店内に入る。
(コーヒー……は深夜帯は体に悪いか……)
ペットボトルのほうじ茶を手に取る。
「いらっしゃいませ! こちらへどうぞ!」
店員に促される。
ふと顔を見上げると、抜刀が接客を行っていた。――様に見えた、爆破スマシには――――。
「セ……セツナ⁉」
爆破は店員を凝視する。すると、抜刀によく似ただけで、店員は抜刀では無い、赤の他人であることが分かった。
「なっ、何でしょうか……?」
「いや、何でもない……これを下さい」
「ありがとうございましたー」
店を後にする。満月を見上げながら、爆破は思う。
(世間は狭くて世界は広い――か。……この国でもまだ行った事の無い場所がある。しかしそんな場所でも、似たような人間に出くわすのかもな。性格も、容姿も似た、人間に)
――学校にて、逃隠のクラス。逃隠は虚空を見つめていた。
「あのヤロウ……」
主人公のクラス。
「セツナ……さん……」
ガラス窓に寄りかかっている主人公。そこで
「ブ――、ブ――、ブ――」
主人公の携帯が鳴る。
「! 尾坦子さんからだ」
『今週末、凡々駅で会いませんか?』
(……これって! デートのお誘い⁉)
そして週末に。主人公は精一杯のオシャレをして凡々駅で尾坦子を待つ。
(一番高い靴に上着にあーだこーだ! 行ける! はず)
「お待たせー」
(来たー‼‼‼)
そこには私服姿の尾坦子が居た。
「ぶわべらぁああああ」
主人公に致命傷を与えるには充分な威力だった。
「じゃあ、マックでも行く? 私のおごりでいいから。でも、マックくらいじゃあ、あんまりいいカッコできないかな?」
尾坦子の声も、主人公には届いていない。
「じゃ、行こっか?」
「行くってどこに⁉」
主人公は急に声を荒げた。
「聞いてなかったの⁉ もう!」
ぷんすか! と言った擬音でも聞こえてきそうな態度の尾坦子。
「マックだよ! マック!」
「えっ? あ、ハイ!」
主人公の服の裾を引っ張り、尾坦子は進む。
「何々?」
「何だアレ」
行き交う人はその様子を見ておどける。次第に恥ずかしくなっていく尾坦子。
「手! 繋いで歩こう!」
「あ……うん」
この間とは違い、尾坦子と主人公を隔てるモノはなく、手と手は重なった。
今度は、周りから見ると微笑ましい光景に見えただろうか? 二人の身長は主人公の方がやや高いだけで、つり合いが取れるものだった。
「あ!」
気付けば、マックに着いていた。
「ウィ――ン」
「いらっしゃいませ!」
定員のその笑顔は0円だった。
「とりあえず! Aセットで!」
主人公は座り、スプ〇イトを飲む。尾坦子もまた座り、烏龍茶を飲む。
「あのさぁ」
「?」
尾坦子は話を切り出す。
「私って、今まで狩人の施設に居てテレビもろくに見てなかったから、最近、話題合う人いないんだよね」
「あ! うん。最近月9の……」
とりとめない会話が続く。
(そういえば、狩人の話題ばっかり話していたから、普通の何気ない会話ができてなかったんだよな)
主人公は、なけなしのテレビに関する話題を振りまいて、その場を繕った。自然と笑顔で答える尾坦子の姿が嬉しかった。
「ウィ――ン」
「ありがとうございました!」
「じゃあ、次、どこ行こうか?」
「うーん(マズい、デートスポットなんて知らないからどこに行くかなんて分かんないよ……)」
「ならウィンドウショッピングとかどう? 服を見たいわ!」
主人公は、尾坦子に促されるままにアパレルショップを訪れる。
「どう? 似合うかな?」
尾坦子はワンピースを持ち、体の前に合わせて見せる。
(か……カワイイ)
主人公もご満悦である。
「何か言ってよ!」
ズイっと尾坦子が迫ってきた。
「あ……似合ってるよ、うん……」
「やた! 次はこれ、その次にこれ、お次はこれ、そして――」
歓喜するも束の間、尾坦子は次々と服を持っては体の前に合わせて見せた。
(そういやぁ尾坦子さんって)
ゴクリと息を呑む主人公。
(欲しがりだった――――)
「これもね!」
小一時間経過しただろうか。
「今度はツトム君、選んでみてよ」
尾坦子の一言で主人公の服選びが始まった。
「これは?」
「うーん、少し暗いかも」
「じゃあこれ」
「ま! 明るい。……でもちょっと子供っぽいかな?」
「ならこれだ!」
「あ! これはいいわ。バッチグーよ!」
互いの服選びが、意外に盛り上がった。
「で、結局買わないんだ(僕もだけど)」
「うん、まだ就業先決まってないから、お金は計画的に使わないとね!」
「それにしても……(こんなに楽しそうな尾坦子さん、始めて見た。来て……良かった)」
「なになに?」
「な、何でもないよ!」
会話を交わす尾坦子と主人公。ひと段落して、切り出す尾坦子。
「次、どこ行こうか?」
「どこ行こうかなー?」
「よし、決めた!」
「え?」
キョトンとする主人公。
「噴水が見える公園!」
公園にて――。
「ここって、昔よくお母さんとよく来てたんだ」
「へぇー。そうなんだ」
「ハトが遊びに来るんだよ……ほら、来た。よしよーし」
「ホントだ」
「よし!」
急に立ち上がる尾坦子。
「?」
続いて笑顔で言う。
「好きです、付き合って下さい」