第六節 風雲急
主人公の脳裏をよぎるのは敗北の二文字。
「うわああああああああああ‼」
それを払拭するべく、ゾムビーに向かって行くが、考えのない只の突進に終わる。
「ゾム……‼」
殴打を繰り出すゾムビー。
「ゴッ……‼」
「かはっ‼」
主人公のみぞおちに入り、悶絶する主人公。
「ツトム君‼」
叫ぶ尾坦子。その表情は苦悩に歪んでいた。
(なんで……? どうして? さっきのは簡単に倒せたのに……)
「おい……」「!」
声のする方を見るとそこには身体の姿があった。避難の補助をしていたが、たまたま通りかかったらしい。そして身体は叫ぶ。
「お前が護りたかった者は誰だ⁉ ツトム‼」
「!」
「民間人、そして身近に居る人間じゃなかったのか⁉」
「‼」
「今、お前の傍に、真に守りたいものが居る! その者を助けよ! ツトム‼‼‼」
「はい‼」
「ザッ」
無心だった。心を研ぎ澄ませて、何の理由もなく、主人公は左手の人差し指と中指の間に右手人差し指を置き、次いでそのほかの指を並べて置いていった。
「ハッ‼」
主人公の手のひらは虹色に輝いて、光り始めた。石のゾムビーは光を浴び、徐々に消滅していった。
「ゾオオオオオオオ‼‼‼」
「カラン!」
そこには例の石、宝石のみが残った。
「……やった」
「ツトム君!」
尾坦子も歓喜する。
「!」
主人公は何かに気付いた。それは、尾坦子の体の一部が元の人間の色、つまりは肌色になっていることだった。
「これは……」
何かを思い付いた身体が主人公に話し掛ける。
「ツトム、さっきと同じだ。さっきと同じ要領で、いや、気持ちでやってみるんだ……!」
「は……はい」
主人公は先程と同じ構えをし、心身を集中させた。そして尾坦子にその手のひらをやる。
「ハッ‼」
すると、
「ぱああああああ」
尾坦子の体はみるみるうちに人間の肌の色を取り戻していった。
「あっ、これって……」
尾坦子が言う。そして尾坦子は完全に人間の姿となった。
「尾坦子さん!」
主人公は歓喜のあまり涙ぐんだ。
「ひしっ」
尾坦子は急に主人公を抱きしめた。
「えへへ。ずっとこれがしたかったの」
「尾坦子さん……」
主人公は涙を拭いそれに応えた。
「やったな、ツトム」
身体も労いの言葉を漏らす。しかし、
「はいはい、いちゃつくのはいいけどよう」
心無い一言が周りから放たれた。
「お前らが居たからじゃないのか? ゾムビーが湧いて出たのは」
「‼」
主人公は怒りのあまり右手が震えた。
「え? そんなのって……」
流石の尾坦子もその言葉には堪えたらしい。数秒後、ずいっと身体が身を乗り出して言った。
「何を言っているんだ‼ 貴様ら‼‼‼ もしそうだったとしても、現に助けられているじゃないか⁉」
周囲はどよめく。身体は言った。
「ツトム、行くぞ。こんな奴ら相手してても何にもならん」
「身体副隊長……」
主人公は動揺しながらも身体に従う事と決めた。そして身体、主人公、尾坦子で小隊を結成、三人は団体行動をとるようにした。
――一方その頃……
「セツナァアア‼ 私が分かるか⁉」
「ザンッ」
「ボッ」
抜刀セツナだった者と爆破が戦っていた。
「おいっ! セツナ‼(物事は大抵が悪い方に転ぶものだ。ゾムビーの数だって統計開始以降最悪の数字だ。だが、ここまでの事は……)」
「隊長! 抜刀隊員は! いえ、奴は攻撃対象では⁉」
「分かっている! だが……」
隊員と爆破は会話を交わす。
「ええい!」
隊員の内の一人が堪え切れずに発砲した。
「タタタタタタタタ!」
「‼ !」
抜刀はその銃弾を全て切ってのけた。
「まさか……!」
爆破は驚愕した。次の瞬間、
「スパッ」
抜刀は隊員の首を切り落とした。
「ピピッ」
何かが爆破の顔に当たる。
「体液では……ないな」
爆破はそれを手で拭い、確認した。血だった。首を切り落とされた隊員から吹き出た血が、爆破の顔に当たったのだった。
「ひいっ……ひいいいい‼」
逃げだそうとする一人の隊員。
「ザッ」「トスン」
「がはっ……」
その隊員も抜刀によって葬られた。
「! おのれ‼」
「ボッ‼」
抜刀の刀が爆破される。
「セツナ‼ 私だ! 攻撃を止めろ‼」
次の瞬間、
「ザンッ」
再び刀を発現させる抜刀。
「!」
そして周りに居たゾムビーを斬りつけた。
「スパッ」
「ゾムゥウウ‼」「ゾムバァ‼」
「セツナ……通じたのか……?」
安堵の表情を浮かべる爆破。――と、
「スパッ」
「ああっ‼」
狩人隊員の首を再び斬る抜刀。
「何っ⁉ やはり……か」
「スパッ」「ぐあああ‼」
「ザンッ」「ああああああ‼」
次々に襲われる狩人隊員達。爆破はその光景を見て自身に言い聞かせる。
(……本質を見極めろ、爆破スマシよ。そして迷うな、一遍の迷いもなく攻撃しろ。奴はもう、人間じゃない……!)
「バースト‼」
「ボンッ‼ ボンッ‼」
抜刀の刀、次いで右腕が弾け飛んだ。
「! 許せ……」
「ボッ! ボッ! ボン!」
抜刀セツナは木端微塵になっていく。最後は頭が弾け飛び、抜刀の命は尽きた。
(これが……現実か……)
爆破は静かにそう思う。
「隊長!」
隊員が叫ぶ。ふと見上げると、そこには普段より一回りか二回りほどの大きさのゾムビーがそびえ立っていた。
「壁……」
爆破は思わず声を漏らした。
「隊長!」
「クソッ‼ ラボ周辺のバリケードを突破されるな!」
隊員が叫びながら応戦する。
「タタタタタタタタ!」
「ガギィン! ガギィン‼ ガギィン‼」
全ての弾丸はそのゾムビーの体によって弾かれた。
狩人隊員達の攻撃をものともしない壁、まさに壁のゾムビーと呼べるゾムビーだった。
「ゴッ‼」
ゾムビーは殴打を繰り出す! 吹き飛ばされる隊員。
「小癪な!」
隊員達は束になってゾムビーを囲い、攻撃していく。しかし――――
「ガギィン! ガギン! ガギィン!」
全ての弾丸は弾かれた。そして――――
「ゴッ! ドゴッ!」
その全ての隊員達は吹き飛ばされていき、狩人は爆破のみとなった。
「バ……バースト‼」
「ボンッ」
「…………ゾ?」
バーストをも無力化するその防御力。
「ハッ‼」
ふと、思い出したように例の石をかざす爆破。
「二つ……だと……」
体内で光るのは二つの石だった。爆破は距離を置いて再びバーストを放つ。
「ボッ! ボンッ‼ ボンッ‼」
しかし――
「コォオオオ」
爆風が砂煙を上げていた。煙から姿を顕わにした壁のゾムビーは無傷だった。
「おのれ……もう一度、今度は近距離で、――だ」
爆破は壁のゾムビーに近付きバーストを放つ。
「ハッ‼」
「ボボンッ‼」
しかし、先程と同じで壁のゾムビーは無傷だった。
(コイツの耐久力に対してのダメージ量が少なすぎる)
「ゾォ‼」
爆破の胸ぐらを掴む壁のゾムビー。そして、――爆破も隊員達と同じく吹き飛ばされた。
「ゴッ‼ ……ドサッ」
「かっは……」
爆破はその場に座り込んでしまう。
「スマシさん!」
主人公の声がした。辛うじて開く爆破の目蓋。そこに映るのは身体、いつもとは違う姿の尾坦子、そして主人公の姿だった。
「俺も居るんダイ‼」
そして見張りに飽きた逃隠も居た。
「後は……頼んだぞ。皆……健闘を……祈る」
爆破はそっと目蓋を閉じる。