第五節 最期の一振り
8メートルほど進んだだろうか。爆破はしきりに宝石をかざしたままだった。すると、次第に宝石と一体のゾムビーが光輝き出した。
「……奴か」
キッと目を鋭くさせる爆破。
(少々体力は要るが、仕方がない)
宝石を懐にしまい、手をかざす爆破。
「バース……」
「てりゃあああああああアア」
「!」
爆破がバーストを放とうとした瞬間だった。何者かが一振りの刀を持ち、石のゾムビーに斬りかかった。
「スパ‼」
石のゾムビーは上半身から斜めに下半身まで切り付けられた。
「ズズズ……」
上半身が斜めにずれ落ちていく。
「お待たせしましタ!」
石のゾムビーを斬ったのは逃隠だった。
「サケル!」
爆破は思わず声を出す。
「途中にぞろぞろとまあバケモンが居やがったんデ、相手してたら時間食っちまったんだい!」
「フ……セツナも同じセリフを口にしていたぞ。仲が良いな二人とも」
戦場であるのにもかかわらず、とりとめのない会話を交わす二人。
「仲は良くないんだい! あんな奴‼」
「ハハ」
「あ、えーと『だい』っていう語尾は近頃マイブームなので使っているだけで特にこれといって意味は無いんだい。流行ればいいかなーなーんテ」
(助かった。私は『石』とでは相性が悪い。逆に相性のいい刃物を扱うサケルが来てくれて良かった)
爆破は逃隠を無視して考える。
「サケル!」
「あ、はいはイ。仕上げダ‼」
「ピンッ!」
爆破の一声で察し、ゾムビーの体内にあった石を、刀の剣先ではじく逃隠。
「パシッ」「ご苦労」
石は10数メートル飛び、文字通り爆破の手中に収まった。
「では、後片付けといくか……バースト!」
「ボンッ!」
石の抜けたゾムビーを、爆破は余力を残して爆破処理した。
「一旦下がるぞ、サケル!」
「あいあいサ‼」
「ザッ」
爆破と逃隠は射撃部隊の後ろへと下がった。
「撃てぇ‼」
「タタタタタタタタ!」
次いで爆破の指揮のもと、射撃部隊は発砲を始めた。
「ゾォオオ!」
「ゾバァア‼」
次々に倒れていくゾムビー達。
「すっげェ。これなラ……」
瞬く間にゾムビー達は殲滅されていった。十数秒後、辺りにはゾムビーの死骸だけが残った。
「ふ――、ご苦労だった! 皆!」
爆破が労いの言葉を掛ける。
「ヒュ――」
逃隠は口笛を吹いて、感心していた様子だった。爆破は隊全員に次の作戦の令を上げる。
「一通り片付いたな。だが油断はできん。もうゾムビーが現れないとも言えんし、どこから湧いて来るか分からんからな。……よし、サケルと隊員の内8名はここに残って様子を見ること。私とその残りは正面入り口に移動する。そして30分後、ここに残る部隊は3名を残して正面入り口に移動だ。良いな」
「りょーかいだい!(副隊長に俺の活躍を見せられるのはいつになるんだい?)」
言葉と心境がちぐはぐな逃隠だった。
その数分前、正面入り口では――
「にじゅうさーん!」
「ズバッ‼」
「次ぃい! にじゅう!」
「ズバッ‼」
「よーん!」
抜刀は前線に出て戦い、ものの二十数分で20体ものゾムビーを斬り倒していた。更に抜刀はゾムビーを斬り倒す。
「疾きこと風の如ォく!」
「ズバッ!」
「侵掠すること火の如ォく!」
「ズバッ!」
「ゾオォオ‼」
「風林火山ならぬ! 風火‼」
「ズバァ‼」
「ゾォオオオオム!」
いつもの調子に、超能力の刀を肩に担ぐ抜刀。
「風火……フウカ……ふうか、ねー。次の恋のターゲットはふうかちゃんで決まりってか⁉」
冗談を戦場で言っても、誰も聞いていない。
「ピキッ」
キレ気味の抜刀。
「オイぃ‼ 聞け! その他の隊員‼ 俺が突破口を開く! お前らは下がって援護射撃に努めろ‼」
「ラ、ラジャー!」
渋々隊員達は抜刀に従った。
「にじゅう……だー‼ もうめんどくせぇ‼ 数えんのも止めだ止め! いちいちやってんのも野暮だ野暮!」
虚勢を振りまいているつもりはなかった。しかし事実、抜刀の体力は消耗しつつあり、もう今のペースで戦いを続けられない状態だった。
「ゼイ……ゼイ……」
(! この俺が、この程度の奴らに対して肩で息しながら戦ってんのか……)
「くっそ! 情けねえよなぁ。だからあのナースちゃんにもフラれたんだ、よっと!」
「ザシュ……」
ゾムビーの内の一体、その顔面目掛けて例の剣を突き刺す。
「だがなぁ、何体来ようとも俺様には敵わねえんだよ!」
「バシュ!」「バシュ!」
「バシュ!」「バシュ!」
次の瞬間、抜刀の足元、並びに半径8メートル以内の地面にあった排水口から、十数体のゾムビーが現れ、抜刀を囲った。
「! ハハ! 本当に何体も出て来やがった(っと、余裕ぶっこいてる場合じゃねえか。全部石か? いや、ノーマルも含んでいる)」
抜刀は冷静だった。今回ここに現れた時に奪った石をかざしてみる。石に反応し、体が光ったのは7体のゾムビーだった。
「なん……だと……!」
一瞬、顔がこわばる抜刀。しかし、すぐにその顔はニヤリと笑みを浮かべる。
「フフ! はははははは‼ コイツぁおもしれぇや‼ 四面楚歌ってのはこの事を言うんだな。良いぜぇ、最近フラストレーションも溜まっていた頃だ。全員まとめて叩き切ってやる」
抜刀は光の剣を帯刀した構えをとる。
(くたびれてんなよ、俺)
「ゾムゥ」
「ゾゾ」
「ゾムバァ」
ゾムビー達が抜刀に近付き始めた。
「行くぜ! 俺のホンキ! 神速の刃‼‼‼」
正にその刹那だった。
取り囲んできたゾムビー達を一太刀の抜刀で切り抜いた。
「スパッ…………バシャシャアア‼」
刃はゾムビー達を一気に切り裂く。更には体内にあった『石』は同時に刃で弾き飛ばした。
「カランカラン」
石は地面に落ちる。
「ブハッ! はぁ……! はぁ……! 今のは流石に堪えたぞ」
抜刀は体力をだいぶ消耗した様子で座り込んだ。
「抜刀隊員‼」
狩人隊員の一人が叫ぶ。
「あん?」
抜刀はその声を聞き、振り向いた。
「――――」
抜刀を絶望感が襲い、血の気が引いていくのが分かった。新手のゾムビーが姿を現してきたのだった。
「うっとおしいコト、この上無し! さて、やっちまうか」
気力を振り絞り抜刀は立つ。
(…………また吞みてぇな、この戦いが終わったら。大阪ん時みてえに)
一縷の望みを持って抜刀は走り出す。
「ああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼」
「ダッダッダッダッダッ……ザ……」
爆破と狩人隊員達が正面入り口に辿り着く。
「セツナ‼ 無事だったか⁉ セツ……‼‼‼」
爆破は抜刀を呼んだ。その姿が見えていたため――。しかし、そこに立っていたのは変わり果てた姿の抜刀だった。
「っく‼」
爆破は悔しさを隠せないでいた。抜刀はゾムビー化していたからだ。かつて抜刀だった者の周りには幾らかゾムビーまでいた。
「やむを得ん。現時刻を以て、抜刀セツナをゾムビー化した敵と見なし、攻撃対象とする……」
「……ラジャー」
重たい空気が爆破達を包む。しかし、
「ザンッ」
抜刀だった者の手から光る剣が出現した。
「ウソ……だろ……」
爆破は息を呑む。
「おい……ゾムビーが超能力を使えるのか?」
「存じ上げません……」
「ゾム……」