第四節 手と手
「タタタタタタタタ‼」
主人公達を見るや否や、ゾムビーは発砲してきた。銃弾は主人公達の足元から上に向かって着弾していった。
「パリィン!」
主人公の後ろの、ガラス張りが着弾して、一部が割れた。
「タタタ!」
「パチュン‼」
「きゃっ‼」
一発の銃弾がガラス張りを打ち抜き、尾坦子の肩付近へ当たる。
「くそぉ! リジェクト‼」
「ドガァアア!」
主人公の放った衝撃波は銃器に命中、ゾムビーの腕ごと粉砕し吹き飛ばした。
「はっ‼」
更に衝撃波を喰らわす。
「ゾゾォ‼」「ドシャアアア」
ゾムビーは粉々になった。
「尾坦子さん!」
振り返る主人公。
「ケガは? ……!」
尾坦子の肩付近が欠けているのが見えた。
「はは、ちょっとケガしちゃった。見て。血も出ないのよ? ホントに私って化け物になっちゃったのね」
「…………」
尾坦子に対し、かける言葉が見つからない主人公。無理やりにでも口を開く。
「……そんなこと! ないよ。尾坦子さんは人間だから……それより、ここから移動しないと! ちょっと下がってて」
「?」
主人公に促されてガラス張りから離れる尾坦子。
「はっ‼」
「パリィイイン‼」
主人公はそこにリジェクトを放つ。
「パラ……パラ……」
ガラスの破片が周囲に舞い落ちる。
「さっ! 早く」
主人公はガラス張りの檻から尾坦子を助け出すべく、手を差し伸べる。対して尾坦子は取り乱したように言う。
「……どうして? 私は化け物で、実験台にしか役に立てないのよ。それなのに……」
「そんなことない。さあ」
主人公に迷いは無かった。
「どうして? 抱き合う事さえ、手と手を触れる事さえできないのに、何でそこまで構ってくれるの?」
「あなたのコトが大切だから」
「!」
尾坦子に対して、主人公が言い放った言葉は胸に深く突き刺さった。主人公は続ける。
「それに、こうすると……」
あの日つくった手袋を、主人公は手にはめていた。
「ほら、手をつなぐことができる」
二人の手と手は一切れの布越しではあるが、確かに触れ合った。
「! …………」
尾坦子の目に、涙が溢れた。しょうがないなと言わんばかりに、主人公は少し溜め息をついてから言う。
「さあ、行こう」
二人は歩き出した。
「ツトム君、手袋だって、いつか……溶けちゃうんじゃ?」
泣くのを必死でこらえながら尾坦子は言う。主人公は答える。
「なら、その時まで」
――暫く歩くと、人の声がしてきた。
「尾坦子さん!」
「うん」
避難所があるという期待を持って二人はもう少しだけ歩いた。そこは武器庫だった。二人が辿り着いた時、そこには十数名の研究員やオペレーターが居た。
「! なぜここにゾムビーが居るんだ⁉」
尾坦子を見るや否や、研究員の一人が言う。
「何⁉」
「何だって?」
その声に反応して、数名がざわつき始めた。
「…………」
尾坦子は下を向く。主人公は尾坦子をかばうように前へ出て言った。
「この人は、ゾムビーの調査の為、実験に参加している人です。僕達には危害を加えることは無いし、むしろ協力してくれている人です」
口調は少しムッとした様子だった。事情を知らないオペレーターや研究員達は言う。
「しかし、どうせ生体実験を行われるようなモルモットだろ」
「そうだ! そんな奴を保護して何になる⁉」
「! ……ひどい。何てことを……」
彼らの心無い言葉に憤りを隠せない様子の主人公。
「いいの」
「!」
尾坦子が口を開いた。
「普通、そう言うわ。……あなた方に危害を加えませんし、迷惑もかけません。ここで避難させて下さい」
頭を下げる尾坦子。
「そんな……尾坦子さん」
主人公は胸が痛かった。
「そこまで言うなら……」
「フン……仕方ないな。ここでじっとしていろよ」
オペレーターや研究員は申し出を承諾したようだが、決まりが悪い様子だった。
「良かった。居ていいみたい」
主人公の方を向き、ペロりと舌を出した様子の尾坦子だったが、主人公の胸中は穏やかではなかった。
(こんな……当たり前のことなのに……尾坦子さんがゾムビー化したってだけのことで……クソ! あの日あんなことさえなければ)
「おい……あれを見ろ!」
誰かが何かを指差し、叫び声を上げる。一同、指差した方向を見る。
「ジュウウウウ」
溶け出す扉、そして……
「ゾ……」
「ゾムバァ」
「ゾム……」
扉を溶かして現れたのは、三体のゾムビーだった。
「そんなぁ! ……避難所まで進行してくるなんて!」
「助けてくれぇ!」
避難所である武器庫内は混乱に陥った。最中、
「下がって」
主人公は避難民の前へ出た。
「尾坦子さんも」
主人公は尾坦子に視線をやる。
「ツトム君、……無理……しないでね」
「うん」
ゾムビー達と対峙する主人公。
「じり……」
(今だ!)
「リジェクトォオオ!」
「ゾ?」「ドシャアアア‼」
一体のゾムビーがリジェクトの餌食となった。
「よし! あと……二体」
その様子を目にしていた尾坦子は思う。
(これが……戦っているときのツトム君……)
顔が赤らむ。
(こんなに頼りになるなんて……)
「ゾムバァ‼」
残りの内一体のゾムビーが体液を吐き出す。
「回避の術! 飛び避け‼」
「タンッ! バシャ!」
主人公は横っ飛びで体液を避ける。床に飛び散る体液。そして、
「リジェクトォ!」
「ドシャアアア」
二体目を撃破した。
(イケる……この人達をそして、尾坦子さんを守るんだ‼)
「リジェクトォオオ‼」
「ドムゥン……」
「!」
最後の一体、あと一体のところだった。最後の一体は、
「石の、……ゾムビー」
息を呑む主人公。
「どうして? 何で? 効いてない」
困惑する尾坦子。思いを巡らせる主人公。
(石のゾムビーは、耐久力、攻撃力ともに上昇している。弱点は、刃物。刀傷があれば、そこから石を取り除ける……けど、僕にそんな攻撃手段は無い)
石のゾムビーを見つめる主人公。
「そして、」(僕が一人で石のゾムビーを倒した経験は、無い!)
一方で、狩人ラボ東側入り口付近。
「ザッ」
爆破と隊員数名が到着した。
「タタタタタタタタ!」
現場は激しい銃撃戦となっていた。ゾムビーはざっと十五体以上おり、ラボに近付くにつれて被弾し、倒れていく。銃を撃っていた隊員の一人に爆破は話し掛ける。
「状況は?」
「はい! 何とか数で対応しています。隊長が来て下さり助かりました。石のゾムビーらしき者も現れ始めた所でして」
「それは何体居そうなんだ?」
爆破は隊員にさらに問う。
「はい、一、二体程度です」
「分かった」
会話を終え、爆破はポケットに入れていた例の宝石を手に持ち、掲げる。
(少し、距離が足りないか……)
爆破は隊員全員に伝える。
「全員、聞け! 今から石のゾムビーを洗い出すために宝石を持って奴らに近付く。射撃がしづらくなるだろうが攻撃の手を緩めるな。やれるな⁉」
「ラジャー」
隊員達は一斉にレスポンスした。
「よろしい」
爆破は返答を聞いてから歩き出す。銃弾の嵐の中、ゆっくりと見えるが、確実に歩みを進めていった。