第十三節 覚悟
――狩人ラボ、爆破自室にて。
「こちら日本の狩人関東支部、爆破スマシだ。そちらはアメリカのN州支部で、間違いないな?」
何やら爆破が電話を掛けている。
「ああ、そうだ。以前話していた石を、そちらへ送ろうと思う。ああ、そんな処だ。……もう待つのは嫌いなのでな、だから……前を向いて進み始めようと思う」
主人公が自宅の風呂、湯船に浸かっている。
「ポカーン」
湯加減は丁度良いようだ。主人公は両手を眺めていた。
「グングニル……か……」
風呂の天井を眺めた。
(ここ一カ月で……色んなことがあった――。本拠地襲来――、グングニルの発現――、そして――。)
「……尾坦子さん……元通りに戻れて本当に良かった」
グッと右手を握りしめる主人公。
「でも――」
主人公は抜刀の影を思い浮かべる。
「かかった犠牲は大きすぎる……」
暫く考え込む主人公。
そして――
「ザバーン」
立ち上がった。
「相談してみよう。コガレ君と!」
その夜、主人公は友出にメールをした。
「『明日、学校で話がしたいんだ』っと」
暫くし、
「ブー、ブー」
メールが返ってきた。
「『分かった、昼休憩に、2階の廊下で待ってる』……よし、明日は心置きなく話すぞ!」
――翌日、学校2階廊下にて。
「や……やあ」
「来たな」
主人公と友出は軽く挨拶を交わす。
「話って言うのは――」
主人公はこの一カ月間の全てを話した。
「ふーん、お前の人生にしては波乱万丈な一カ月だな。けどまあ、あれだ。とりあえず彼女出来て良かったな。大切にしてやれよ」
友出は長い話に対して端的に返した。
「うん……でも……」
「失ったものも多い……ってか」
「…………」
黙り込んでしまう主人公。
しばらくして口を開く。
「狩人の……メンバーさん達が亡くなった事はあったんだ。ゾムビーの魔の手から逃れなれなくて、ゾムビー化してしまって……だから殺されてしまった…………だけど、今回の様に超能力が使えるような主力のメンバーがいなくなってしまう事は初めてで……超能力が使えるのに……あんなに……強かったのに……!」
「……」
友出は主人公の言う事を只々、黙って聞いた。
「だから……僕もいつかは死んじゃうんじゃないかって……」
「!」
「僕だって、超能力が使えるけど、いつかゾムビーにやられちゃうんじゃないかって思ってて」
「おい……」
友出はその言葉に反応した。しかし主人公は続ける。
「それで……せめて生きてるうちに、尾坦子さんとは楽しい思い出を作っていこうって思っているんだ」
「ガッ」
友出は主人公の胸ぐらをつかんだ。
「言いてえコトはそれだけか?」
「……悪い……かな?」
「ドッ」
友出は主人公を突き飛ばした。そして言う。
「もう死ぬ覚悟はできてる……だから悔いの無いように戦って死ねるとでも思ってんのか⁉」
「そうだよ……だから」
「ふっざけてんじゃねえぞ‼‼‼」
「⁉」
激昂する友出に、驚愕する主人公。
「何だよ死ぬ覚悟って⁉ そんなもん頭で考えて、強くなったつもりかよ⁉ そんなの弱いヤツの言い訳だろうが‼ 彼女とは生きているうちに楽しくだぁ⁉ これから死ぬヤツと! 楽しく過ごせるのかよ⁉」
「‼」
「そんなこと頭で考えるよか、ちったあ生きて生きて生き抜く覚悟をしてみやがれ‼」
主人公の脳裏に尾坦子との思い出がよぎる。そして涙腺が震えた。
涙をぬぐって主人公は言う。
「ごめん……僕、間違ってたよ。尾坦子さんの事、しっかり考えてなかった。死ぬ人間とどんなにいい思い出を作ったって、死んだあとは悲しみしか残らないよね。……生きる。……今度から、いや、今から生きる覚悟をもって生きていくよ。生きて生きて生き抜いてやる‼」
「……ちったあマシな覚悟ができるようになったか?」
友出は返した。
「うん! 今日は、ありがとう」
二人は熱い握手を交わした。
――その日の晩、実家の自室にて。
(生きる……覚悟)
ベッドに横たわり、考え込む主人公。
(まずは、生きたいと切に思う事が必要なのかも……ポジティブに、ポジティブに……)
ふと、尾坦子とのデートがあたまをよぎる。
「やっぱり、彼女と楽しく生きていきたいなー。なんて……」
うつ伏せになって、枕に顔をボフボフボフボフっと叩き付ける主人公。
(そこから始めよう! 楽しく生きていき、もっと生きていたいと感じ、生きる覚悟を固める。その流れで!)
しばらくして、主人公は床に就いた。
――狩人ラボ、未だに修繕工事を行っている。
(まだ忙しいのかな? 少し気は引ける、けど……)
「コンコンコン」
爆破自室のドアを叩く主人公。
「? 誰だ? 入れ」
「失礼します」
入室する主人公。
「何だ、ツトムか。何の用だ? ……そうだ、ツトムにも話しておかなければならない事があった。少し、大丈夫か?」
「えっ、はい。大丈夫です」
話を始める爆破。
「ゾムビーが強化される、あの例の石についてだが、所有権をアメリカに移そうと思う」
「! どうしてですか?」
虚を突かれる主人公。
「あの石のせいで、ゾムビー発生率が上がってしまっているのだ。よって、この支部よりも戦力が充実しているアメリカのN州支部へと石を移動させる事で、ゾムビーの発生をその支部へ集中させる。そしてその支部が、ゾムビーを効率良く駆除していけるのではないかと履んでな」
「なるほど!」
爆破の説明に納得した主人公。
「それにあたってだが、私自身も、アメリカへ飛ぶ」
「‼‼‼」
突然の申し出に面食らってしまう主人公。
「ホンキ……ですか……?」
「ああ、大真面目だ」
当然、と言わんばかりの爆破。
「まぁ、現代の航空網は進歩している。N州までは半日程だ。何ら問題は無いだろう。……そうだ、ツトムからも私に用事があったんだな? どのようなものだ?」
(! ! ! どうしよう。スマシさんからが大事な用事だっただけに、こっちの誰がどう聞いても私的な、こちらの用事を切り出しにくい……)
主人公は思わず口を閉じてしまった。
「? どうした、ツトム。何もなければ私は旅の準備に取り掛かるぞ」
首をかしげる爆破。
「あっ! あのっ‼」
事情を話す主人公。
「ははっははは‼ こんな大事な事情を話した後に! 彼女ともっと仲良くなるには、どうしたらいいかなんて!」
笑いを堪え切れない爆破。最早、大爆笑している。
むすっとした様子の主人公。
「だから言い出しにくかったんですよ」
「ああ、悪い。済まなかった。そうだな、大切な人との時間をより良いものにする事は、確かに重要だな……よし、石に因んで、お互い誕生石占いでもしてみるというのはどうだろう?」
「誕生石占い?」
爆破のアドバイスにキョトンとした様子の主人公。
「時にツトム、誕生日の月は何時だ?」
「!」