第十二節 副隊長と逃隠の入院生活
ここは、狩人〇×病院。主に、ゾムビーとの闘いで傷ついた狩人隊員を入院させている。
その一室。逃隠と身体が入院している。
「暇だい……」
「暇だな……」
「ところで副隊長、爆破隊長はケガが無かったのですカ?」
身体は口を開く。
「ああ聞いたところによると、腹部を強打したが、吹き飛ばされる時に受け身を取っておられたのだろう。骨等には異常は無く、入院の必要は無かったという話だ」
「ヒュー。さっすが隊長だい……(語尾、でいの方が良くないカ……)」
口笛を吹きながら言った逃隠は静かに思う。
「コンコンコン」
「!」
「……」
ノックが聞こえ、反応する二人。
「誰だい?」
「……入れ」
逃隠、身体は言う。
「こんにちはー」
少し気を使いながら主人公が現れた。
「何だ……ツトムか」
「よく来たんだい、ツトム」
「お見舞いのフルーツ、ベタな感じで持って来ました。はは……」
主人公は少し表情が硬い。
「良く持ってきた、ツトム。褒めて使わすんだい!」
「そんなに気を使う事も無かったけどな」
逃隠、身体の意見は何気に正反対だった。
「はは……二人とも、手が不自由そうなのでリンゴでもむきます」
何気に手先が器用な主人公、リンゴの皮むきを始める。
「二人は、いつ頃退院なんですか?」
「俺はあと3週間、副隊長は2週間でい! ……あ、間違った……だい!」
「そっか……あんなに強力な敵が現れ始めたら、厳しいですよね。副隊長」
「そうだな、あの矢以外では倒せてないからな……隊長ですら、太刀打ちできるかどうか」
副隊長はそう返す。
「僕が……僕しかできないコトならば一生懸命頑張ります」
「そうだな、ツトムが今や頼りの綱だ」
逃隠も口を開く。
「悔しいガ、あの技を使えるのはツトムくらいだしナ!」
ペコリとお辞儀をする主人公。
「ところで、入院中何をしてるの、サケル君?」
「俺か? 俺はだナ……虚空を見つめている」
逃隠の発言にズッコケる主人公。
「ほ……ほかに何かないの⁉ ゲームするとか、いいと思うけど。何なら何か貸そうか?」
「この……有様だい……!」
逃隠は折れた両腕を見せた。
「……何か……ごめん」
「空気が悪くなったな。ツトム、リンゴでもくれ」
身体が悪くなりつつある空気を換えるべく、助け船を出す。
「あっ、ハイ。あっれら」
「カラン……コッ」
主人公は手を滑らせ、果物ナイフとリンゴは地に落ちた。
「あ……」
「…………」
「…………」
「す、すいません」
(コイツ……大殺界か何かか?)
表情の暗い身体。
「あの……流れが悪いのでひとまず帰ります。失礼」
「ガラガラガラ、ピシャ」
主人公は病室を後にした。
「サケル……」
「!」
「アイツは何をしに来たんだ?」
「さ、さア」
謎の空気が二人を包んだ。
「シャリ……」
リンゴをたしなむ身体。
「お前も、どうだ……?」
「あ、いいんスか? 頂きまっス」
「シャリ……」
「う、美味いっスね、リンゴ」
二人は昼ごはんまでにリンゴを1つずつ食した。
昼――
「頂きまース。もぐもぐ……ここの病院食、マズいっスねー。コメの一粒一粒が生きてない」
「……言うな」
「もぐもぐ…」
「もぐもぐ…」
(ま、まずいぞ)
逃隠は考える。
(思えば副隊長との会話、狩人の実務や組手の会話しかしてなイ。まずい。非常にまずいゾ。この昼飯並みにまずイ)
「時に、」
身体が話し掛けてきた。
「ハッハい‼」
「サケルは何が好きなんだ……? 食べ物で」
咄嗟に逃隠が答える。
「カ、カレーでありまス」
「そうか……病院食で出ればいいな」
「はい……」
(……会話続かネ――‼)
逃隠は頭を抱える。
(カレーですじゃねぇだロ! そこから先何もねぇだろうがヨ! 幼稚園児か俺は⁉ 語彙なさ過ぎだろおイ‼)
「俺は……」
身体が口を開く。
「!」
「俺は、ビーフストロガノフが好きだ。あと、ビーフジャーキーも……」
「う、牛が好きなんですネ」
必死で言葉を返すがよく分からない発言になってしまう。
(違うだロ! 牛肉は皆好きだヨ! 何かないのかヨ! てかビーフストロガノフってなんだよ、聞いたことしかねぇヨ‼)
「時に、」
(また会話吹っ掛けて来た‼‼‼)
「例の奴……壁のゾムビーについて、どう思う?」
「ア……はい……とてつもない防御力を持ツ、強敵だと思いまス」
「そうだよな……肉弾戦で敵わない相手……と見た」
「コクリ」
逃隠はうなずいた。
「隊長の能力をもってしてもダメージは与えられなかった。戦った感じで、刃物は効果がありそうか?」
「たぶん、無いと思いまス」
身体が問う。
「何故だ?」
「はい……、石の奴は殴打を吸収し、無力化してましタ。けれども壁の奴は全てを弾き返して無力化していまス。恐らく刃物も弾き返してくると、予想していまス」
逃隠の答えに、納得する身体。
「なるほど、そういう事か……頼みの綱は、ツトムだけ……と。益々戦いにくくなるな、石の奴ですら手こずっている俺だ……」
「そんナ……(確かに刃物を用いない副隊長は石の奴を倒すのすら難しい。でも、俺の中での副隊長は……俺の副隊長は……!)」
身体が口を開く。
「でも、だからと言ってやる事は変わらない。相手に怯む事無く、戦い続けるのみだ。一人でも多くの人間を守る為に戦う。今まで通りな。……そんな中で、もし俺が戦いあぐねているようなら、救ってくれよ。俺を」
トンと逃隠に手をやる身体。目頭が熱くなる逃隠。
「は……はイ‼」
(認めてもらえた! ……心から尊敬している人に、認めてもらえた‼)
ふるふると震える逃隠。
するとそこに――、
「やあ、元気か? 二人とも!」
爆破スマシが現れた。
「た、隊長! 隊長の方こそ、あの殴打を喰らって、平気でしたか⁉ 実は大怪我を推してらっしゃるとか」
身体が少し取り乱したように言う。
「なーに、あんなものは掠り傷に過ぎん。サケル、体調はどうだ?」
「はイ! 全治3週間といった病状ですが、私は元気でス」
「そうか、入院中悪いが、狩人の活動についての話をさせてくれ」
「ラジャー」
「了解だい!」
身体、逃隠の応答の後、爆破は話し始める。
「例の石……あの所持権をアメリカに移そうと思う」
「!」
「⁉」
驚愕する二人。
「すると、どうなるんだい?」
「ここからは予想の範疇の話になるが聞いてくれ。石のゾムビー、壁のゾムビー並びに全てのゾムビーの発生率を抑える事ができると予想されるんだ」
「‼」
「……本当ですか?」
身体が問う。
「ああ、あくまで予想になるがな」
「何故、そのような予想を……?」
更に身体が問う。
「例の石、紫に輝く宝石が、我々の手に渡ってから、ラボ周辺のゾムビー発生率が数倍に上がったのだ。その期間に我々の間での異変があると言えばあの石を手に入れた事意外に何もない。そこからこの様な予想をしたのだ。アメリカに石を移す事で、アメリカでのゾムビー発生率が上がるかも知れない。だが、今の我々の勢力と比べると、アメリカにある支部の方が戦力が上だ。あちらに少し頑張ってもらおう」
「ふ――。これで気兼ねなく休めますネ! 副隊長‼」
「ああ、助かった」
逃隠と身体が会話を交わす。爆破は締めに言う。
「私からは以上だ‼」