003 傷心からの帰還
ジン 「こんにちは!」
お隣さん「 ふんっ ふんっ! はぁっ! 」 ジン「…こんにちわぁー」
--- ガッ! カツッ! ガッ! - 「 ふんっ! ぬぁあああっ! 」
---聞こえているはずだ…なんせここには二人しかいない…。
そして彼が切っているのは物言わぬキノコだ。
しかも動かないキノコ? 手も足もない動かないキノコにも経験値があるのか?
……目の血走りようからわかる。生粋のスタートダッシュ族の方だ。
イメージ通りの彼こそが本物。 邪魔は良くない諦めよう…まるでNPCのようだ。
ふんふんは「 ふんっ ふんっ はぁっ! 」
モンスター、妖精等、また、運営のキャスト、NPCを除いた
プレイヤーキャラクター達には正式に自身が決めた名前がある。
俺の場合は ジン 安直だけどまんま本名です。
パンフにあった通り、自ら呼称を名乗ったり、又聞きしたり、
掲示されるようなことでもない限り、名前は知覚しないようになっている。
パンフを見た限りでは オシャレ だなと思って気に入っていたが
実際はイメージが勝手に表示されている。 彼の名は ” ふんふんは ” だ。
俺の中では ふんふんは か…。 これでは俺のセンスが疑われてしまう。
- ふと気づく。このままではセンスを疑ってくれたり中傷してくれる相手すらいない。
事前学習として、パンフがくたびれるほどに隅々まで読み込んだ。
だがしかし、だがしかしながら、インしてからのことはまるで無計画で
漠然とした期待感だけをトランクパンパンに詰めて飛び込んで来てしまった。
なんて浅はかだったんだろう。 半日にしてすでに誰かと会話したくて堪らない。
あの二人、アリスちゃん…手を差し伸べてくれていたというのに…。
自分で蒔いた種が花をつけ、実が実り、今にも食べごろになってしまった。
今の所聞いた声といえば、 ふんふんは と ナレーションのお姉さんのみ。
- 断然ナレーションのお姉さんの一択だが、うまくいけば ウノ の町で
会えるかもしれない。 本格的に寂しくなるまえに、町へと急ぐことにした。
- ! ラッキーすぎる。 ウノの町だった。 ランダムらしいから本当に良かった!
お姉さんの居場所はすぐにわかった。 何せ人だかりが出来ている。
365人もいればウノにもそれなりに大勢が、俺と同じ寂しがりやも沢山いるだろう。
せめて一言! 挨拶だけ一言交わして今後の心の拠り所にさせて貰おう。
お姉さんも大変だろうし、多くは望みません。ここにいてくれた安堵感は一入です。
美しく染まった夕焼け空を眺めて人が引くのを待つことにした。 少し寝てしまった。
- 周りには人がいなくなっていた。 お姉さんは今一人。
ジン「…こ、こんにちわー…キャストの…ナレーションのお姉さんですよね?」
(ナンパだったら絶対に振り返って貰えないでしょう。でも違いますから。)
反応がない…あぁぁあ…こちらはほんとにNPCか…後ろからじゃ返答ないよね。
だが、少々の後、振り返って応えてくれた。
お姉さん「ああ、こんにちはー」
ジン 「!? こんにちはー」
(何でお面?キャストだから?)
お姉さん「……ええっ!?」 お姉さんが跳ねた。
ジン 「えっ?」
お姉さん「ジンさんっ!?」 ジン「ええっ?」
お姉さん「……ああっ! カパッ ほらっ あたしっ!」
ジン 「……あっ ああああああっ!」
知ってる!知ってる!! 至極綺麗なこの顔はっ!
ジン 「あぁあ アカリちゃん!」
アカリ 「そうっ!」