プロローグ
- 戦士、法術士、暗器士、弓士、銃士、機械士 -
この6つでも大いに悩むのに、
大人用オムツって何種類あるんだろう…。
-
とりあえず一番安いやつを買った。ただの保険だし…これで十分だろう。
カチャッ
タクシーのトランクには自分の荷物をしまえるスペースがある。
これくらいの大きさなら充分…ギュッ…あれっ…。
ちょっと見えてる気もするがお客さんが驚かないレベルなら大丈夫!
…ゥゥゥン ブゥゥゥウン
電話が鳴ってる。運転席に置いたままだった。
- …わっ…着信14件? 全部公衆電話からだ。
家族はあり得ない。明日のことでついさっき連絡とったばかりだし。
お客さんにも教えないし …誰だろう。
明日は24日。 あら…日付変わって今日からクリスマス。
10年ぶりにクリスマスに休みが取れた。正確には休みではないけど…
本日が仕事納めで退職が決まっている。
年末繁忙期の稼ぎやお世話になった会社の縁は正直名残惜しいけど、
予定より1年多くかかったが、目標の金額がたまった今、
自分へのご褒美も兼ねて、来年3月の開業予定日まで少しのんびりすることにした。
自分へのご褒美の最たるものが、明日リリースされるコレだ。
” フロンティアストーリー ”
” 大人も も一度ファンタジー! 終わらない冒険の旅へ ”
最高。ほんと最高。 一番は年齢制限が20歳以上。
大人がゲームしてごめんなさい。と謝る相手がどこにもいないことになる。
さらにこちらは制限ではないが、明日からはじまる4年チケットの推奨が
30歳以上になっている。 34歳 俺のハートは完璧コレに射抜かれた。
通称4年チケットとは、国も開発に関わっているらしい純国産の新技術で、
ヘッドマウントの装置発信でダイブするのは通常のゲームと変わらないが、
その先がすごい。 実際の12時間という時間を使って
ダイブ先では体感で4年もの間、冒険が出来るという人の生んだ神の所業。
おそらく30歳以上推奨というのは、成人してから一瞬のように流れてしまう
それら10年を、酸いも甘いも噛分けた4年の尊さが身に染みる世代、また、
さらに円熟した大人にこそ与えてくれようという意思表示に違いない。うん。
本日朝9時スタートの12時間拘束は事前の約束で、
今日や明日に予定の控えた紛うかたなき幸せな方々には難しい条件だ。
イナイ歴3年の俺なんかには貰って貰えて大変ありがたい時間だ。
貰って貰えたのに貰えた最高の贈り物だ。 方々への偏見はない。
なんせイナイ歴の前には幸せなクリスマスもあったのだから。
今の俺は ” フロンティアストーリー ” への期待で幸せいっぱいだ。
オムツもあるので何の不安も見当たらない。
…そう。 12時間拘束の対策としてオムツだ。
どこにも一言も書いていなかったので必要ないのかもしれないけど自己判断だ。
…幸せだったクリスマスかぁ… 思い出しちゃうとキツいよね。
- 考えてると次の目的地につきました。会社近くのコンビニです。
健康診断書。会社で定期的に健康診断があって良かった。4年チケットは
健康診断書を提示して購入出来ることになっている。 無事ゲットした。
チトセちゃんだとばかり思ってたけどチトセちゃんいなかったな。
- アリガトウゴザイマシタ ー
チトセ「あっ」 ジン 「おっ。こんばんわー」
チトセ「お疲れ様です! ゴミ捨て完了。 デカフェありました?」
ジン 「例によって最後の一つ。感謝感謝だね」
チトセ「良かった! チケットも無事買えたみたいだし」
ジン 「あれっ? …チケットの話したっけ。 …なんか恥ずかしいぃ」
チトセ「 ! いえ…えとっ…その封筒はチケットですから」
ジン 「ああ…そうなの? 大人がゲームしてごめんなさい」
(結局言ったな。このセリフ)
チトセ「何言ってるんですか。 …でも今日が最後なんですね」
ジン 「待て、それは絶対言ってない」
チトセ「はい。お二人に聞きました」
友達は二人しかいない。一人は会社の同僚でもう一人も会社の同僚。
そう我が人生、悔やみ所だが俺は友達が少ない。
女性の知り合いはカウントしていいのか悩むのでそれ以外本当に二人。
この同僚の二人と俺の3人は、会社から近いこのコンビニの太陽、
チトセちゃんの大ファンだ。 明るく快活でパないルックス。
コンビニに看板娘? 間違いなく売り上げにも貢献しているであろう。
ファンは数多い。 聞かなくてもわかる。
この辺りの時間帯には、入れ替わり立ち代わり同業者が出入りしている。
店にとっては防犯上よろしいようで店長も我々を大事にしてくれる。
ジン 「…家から割と近いし。またお世話になることもあります」
チトセ「だと良いですけど。 …寂しくなります」
ジン 「実家までお供したりはもう出来なくなるね。 あっ
良かったらあいつらに引き継ぎしておこうか?」
チトセ「いえ、それはもういいんです。 ほんとに」
ジン 「そう? …とりあえずお世話になりました」
チトセ「…近いうちにまたお会いしましょう。ほんとに近いうちに!」
ジン 「ありがとう。 また、近いうちに」
チトセちゃんの実家帰省に月一ペースで何度か使ってもらった。
予約で仕事はしないようにしているので彼女は特別だ。
彼女のご両親は毎回、家の外で待っていて、毎度差し入れまでくれる。
今月なんかお母さんだけだったけど、 ” 上がってお茶 ” まで勧めてくれた。
流石にお断りしたが、優しいご両親と可愛い娘さんだ。
…ほぼほぼ二日に一遍のペースで会っていた彼女に会えなくなるのは正直寂しい。
とはいえ俺は一回り以上も離れた子に恋心を抱くのは抵抗があるので、
このまま彼女の幸せを願いつつ去りましょう。
- 無事帰庫しました。 アオタン(深夜割増の時間帯)からほとんど仕事してないな。
上司「おーっ お疲れさん!無事戻ったな」
ジン「お疲れ様でしたー」
上司「……一件頼まれてくれないか?」
ジン「今からですか? 急ぎで?」
上司「いや…ほらっ」 ジン「?」
- うなだれ気味に出てきたのが
ジン 「アリスちゃん? どしたの? 今日明けだったんじゃ?」
アリス「……先生ぇー…」
上司 「…仮眠室占拠してなにやらメソメソぶつぶつ言ってるって
所長のお嬢とは言え…苦情でててさ」
ジン 「苦情はまずい」
上司 「お前が送っていくなら帰るとかワガママ言ってる」
ジン 「 ! 今から所長ん家行くんですか」
上司 「時間ギリギリだよなぁ…」 アリス「…」
ジン 「ここのお隣は千葉だけど、所長ん家千葉の真ん中でしたよね」
上司 「最後だし…いいかな?」 ジン「…行きましょう」
上司 「レシート切ってきてな。所長から余計にとってあげるから」
- アリスちゃん。所長の娘。ハーフ。24歳。
ダンディーな所長にはまったく似ていないが(失礼)ブロンドの可愛い子。
今はパートタイムで月8日ほど運転士をしている。
若くしてタクシー運転士を始めた俺の経緯をしる所長から頼まれて
班長でもないのにお師匠様役を務めて以来、懐かれてしまっている。
経験者ということでこの会社に移ってきたが、経験が浅かったため
至らぬ点は多々あったが、なにかと目をかけてくれた所長。
その所長のお嬢さんのことだ。 やはり放ってはおけない。
- バタンッ カッチッ カッチッ カッチッ ブォロロロロロロッ
ジン「それで? 何があったの?」
最近のタクシー運転士には業務上必要な会話以外、話しかけられない限り
しないという考え方があります。余計なことを言う人も多かったみたいでね。
知ってましたか? 今回は他人ではないので特別です。
アリス「…耐えられないほど悲しいことがありまして」
ジン 「…マジかよ…それだけ持ってて悩みとかあるんですか」
アリス「なんですかそれは」
ジン 「仮眠室占拠ねぇ…誰かみたいに浴場でないだけましか、悩みなんて
俺でなくてもチョロチョロしてる誰か捕まえて話してみればよかったのに」
アリス「わかってくれそうなあのお二人も明ダブ公でした」
(明ダブ公:出勤日の次の日が明け、さらにダブル公休 ほぼ3連休)
ジン 「あぁ…そうだった。 約束あるから合わせたんだった」
アリス「 ! 男3人でクリスマスですか?」
ジン 「それなんかやだなぁ…まぁ…そうなるかな?」
アリス「先生…会社辞めちゃうんですよね?」
ジン 「……聞いちゃいました?」
アリス「パパから…それも今朝…挨拶しとけって」 ジン「なるほど」
アリス「それも何か嬉しそうに…あの裏切り者」
ジン 「所長らしい…応援してくれてんだ」
アリス「先生こそ!会社に不満があるんだったら言えば良かったんですよ!」
ジン 「違う違う。 ……君には言っちゃうか。 俺、開業するんだ。」
アリス「 ! あっ! 個人タクシー!?」
ジン 「んー……全然違うこと」
アリス「全然違うこと…」
ジン 「今は言わない。 うまくいったら報告するよ」
アリス「……報告しなくていいです」
ジン 「冷たいなぁ…師弟関係で仲良くやってきたじゃないの」
アリス「違います。 ついていきますから!」 ジン「でたでた」
アリス「本気です! 何でもいいですよ。 隣で手伝いますから」
ジン 「何言ってんの。 所長かわいそうでしょうよ。 俺の命も危ういし」
アリス「あのヒゲは良いんです。 結局私が一番可愛いんだから」
ジン 「…冗談でもそういう言い方は嫌いだな」
アリス「……じゃあ、100歩譲ってタクシー続けます」
ジン 「うん。 あと何年か続けてさ、内勤に移って手伝ってあげるといいよ」
アリス「そうしますから、とりあえず。 結婚して下さい!」
ジン 「…はいはい。 お幸せに。」
アリス「なんでなんですかぁ! 何度も言いますが私より可愛い子なんて
これはなかなかいませんよ!」
ジン 「そうなんだけどもやっぱり自分で言わないほうがいいって」
アリス「髪ですね? まだ足りませんか? この一年で結構伸びましたよ」
ジン 「伸びましたねぇ」
アリス「ウソつき…セミロング以上で結婚してくれるって言ってたのに…」
ジン 「それは夢オチだったって自分で言ってたじゃない」
アリス「本気なのに…なんでダメなんですか?」
ジン 「知らないの? 俺もう34なんだぜ」
アリス「適齢期じゃないですか!それにうちの両親は12個違いです、ママ外人だし」
ジン 「所長…すげぇ…マジか」
アリス「金髪ですね? 金髪がイヤなら染めますって何度も言いましたよ?」
ジン 「違うって言ってるじゃないですか。金髪なんてゴージャスでむしろ好きです」
アリス「わたーしもはんぶんはガイジンでーす ガイジン年齢きにしまセン」
ジン 「わたーしは純日本人でーす 薩摩隼人はきにしまーす」
アリス「ご両親が鹿児島出身なだけでしょ。 東京生まれ東京育ちのくせに」
ジン 「貴方も私の方が英語知ってるくらいじゃないですか」
アリス「いーっ! あなたが国際の高校とかズルしてるからじゃないですか」
ジン 「…お互い詳しいですな…寂しくなるね」
アリス「……そろそろ着きますけど、男3人のクリスマスなんて寂しいですよ」
ジン 「あー たまにはね」
アリス「このままうちでクリスマスやりましょう! …なんなら呼んで」
ジン 「だめなんだわー」
アリス「なんでなんですかー! このわからずや!」
ジン 「跳ねないでぇー お相撲さん3人より揺れてますよ…てか実は違うんだ」
アリス「何がです?」 ジン「……3人ではなくもっと大人数かな」
アリス「 ! ……詳しく聞かせて頂きましょうか」
-
アリス「次っ! 次右でお願いします!」 ジン「えっ…はい」
アリス「ここっ ここです。 ちょっと待ってて下さい」
- コンビニだ。 …コンビニだねぇ。
アリス「お待たせしました! コレ差し入れです」
ジン 「ぉー デカーフェ… って ! 」
アリス「ヌフフフフ…」
ジン 「まさか…マジで…4年チケット?? 健康診断書は??」
アリス「ママが最近FAXを覚えまして」
ジン 「マジか…やるんだね…」
アリス「4年間一緒とか最高じゃないですか。やるに決まってます!」
ジン 「さっきも言ったけど、あの二人とも偶然出会うまでは連絡取り合ってまで
探し合わないってのを楽しみにしてて」
アリス「えーっ…それはわかりました…嫌われたくないし」
ジン 「嫌ったりはしないけれども…ありがと」
アリス「まぁ…私はほとんどゲームとかしてこなかったし、足引っ張らない程度には
動き方とか覚えてから会いたいかなぁ…とも思いますしね」
ジン 「あ、これ特殊だから。 容姿はそのままだし、感覚で普通に動けるし」
アリス「そうなんですか…まぁ物覚えは早い方だし問題なのは容姿か」
ジン 「物覚えは折り紙付き。売上俺より常に上だし。ダメ師匠。
容姿は何よ? バックミラーからチラッ アラヤダ…完璧じゃないの」
アリス「いや…目立ってしまうので…マスクしていこう」
ジン 「はいはい。持たざる者にはわかりません悩みでよろしゅうございますな」
アリス「嫌味な意味じゃないですよ。 …ガイジン顔だから」
ジン 「ああ…いや、それもこっちと同じで羨ましがられるだけだよ。
俺はそのままが良いと思うけど他の皆も髪色変えれるしその点は大丈夫。
保証する!あとマスクたぶん無理だと思う」
アリス「そうですか…包帯巻いていこう。クノイチみたいに」
ジン 「無理だって…でも元気出たみたいで良かった」
アリス「……先生…ジンさんのせいですよっ!もう会えないとか…
寂しすぎるじゃないですか…でもこれで解決! 本当に良かった……」
ジン 「お客様……着きました」
アリス「車無い。パパもう出てますね。パンフみて覚えたりとか準備が色々あるので
実に、非常に名残惜しいけど行きますね…気を付けて帰って下さいね」
ジン 「とりあえず…お世話になりました。ありがとう」
アリス「お疲れ様でした。明日、今日からもまたよろしくです!」
ジン 「それではね。 ……あっ オム!」
アリス「オム??」
ジン 「おむ…すびはいらないよ。ゲームって中でご飯食べられるから」
アリス「あははっ これ朝食ですよ! …了解。 ではゲームで会いましょう!」
- 俺も帰って準備をしよう とりあえず少し寝ないと
-
おはようございます。おっ…昨日は言えなかったね。釣銭ボックスさん。
長い間お疲れ様。地図さんもボロボロになって。お二方は開業までお休み下さい。
開業してからまた活躍して頂きますのでね。今は大事なもの入れに安置します。
やっと買えたお気にの軽トラに挨拶。これから4年間乗れなくてごめんね。
本当は1日だけど。とりあえず一緒にごはん食べに行こうね。
- 帰宅しました。
これからこれまた、やっと買ったシングルベッドを組み立てましょう。
この日のために思い切って買いました。オムツの準備も忘れずに。
酒はほとんど飲まないし、タバコもすわ…タバコは吸います。
はやりの加熱式のやつ。 では小休止。
- 準備は万端整いました。 友達二人からのちゃんと起きてるよ連絡も来ました。
身辺整理なんかしちゃって…死地に赴くわけでもなし。
でもなんだかこう…ドキドキが…ワクワクが止まらない。
ドキドキする。 ホラー映画やスプラッタも嫌いではないけど
性格的に、抗う手段も無くやられていくストーリーは好きじゃない。
絶望的な状況でも、対抗手段や一縷の望みがあるような作品が好きだ。
例えば幽霊殴れるとか、そういったちょっとしたことでもグッと面白い。
…バッドエンドのストーリーもアンチテーゼとして必要なのかもしれないけど
やっぱりハッピーエンドが大好きです。
- これから始まる マイハッピーエンディングストーリー -