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悪の伯爵【前編】

悪役とは一口に言っても、実に様々種類がある。マッピングするなら、小悪党から大悪党までを縦軸とすると、横軸には詐欺師、泥棒、殺人鬼、ジャンキー、或いは義賊と非常に多くの種類が並んでいる。

「うーん、どうしようかしら」

弟、ダリウスから謹慎、もとい休息を言い渡された私はさっそく悩んでいた。

「目指すならやっぱり大悪党だけど……」

殺人鬼とか強盗とか物騒なのは論外にしても、私の好きなタイプは時代劇に出てくるような悪代官。

「悪代官はどう考えても小悪党よねぇ……」

私と悪代官との出会いは小学生時代まで遡る。両親が共働きで留守にしがちであった我が家では、学校が夏休みに入ると子供達を祖父母の家に預けるという習慣があった。

「あー暇だわー」

普段暮らすところから離れ、近くに友達もいない。それに、田舎オブ田舎。全日本田舎選手権でもあれば、祖父母の家があるここは間違いなく上位に食い込むようなところなので、もちろん遊ぶところなんかもない。

そんな無い無い尽くしのときにはテレビを見るに限る。というかそれしかない。

しかし、夏休みの子供向け番組を多くやっている昼間はまだいいのだ。だが、夕方はツラい。

子供向け番組も一区切りし、あとはニュースか時代劇の再放送。

『ご老公の御前である。一同、頭が高い。控えおろう!』

うん、なんか今日も一人悪代官が成敗されている。いつもの調子だ。台詞も覚えてきた。

だいたいこの悪代官という奴。ちょっと頭が悪いのだ。悪いことをしているのだから、きっと狙ってくる敵も多いはずだ。ならば普通、もっと強い人をもっと雇っておくべきだ。

そうすれば、こんなお爺さんとそのお供数名にやられるなんてことはまずない。

悪代官ってバカな奴。最初はそんな調子で見ていたのだが、次第に。

「ほら、そこ! 後ろを狙いなさいよ後ろを!」

「あっ、何やってるのよ! 今がチャンスじゃない! 左右から囲んで一気に斬る!」

「ぼさっと眺めてるんじゃないわよ! 後ろのご老公が手薄じゃない! ほら、手が空いてるんだったら、そっちに斬りかかって行きなさいよ!」

次第に悪代官側に感情移入し、私だったらもっと上手く立ち回れるのに。

そんなことを思いながら、夏の日々を過ごしてきた。

だからこそ、よくある様な悪役回避ルートではなく、悪役一直線ルートを選んだのだ。そうしたほうが生存できそうに思えたのだが……。

「はぁ……。本当にどうしようかしら……」

陽が傾くまで悩んでいた私に、脳内悪代官が囁く。


『先生! お願いします!』


これだ!

「おーほほほほっ!」

すごいぞ私! 天才! 才女! ああ、自分の才能が恐ろしい……。

思わぬ天啓に、今日ばかりは控えようと思っていた高笑いが漏れる。

危ない危ない。私はキョロキョロと周囲を見回し、ダリウスがいないことを確かめると、再び思考の海へと潜る。

悪代官の必殺技と言えば、“先生”。即ち助っ人用心棒ではないか。

「なんてことかしら、こんな簡単なことも忘れていただなんて」

助っ人用心棒の“先生”をいっぱい雇おう。そうすれば、正義の味方もあっと言う間に追い払えるはずだ。

「先生方、やーっておしまいなさい! おーほほほほっ!」

からの。

「世に正義の栄えたためし無し、ですわ! おーほほほほっ!」

コンボが炸裂!

悪代官……じゃなかった、悪役女王、悪の本懐を遂げる! 悪役女王勝利の方程式で幸せつかむ!

「ああ、何て素晴らしい未来なのかしら……」

そうと決まればさっそく行動あるのみ。

まず悪代官に足りないのは参謀だ。だいたい、一人で全てを行おうとするから悪事が簡単にバレるのだ。

いくら顔を頭巾で隠しているとは言え、自らが悪徳商人との密会現場に赴けば、事が露見する確率が上がるに決まっている。

そう言う裏工作は、頭のいい部下に任せればいいのだ。

そして私には、この世界にそういった裏工作が得意そうな人物に心当たりがある。



翌日。

「というわけで行きますわよ、ダリウス」

「え? 姉上、どちらに……? 」

「決まっていますわ。悪の伯爵のところですわ」

「は? 悪の伯爵……?」

ダリウスが怪訝そうな眼差しを向けてくるが、こんな時は高笑いだ。悪役は律儀に相手の質問に答えたりはしないのだ。

「おーほほほほっ!」

昨日、助っ人用心棒の先生大量雇用計画を思いついてからというもの、私の気分は最高潮を保っていた。おかげで底冷えのするような悪役スマイル(無言バージョン)を習得すべく、その練習に多くの時間を費やすことができた。

さっそくその効果を試してみよう。

「あ、姉上……?」

うん、効果は抜群だ!

正義のヒーローたるダリウスもどうやらこの悪役スマイル(無言バージョン)の前には赤子も同然のようだ。

「おーほほほほっ!」

さらに気を良くした私は、足取りも軽い。

いざ行かん、悪の伯爵の元へ!

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