謎めくいつもの夏
ひまわりは目を閉じ、祖父の家の付近の景色を思い浮かべた。辺り一面、真っ白だ。雪と、吐息と、曇ったガラスで。頭の中に、そんな白銀の世界と蝉の声が同居しているのは、なんだかとても不思議な感覚だ。
しばらくして、ひまわりはあることを思い出した。おかしい。ロシアでも、祖父の家があるあたりは夏に雪は降らない。しかしひまわりが祖父の家にいた頃には、確かに雪が降っていた。ひまわりが日本に帰る時もだ。ひまわりが日本に着いたのは去年の7月の最後のほうだから、やはりおかしい。日記を読む限りでは、特に異常気象ということでもなさそうなのに。
気になったひまわりだが、どうすることもできず、結局日記を読み終えてすぐ眠ってしまった。
――風の音がする。祭りの音楽も聞こえる。祭り?
ゆっくりと目を開けると、そこでは夏祭りが行われていた。雪が吹雪いている中でだ。あの銀髪の少年もいる。
「あ、アオイ! これがロシアの夏祭りだよ!」
「へぇ、そうなんだ」――
夢から覚めた。短く浅い眠りだったが、昼寝なのでちょうどよかった。そろそろ夕日が傾き始める時間だ。少し涼しい風が吹いている。今日はいつもより気温が低かった。
先ほど見た夢は何だったか、すっかり忘れてしまった。
「葵、明日は夏祭りだな」
父が帰ってきていた。ビールを片手に、テレビを見ている。
「今日は早かったね」
「まぁな」
「明日は遅い?」
「多分ね」
「父さんは夏祭りに行かないの?」
「そりゃあ生きたいけど、仕事があるからなー……。こればっかりは仕方がない」
「そうだね」
晩御飯はそうめんだった。まだ夕日は沈まない。ひまわりが父に掃除をサボらないでね、と言うと笑って曖昧な返事をされた。父が夏祭りには彼女と行くのか、と訊いてきたので笑って曖昧な返事をした。