Aoi дневник ~葵の日記帳~
夏休みが始まり、ひまわりは日記を読んでいた。あまりにも暑いので、寒い祖父の家を思い浮かべながら読むと少し涼しく感じる。
日記を読み、改めて思い出したことがたくさんあった。
ひまわりは、寒くても外で過ごすことは好きだったので、よく家の周りを散歩していた。今日は湖のほとりで凍った雪や氷を砕て遊ぶために、小径を通って森を抜けた。するとひとり、少年が海のように静かな湖畔に立っていた。その子は帽子をかぶっておらず、長くてきれいな銀色の髪をしていた。つま先で氷を蹴飛ばし、湖に放り込んでいる。ひまわりより少し年上のようだ。
思い切って声をかけてみた。「ねぇ、ひとり?」
その子は中性的な顔立ちで美しかった。どうやら男の子らしい。
「うん。君も独りか。俺、猫を探してるんだ」
「猫?」ひまわりは聞き返した。彼が何かを探しているようには見えない。
「どんな猫?」
少年は黙ってひまわりを見つめた。
「……やっぱり、いいや」
説明するのが難しかったのか、少年は猫については話さず、ひまわりに訊いた。
「君はどこから来たの?」
ひまわりは元来た道を指して答えた。「あっちのほう」
「違うよ、生まれ故郷だよ」少年は笑って言った。「可愛い子だな」
ひまわりは少しむっとして答えなおした。「すっごく遠いところ!」
「へぇ」少年は、ちょっとだけからかうような表情を見せ、湖に目をやって静かに訊いた。
「どんなところなの?」
ひまわりは困った。どんな場所かといわれてもわからない。
「……ここよりも、ずっとさみしいところだよ」
「ここは? さみしい?」
ひまわりは素直に答えた。「さみしい。寒いし」
しばらく沈黙が続いた。そのうちに少年は凍って固まった雪を赤い指先でつつき、ひまわりに背を向け
「じゃあね」
と去っていった。