日本の夏
夏休みまであと二日。教室内では、夏祭りの話題が多く聞こえた。この中学校の学区内に少し大きな神社があり、そこで行われる毎年恒例の行事らしい。ひまわりは一度も言ったことがないので、少しだけ気になっていた。花火も打ち上げられるということだ。
夏祭りが行われるのは、ひまわりが日本を発つ三日前だ。仲のいい友達に誘われたので、行けるように早く準備をしようと思い、家に帰ってすぐに荷造りを始めた。すると、バッグの中から一冊のノートが出てきた。ロシア語の日記だ。ひまわりが去年、ロシアで体験した出来事が記してある。
夏休みの宿題をもっていこうか悩んでたところで、父が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
「今日は残業なしで帰れてよかったよ。晩御飯はどうする?」
「昨日のコロッケがあるよ」
「じゃ、それと……サラダでも作るか。」
トマトを切り、レタスを水で洗ってドレッシングをかける。そういえば、夏祭りのことを父に言っていなかった。
「父さん、今度夏祭りに行ってくるね」
「峯山神社の? ……行けるのか?」
「準備を今日中に終わらせれば、行けると思う」
「そっか、楽しんでおいで」
「うん」
父が再婚しないのか気になるが、離婚してからもまだ相手はいないようだ。きっと僕が働けるようになるまで見守っていてくれるんだろう、とひまわりは思った。
次の日の帰り道、もう蝉が鳴いていることに気が付いた。真っ赤な夕日はまだまだ沈まない。それならあんなに朱くならなくてもいいのでは、とひまわりは思う。目に焼き付いてちかちかするからだ。
カラスの群れが遠い空に見える。どこかの家の風鈴が、ちりんと鳴った。どうして日本の夏はこんなに美しく、どこか切ないのだろうか。ひまわりにはわからない。