女神のターン
「はぁ〜、毎日毎日おんなじ作業の繰り返し・・・。もうつっまんないわよー!」
ここは八百万の神様たちが住まう天界。ここでは人間や様々なモンスターが存在する下界の管理を行なっている。
増えすぎたモンスターの数を調整するために特別な力を持つ人間を誕生させて勇者としてモンスターの討伐をさせたり、逆に人間が増えすぎたら魔王を復活させてモンスターを増やしたりする。
世界を絶妙なバランスで保つためには神の手が必要になるのだ。
しかし、こんな大規模な調整はそれこそ何十年単位の大仕事で普段の仕事は地味で単純作業の繰り返しなのである。
そこで下界管理局に努める一人の女神エリアスが与えられた事務作業に不満をこぼしていた。
「なんで私はこんな部署を選んじゃったのかしら・・・」
彼女が努める人間管理部の出生管理課では日々生まれ出ずる人間の初期パラメータを決めるという仕事をしていた。
しかしその作業というのは上限下限が決められた数字の中からランダムに数字を選んで、パソコンに打ち込むという極めて自由度の少ない作業であった。
「ゲームのステ振りとか好きだったからこの部署選んだけど、バランスが保たれた状態では特別なスキルを持った人間を誕生させることもできないし、何よりステータスも最高でも10までしか振っちゃダメってどういうことよ!こんなのなんの楽しみもないわよ!」
平和が保たれた状態の下界に強大な力を持った人間を誕生させることは人間側にもモンスター側にも悪影響を及ぼすとして禁止事項の一つとなっている。
「生きてるうちに一回でいいから勇者のステ振りをしてみたいわね〜、例えばこんな感じになるかしら・・・」
そういってエリアスはパソコンに”私が考えた最強の勇者”のステータスを打ち込んでいく。
もちろんエリアスはこれを送信する気などなく、仕事の息抜きの遊びとして打ち込んでいただけである。
しかし、エリアスはいつものステ振りの要領で流れ作業のごとく送信ボタンまで押してしまっていた。
「・・・。あれ!?エンターキー押しちゃった!?待って待って待って!これは間違いなのよー!」
エリアスは急いで送信先の部署に連絡をとるが、既に”女神が考えた最強勇者”のデータは受理されてしまい、下界への生誕が始まろうとしていた。
「ははは、終わった・・・。もう私の人生、いや女神生かな、終わったわ・・・。」
エリアスは乾いた声で全てを諦めたように笑っている。
すると先程連絡を取ったエリアスの友神の女神がエリアスの元へ駆けつけてくる。
「ちょっとエル!あなた何をやっているの!?」
エリアスの友神である女神ヘルメラがエリアスに詰め寄り事情を伺おうとする。
「ヘル〜、私、どうしよう〜・・・。」
「とりあえず泣いてないで事情を話してちょうだい」
エリアスは嗚咽交じりにつっかえながらヘルメラに強大な力を持つ勇者ステータスの人間のデータを送ってしまった経緯を説明する。
「まぁ事情はわかったわ。確かに流れでボタンを押してしまうことは私もやったことがあるから気持ちはわかるわ」
「ヘル・・・。」
「まぁこんな大事なボタンを押してしまったことはないけれど」
「・・・ヘルのいじわる。私どうしたら・・・?」
「まぁやっちゃったことはしょうがないんだし、しっかりと上司に報告して罰を受けるしかないんじゃないの?」
「でも課長怖いし・・・。」
「いやいや課長怖いとかいってる場合じゃないでしょ!誰にもバレずに穏便に事態を収束させるのは流石に私でもどうしようもない・・・こともないかもしれないわね」
「?」
「私の部署って誕生後にスキルを与えることができるのね。結構に前にだけどスキル要覧でちょっと特別なスキルを見たことがあって」
「それってどんなスキルなの?」
「今回のケースにぴったりのもしかしたら下界に影響を与えずに済むかもしれないとっておきのスキルよ」
こうして下界に少々特別な勇者が誕生することになった。
始めちゃいました。楽しんで書きたいと思います。
読み辛いので改行修正