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トンネル

作者: 宵闇

 天井は剥がれかけたコンクリートに覆われており、その奥には赤茶色の錆が点々とこべりついた鉄骨が見える。

 気温は高くないが、寒いというほど低くもなく、気温という一点だけを見れば、過ごしやすい環境だ。

しかし、トンネルという環境だからだろう。冬だというのに、どこかジメっとした空気の重みが俺の身体に纏わりついていた。

 そう、俺はトンネルの中にいる。

 いつからだったか。二分前には外にいたような気がするし、中を歩いて十分は経っているような気がする。

 なんでここにいるのか、忘れてしまった。

 何のため、何が原因で、ここにいる。

 傾斜が少し激しい……いや、歩く上ではそこまで気にはならない。

 それなのに激しいというのは仰々しい気がする。

 少し騒がしい、そんなところだ。

 少し騒がしい傾斜が、俺の足をさらに重くする。

 遠くに出口の光が見えるが、さっきから一向に近づいている気がしない。

 それでも、足は止まらない。

 歩き続けている。

 昔、こんなシチュエーションのホラー映画を見た気がするが、確かまだ午後三時ぐらいだ。

 幽霊だって今頃は墓場でお茶会でもしていることだろう。

 死没後ティータイムというやつだ。

 つまり何が言いたいかというと、出口が一向に近づかないのは気のせいだ、ということだ。

 やけに広い感覚をとって設置された古臭い照明が照らしてくれるのは、その照明の足元だけで、照明と照明の間の数メートルは闇が巣食っているように暗い。

 そこを歩く時は、黒い壁から手が飛び出してきそうで、少し早歩きになってしまう。

 しかし、次の照明の足元にくると、何を怖がっていたのだろうと自問する。

 先ほどは死没後ティータイムとか不謹慎極まりないことを口走っていたのに、いったい何を恐れているのだと、自分に怒鳴り散らしたくなる。

 しかし、また暗闇に足を踏み入れると、どこからか恐怖が湧き上がってくる。

 その繰り返しだった。

 結局のところ、俺は暗闇が怖いが、明るいところでは口笛を吹きながら暗闇を小馬鹿にする、そんな臆病者なのだろう。

 そう考えると、暗闇と不良は同じようなものなのだろうか。

 できれば近づきたくないし、目を合わしたくない。でもその恐怖がないところでは、それらをネタにできる。

 どっちも黒っぽいしね。

 先ほどより出口に近づいた気がする。

 やっぱり幽霊云々は俺の気のせいだったなと、またしても照明の足元で嘯いてしまった。

 反省せねば。

 しかし、騒がしい上り坂を歩くということは、存外疲れるものだなと思う。

 騒がしい上り坂というと、やはり変な気がするが、それは置いておこう。

 上り坂といえば、日本には上り坂と下り坂、どちらが多いか、というクイズを昔受けた記憶がある。

 答えは同数。理由は上り坂も下り坂も同じ坂だからという、真面目が服を着て歩いていると言われたい俺には少し難しい問題だったが、大学生になって二年が過ぎようとしている今、改めてこのクイズに向き合うと、それは違うんじゃないか? という疑問が湧いてくる。

 例えば一方通行。歩道に限って言えば、なるほど同数かもしれない。

 しかし、車道を道路交通法に則り話を進めれば、おそらく小さな差異が生まれるだろう。

 そこまで考えに至ったところで、そんなクイズ面白くないという考えと、こんなクイズ出したら、ただでさえ少ない友人がさらに少なくなるという考えに至った。

 結局のところ、クイズというのは相手を驚かせることができればいいのだな、と思った。

だったら今度からはクイズなんていうまどろっこしいマネはやめて、相手の膝関節に己の膝関節を叩きこむ、俗にいう膝カックンをすることにした。

 この歳になると、昔より効率を重視するようになるものだ。

 出口がまた近づいた気がする。

 もしかして、自問自答を繰り返すごとに出口に近づくような仕組みなのか?

 まるで主人公に師匠が、フィジカル面は十分だから精神面を鍛えろと言ったような、バトル漫画の中盤にありがちな修行法だ。

 それにしては自問自答の内容が俗世に浸かりきっているが。

俗世。

 その言葉にふと、一人の友人を思い出した。

 大学に入学して最初の授業で、俺は彼に出会った。

 のっぺりとした顔に高くない身長、面白くもない性格の俺なので、知り合いができればラッキーぐらいの低い志を持っていた。

 ところが、そんな俺に話しかけてくれる人間がいた。

 それがたまたま同じクラスになった彼だった。

 彼は哲学に深く通じているらしく、面白い話をたくさんしてくれた。

 そんな彼とは、一年時によく一緒に過ごしたが、二年になりクラスが変わると、すっかり会うことがなくなった。

 それに疑問を持ち連絡を取ろうと思ったときには、彼はいなくなっていた。

 勘違いしないでほしいが、これはホラーな話ではない。

 彼は中退したらしい。

 実家で働いているらしい。

 どこか俗世から離れて生活しているような、哲学家気質な彼らしいと思った。

 もし彼だったら、先ほどのクイズになんと答えるだろう。

 彼ならきっと、こう言うだろう。

「人生を坂道で例えるとしたら、その上り下りは決して同数ではないだろうね」

 こちらの質問を屈折した角度で反射させる。

 俺と彼との間にはプリズムでも置かれているのではないかと、何度か疑ったほどである。

 しかし、彼の問もまた面白いものだ。

 人生は色々なものに例えられる。本、坂、宝石、試合、等々。

 しかし、そのどれもが、どこか納得いくものである。

 その例えと幼稚なクイズを掛け合わすのだから、まったくもって度し難い。

 彼がどのような心境で大学を辞めたのか知らないが、彼にとってはその選択は、上り坂でも下り坂でもない、平坦な道であったように思える。

 結局のところ、人生が何に例えられたとしても、その例えの捉え方は千差万別で、彼にとっての平坦な道は、俺にとっての崖だったかも知れないのだから、意味はないのだと思う。

 ただ胸にストンと落ちる納得が欲しいのなら、なぞなぞ集でも買って解いていればよいのだと思う。

 気が付けば、出口はもうすぐそこだった。

 これが最後の自問自答だと思う。

 さて、何を考えようか。

 足元に転がっていた大福ほどの石ころを避けようとして、やっぱり当たってしまった。

 蹴られた石ころはカラカラとトンネル内に響く音を立てて、どこかに消えてしまった。

 きっと、どこかの暗闇に隠れているのだろう。

 こんなことはよくある。

 避けようとして、意識してしまうと、当たってしまう。

 不思議なものだと思う。

 まるで意識が俺で、身体は天邪鬼のような気持だ。

 意識が歩み寄ったところで、身体はそれとは反対に動く。

 いや、普段は言うことを聞いてくれているのだから、この言い方は身体に失礼だ。

 そう、たまに言うことをきかない、気まぐれなのだ。

 身体と意識、このふたつを考えようとすると、どうしても理性という言葉が頭に浮かぶ。

 理性、この言葉の対義語は? と訊くと、野生だったり、本能だったり、感情だったり、多種多様な言葉が浮き上がる。

 どれも正しいが、どれも間違っているのかもしれない。

 たとえ正しい部分を寄せ集めたところで、それを言葉にすることはできない。

 それは理性の内側にあるのかもしれない。

 理性は風船で、それらは中身。

 フワフワ浮いて、どこからか空気が抜けて、入れすぎると破裂する。

 理性というものは、難しいものだと思う。

 結局のところ、理性がなんであれ、それをコントロールするというのは野暮なものだと思った。

掴もうとしても届かず、フワフワと浮かせておくのが正解、とは言えなくても、及第点くらいは貰えるはずだ。

 そうすれば、単位は貰える。

 彼が貰えなかったものだ。

 大切にしよう。

 気が付けば、あと一歩でトンネルから抜けられるところまで来ていた。

 遠くの街が夕日に照らされているのが見える。

 さぁ、この先に何が待っているのだろうか。

 進めば分かる気がする。

 俺は好奇心と恐怖心を纏った足を進め、空を見上げた。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@




 青と赤が混じったようで、でも決して紫ではない。

 そんな空が広がっていた。

 振り返ると、高さ8メートルほどのトンネルが大きな口をこちらに向けていた。

 反対側の出口からは、一台のトラックが走ってきているのが見えた。

 あのトラックとトンネル内ですれ違わなくてよかったと思いながら、俺は前を向いた。

 そこで思い出した。

 俺は一人旅の途中で鎌倉の高徳院に寄り、大仏を拝もうとしたら、大仏は掃除という名の修復作業を行っていたせいで、その姿を拝めなかったので、そのまま由比ガ浜まで歩いたのだ。

 由比ガ浜の波打ち際を歩いていると、道が無くなったので、町側を進んでいたら、大きなトンネルがあったので、そこを通って逗子に行こうとしたのだ。

 しかし、トンネルの中で何か考えていたような気がするのだが、まったく思い出せない。

 どうでもいいような、大切なことのような、そういう類のものだったような。

 まぁ、いつか思い出すだろう。

 それこそ、またトンネルを歩いているときにでも。


とある大学の文芸部に属しているのですが、なにか書かなくてはということで書いたものがこれです。

途中から、あ、これつまらん、となって、いわゆる没原稿になりました。

それでも、どこかに残しておきたかったのでアップしました。

よかったら感想どうぞ。

スマホの方は読みにくいかもしれません。申し訳ないです。

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