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封印された

 次の日の朝、今井は竜王結界の指輪を指にはめると人間界に向かって出発した。空は晴れわたり空気が冷たくて気持ちいい。目印に向かってまっすぐに飛び簡単に人間界に入った。

 しかし、人間界は雨だった、土砂降りだ。今井はあわてて駐めてあった車に飛び込んだ。妖怪世界の天候は人間界とは無関係のようだ、妖怪世界の天候はどうやって決まっているのだろう。

 今井は車を運転して病院に向かった。空を飛ばなければ妖気をほとんど出さないから車で病院に向えば安全だ、普通に歩いていれば法力使いほ妖気に気が付かない事は実験済みだった。

 車を駐めると雨の中を病院の玄関に駆け込んだが、こんな日に傘を持たないなんて、と言う視線を浴びながら病院の奥へ入って行った。

 自分の病室へやって来た。部屋の中を覗くと沖田がベットに寝ている。

「失礼します」

 そう言いながら今井は部屋の中に入った。

「おお、あんたか、お見舞い大変だねえ」

 沖田はベットの上に起き上がった。

 今井は沖田の横を通り抜けながら指輪の蛇を見た。しかし蛇はどっちかと言うと今井の方を睨んでいて沖田に向かって牙をむくことはない。予想外の結果に今井の気持ちはしぼんだ、さぞや蛇が激しく動くと思っていたのだ。やはり偽物なのか。

 しかし、ひょっとして法力がなくなった沖田ではだめなのかもしれない。だったら小林だ。

「今日は小林さんは来ていらっしゃらないんですか」

 来ているはずがないと思いながらも手掛かりが欲しくて今井は尋ねた。

「来とるよ、談話室で打ち合わせをしとる」

「談話室?」

 ラッキーだ。

「そこの廊下を行った突き当りだよ」

 沖田が教えてくれる。見舞いに来たはずなのに今井はベットに寝ている自分のからだには見向きもせずそのままUターンして廊下に向かった。

「あんた、お見舞いじゃ……」

 沖田の何か言いたそうな声を無視して今井は廊下を進んだ。

 突き当りに談話室があった、奥のテーブルで小林を含む四人が打ち合わせをしている。今井はそっと四人に近づいた。指輪の蛇を見ると蛇は四人の方を向いて激しく牙を剥いている。初めて蛇が今井以外の方を向いてくれた。これがミリーが言っていた現象だろう。だとすればこれは本物だ。今井は嬉しかった、なんと本物の竜王結界が自分の手の中にあるのだ。

 気配を感じたのか小林が顔を上げた。

「ああ、ヌランダさん。ちょうどよかった。あなたに相談したい事があるのであなたに連絡しようと思っていた所なんです」

 ヌランダと言われてちょっとびっくりしたが、ここではヌランダと名乗っているんだった。

 すると一人の男が立ち上がり隣のテーブルから椅子を持って来ると今井のために席を作った。

「まあ、どうぞ」

 小林が椅子を勧める。もう用件は終わったのだからすぐに帰りたかったがそうもいかない、今井は不安げに椅子に座った。

「なんですか?」

「若い法力使いの発掘も我々の仕事なんです。法力を持った人を見つけて我々の仲間に入れ、法力のトレーニングをする。重要な仕事です」

「はあ…」

 まあ、そうかもしれない。

「法力は人種、性別に無関係な生まれつきの能力なんです」

「はあ…」

 いったい何か言いたいのだ。

 しかし、小林は言葉を区切ると今井の顔をじっと見た。

「実は、あなたには法力があります。どうです我々の仲間になりませんか」

 今井はあまりの話にポカンとしてしまった。俺に法力がある、すごい事だ。

「どうですか、我々と一緒にナキータをやっつけましょう」

 もう一人が力強く言う。

 ナキータをやっつけるって、それでは自分で自分をやっつける事になってしまう。

「法力があるって、なぜそんな事が分かるんです」

「感じるんです。あなたの近くに行くとかすかな法力を感じます。これはあなたに法力があるからです。法力を持った人は非常に少ない、だから是非協力して欲しいんです」

 自分から法力が出てるなんて信じられなかった。

「いえ、あの、急にそんな事を言われても困ります」

「当然です。だから充分に考えて下さい」

「はい…」

 しかし、もしナキータのままで法力使いの仲間に入ったら大変ややこしい事になるのは間違いなかった。

「法力使いは今不足しています。だからぜひお願いします」

「何か危険な事はないんですか?」

 今井は聞いてみたが、小林は顔をわすかに曇らせた。

「かなり以前ですが、妖怪に殺された事例があります。妖怪と一対一で戦ったら向こうの方が強いんです。だから必ず集団で戦います。集団ならこちらの方が絶対に勝ちます」

 小林は熱い眼差しで今井を見る。

「考えてみます」

 政治家が発明した大変便利な言い回しで今井は答えた。

「お願いします。そうだ、もしよかったら連絡先を教えていたたけないでしょうか?」

 小林は何とか仲間に入れようと必死だ。まあ、連絡先ぐらいいいだろう。今井はメールアドレスを教えた。

「今、ナキータをやっつけるために法力使いが集結中です、ナキータ攻撃には人手は多ければ多いほどいい。だからあなたの協力がどうしても必要なんです。ぜひよろしくお願いします」

 もう一人が話を引き継いだ、彼も熱心に勧誘してくる。

「彼はナキータの専門家なんです。ナキータをずっと研究していてナキータに関しては誰よりも詳しい」

 小林が説明してくれる。しかし、ナキータに関しては俺の方が詳しいと思うが。

「私、山下といいます」

 彼は挨拶する。

「ヌランダです」

 今井も挨拶した。

「どんな研究をしてあるんですか?」

 ナキータをどこまで知っているのか知りたかったが、山下は嬉しそうに頷く。

「ナキータの行動を詳細に記録にとっています。そして彼女の行動を分析して彼女の性格や健康状態を解析しています。例えば、彼女は封印から逃げた後はまったく動かなくなった。これはなぜだと思いますか?」

 山下は聞く。

「たぶん、法力使いを恐れているからじゃないんですか?」

 今井は本当の事を答えた。

「違います、ナキータは法力使いを恐れてはいません。動かないのは弱っているからです、封印の痛手がまだ回復していないのです」

「はあ…」

 いや、俺の答えが本当の事なんだが…

「恐らく、ナキータは人間の魂を食べないと回復しないのです、だから必ず近いうちに人間を襲います、その時がチャンスです。その時に大勢の法力使いで襲って封印します。だから人数がいるんです、どうです試しに一緒にやってみませんか?」

「いえ… ちょっと…」

 そういう事ならしばらくは人間界に来ない方がいいかもしれない。

「場所は大泉寺です、大泉寺に百人くらい集まります。大泉寺ってご存知ですか?」

「いえ」

「じゃあメールで場所を送っておきます、ぜひいらして下さい」

「はあ…」

「しかし、ラカンテの問題もある、百人は無理じゃないか」

 小林が首をひねっている。

 ラカンテ! 今井は驚いた。ラカンテも人間界では名を知られているのだ。

「そうですが戦力を分散すべきではありません。今はナキータです、ナキータに全戦力を投入すべきです」

 山下は熱く語る。

「あのう、ラカンテって?」

 今井は話に割り込んでみた。

「ナキータより始末の悪いやつです。ナキータは人間を襲うのに周期性がある、つまり生きるために人間を襲うんだと思われます。ところがラカンテは気まぐれに人間を襲う、困った奴です」

「はあ…」

 ラカンテも法力使いに狙われているのだ。だから、竜王結界を持っているのか。

「妖気がある!」

 小林が急に声を上げた。

「弱いな、弱小妖怪だ」

 山下も頷く。

 気付かれたと思って今井は全力で妖気を抑えた。もうほとんど妖気は出ていないはずだ。

「二人いるな、春木わかるか?」

 小林が横にいた男に聞く。

「わかります。二人ですね」

 春木という名の男が答えた。

 これだけ絞っても感じているらしい、しかも二人だと言う、という事は自分じゃないのだ。だとすると、妖怪が人間界に来ているのだ。しかし、今井も妖気を探ってみたが感じない、かなり距離があるのだ。つまり法力使いの方がはるかに遠くの妖気を感じる事が出来るのだ。

「ちょうどいい練習台だ。春木、封印してみろ」

 小林が春木に言う、春木は頷いた。

「じゃあ、壺と御札を準備します」

 彼らは急に忙しく動き始めた。なんとこれから妖怪を封印するらしい。

「妖怪を封印するんですか?」

 今井は聞いてみた。

「ちょうどいい、ヌランダさん見学していくといい。今から妖怪封印の練習をします」

 練習! ちょっと驚きだった。練習で妖怪を封印するなんて妖怪が可哀想だ。しかし、この人数て封印出来てしまうのだろうか。

「相手の妖怪はどんな妖怪なんですか?」

 今井は聞いてみた。

「弱小妖怪です。つまり妖怪にはほとんど妖力を持たない弱い妖怪がいるんです。こいつはそういう妖怪ですね」

 なるほど、端妖怪だ。端妖怪ならこの人数でも封印出来るのだ。しかし、端妖怪なら人間には悪さをしない無害な妖怪のはずだ。

「封印した後はどうするんですか?」

 ミリーのような端妖怪だって懸命に生きているいい人達なのだ。

「いや、相手は妖怪てすよ、有象無象です。気にする必要はありません」

「つまりどうするんですか?」

「そのままです、つまり殺します」

 殺す! そんなひどい事を… 

 今井はもうそれ以上何も言えなかった。誰だか知らないが端妖怪がこれから殺されるのだ。しかし、何とか助けたい。

 封印の準備は着々と進んでいた。まず、春木が紙と筆を持って来ると『封印』と文字を書いた。これがあの恐ろしい妖怪を封印する御札なのだ。これに法力が吹き込まれれば妖怪には手出し出来なくなる。

 彼らは準備に忙しいそうにしている、そしてちょうど誰もいなくなる瞬間ができた。今井は素早く筆を持つと『封印』の文字に点を一つ付け加えた、パッと見『封印』の文字に見えるがもう『封印』とは違う文字になった。

 準備が整うと全員がテーブルを囲んで丸く座った。図らずも今井もその一員になってしまった。全員がテーブルの真ん中に置かれた壺を睨んで必死に念を集中し始めた。今井にも法力の気味の悪い感触が伝わってくる。

 と、壺の口に霧が見え始めた。霧の様なものが壺の中に吸い込まれている。それと同時に今井は妖気を感じた。記憶にある妖気だ。だが、誰の妖気か思い出せない。

 霧はどんどん吸い込まれ、やがて全部吸い込んだらしくそれ以上吸い込まれなくなった。

 春木は壺に栓をするとお札を持ち上げ「エイ!」と気合を入れた。それから丁寧に壺にお札を貼り付けた。

 全員にほっとした雰囲気が流れた。

「これで封印は完了です。どうですか、ヌランダさん」

 小林が聞く。

「はあ… すごいですね…」

 そう言うしかなかった。妖怪が一人封印されてしまった。

「この妖怪はどうなるんですか?」

「まあ、数日で死ぬでしょうね」

「はあ…」

 なんとか助かって欲しい、『封印』の文字が違うんだからなんとか破れないかと思うが妖怪が壺を破る気配はない、無理なのたろうか。

「これはどうします?」

 春木が聞く。

「大泉寺に持って行く、俺の車に積んでおいてくれ」

 彼らはテキパキと仕事を進めている。

 今井はそろそろ潮時だと思った、こんな所に長居したくない。

「いろいろ参考になりました。私はこれで…」

 今井はなんとか立ち上がった。



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