3話「子供だからやろ」
ちょっと短め
壁に向かって背を丸めて眠る。
何もしたくない……何も聞きたくない……何も見たくない。
どれ位そうしてただろう。食事も水も取らずに只管眠ってた。
途中で停まったり進んだりを繰り返し、周りの人達も眠ってる時があったりもした。
自分の中で区切りがついた気がする。
引きずってない訳じゃない、むしろめちゃくちゃ引きずってる。それでも区切りがついた。
何時までもソレに囚われてたら先に進めないし……いずれ慣れるさ。体に引っ張られてるが心は大人なんだし。
『グー』
起き上がると同時に腹が鳴った。心が一段落したら途端に腹が減った。
自分の事ながら何とも現金な。
ふと周りに見られている事に気がつく。何だ? そんなに腹の音が五月蝿かったか?
「おう、坊主。もう平気なのか?」
荷車に乗っていた男が声を掛けてきた。
「んー? うん、多分もう平気かなー」
「そうか、水と干し肉食うか?」
「おー、貰う貰う。っつーか良いの?」
干し肉と水を入れた革袋を受け取って始めに水を飲む。温い水だがしばらく空っぽだった胃には丁度良い。次いで肉を齧る。
口の中に広がる塩分が体に染み渡る。まぁかなり辛いのでちょいちょい水を飲むんだが。
「気にするな、元々お前の分の食事だ。お前が食わなかったら俺が食ってた」
「そっか。じゃあ気にしない」
適当に堪えながら肉を噛み続ける。めっちゃ硬いからかなり噛まないと飲み込めない。
モッチャモッチャと肉を噛みながら俺を見てる周りの子供を見る。
「おっちゃん、何で皆見てるん?」
「おっちゃ……俺これでも18なんだけど……」
「うぞぉ!?」
「そこまで否定するか!!」
ヒゲぼーぼーで髪の毛ぼさぼさ、服もきちんとしてない。
「おっちゃんモテナイやろ?」
「ぐふぅ」
「んで?モテナイおっちゃん、皆何で見てるか分かるか?」
「うぎぎ……こいつ等はお前を心配してたんだよ」
言われてポカンとした。俺を?
「何で?」
「……あのな、3日も飲まず食わずで隅っこに転がってりゃ普通気にするぞ」
3日? 3日も俺不貞腐れてたのか……そいつは何かスマンかったなぁ。
「そっかー、皆ありがとなー」
皆だって売られて来たんだから辛いだろうに。俺より周りの子がよっぽど大人だわ。
暫く周りの子達と喋りながら肉を齧る。
俺と同じように売られた子や両親が亡くなって身寄りがない子、他にも色々事情はあるが殆どが仕方なくという状態でここに来ている。
皆も大変だなとお互いの状況を確認した後、気になっておっちゃんに聞いてみた。
「なあ、モテナイおっちゃん」
「お前……俺にも立派な名前があるんだぞ」
「でもモテナイのは事実なんだろ?」
「ちくしょう……お前はバカだ」
誰がバカかと思いながらも色々聞いてみる。何処に向かっているか、この後どうなるのか。
向かっているのは首都『バルバロッサ』、そこにこの人買い達の拠点があるらしい。
「人買い……ってまあ間違いじゃねぇけど」
そして俺達はそこでおっさん等の慰み者にされ、男と女のどっちもあんな事やこんな事をされると……このド外道が!!
「人聞きわりぃ事言うなや!他の子供が怯えてるだろうが!!」
「え? おっちゃん両刀遣いのロリペド野郎じゃねぇの?」
「違うわ!お前の中で俺の評価どんな風になっとるんだ!」
「だから両刀のロリペド」
「止めんか!俺にそんな性癖はネェよ!」
ふむ、じゃあ俺達の今後を詳しく話してもらおうかな!!
「何でお前はそんなに偉そうなんだよ」
ほほぅ? よし皆こっちこい。いいかー? こうやって聞くんだぞ。
「よし、皆この『両刀のロリペドお兄さん』に教えてもらう様にお願いしよう!!」
「「「「「教えて、両刀のロリペドお兄さん!!!!」」」」」
「ぐっはぁ!!!!!!」
精神的ダメージが限界点を超えたのか床をゴロゴロ転がりながら悶絶しとる、よしここで追撃の一撃!
少女達よ、今じゃ!!
「お兄さん、大丈夫?」「「大丈夫ー?」」
「はぅ…………」
はい堕ちましたー、ロリ一丁上がり。今世の男はチョロイン系か?
まあこのおっちゃんで遊ぶのはコレくらいにして、御者をしてる人の方へ行くか。
窓から身を乗り出して御者をしてる人に声をかける。
「あんちゃん、あんちゃん」
「ん?……ああ、お前か」
「暇やからソッチへ行ってもええか?」
「お前今の状況分かってるのか?」
「まあ大体は?」
「…………分かった、一旦停めるからこっちへ来い」
「おおきに」
馬車が停まってから前へ周る。馬は二頭で引いてるのね、ナルホロ。
そしてこのあんちゃん、前は余裕無くて余り見てなかったけど……イケメン組か。
「あんちゃんは痔になればええな」
「は!?」
「そして馬車に揺られる度に悶絶したらええと思うで?」
「何言ってるのお前?」
「まあそんな冗談はさて置いて」
「冗談かよ!!」
綺麗に突っ込み返してくるのぅ、打てば響くってこんな感じか?
「あんちゃん、オトンとオカンに伝言伝えてありがとなー。」
「ああ、別に気にしてねぇよ。俺もココに買われた口だからな」
「お? じゃあ先輩か」
「……まあそうだな」
それから色々話した。
あんちゃんが何時この人買いに加わったのか、どんな仕事をしてきたか、どれ位の規模で動いているか、この商売は楽しいか等々。
この商売は全て人なだけあってかなり神経使うらしい、奴隷の管理に接客、更に上司とのやりとりと部下の管理。
だからこそ人を見る目が養われるらしい。
そしてこのイケメン、なんと妻帯者だった。相手は同期の元奴隷。
二人三脚でここまで来たのが切っ掛けでお互いに惹かれあっただとか目の前で惚気られた、うざい。
「あんちゃん、子供相手に惚気るのはどうかと思うで?」
「わりーわりー、でもお前さんは普通の子供じゃねーだろ?」
「どこがや!思いっきり子供やっちゅーねん」
「外見の話しじゃねーよ」
む、そいつは聞き逃せない。どこがどう子供じゃなかったのかね?
「あのな、お前家を出るとき親に伝言頼んだろ? 普通あの場面は泣き喚く所だぞ」
「いやいや、売られたのはショックやけど、それでも親やからなーここまで育てて貰ったからお礼位言うやろ」
「考え方が既に大人なんだよ、それに今こうやって俺と話してるだろ。居ないとは言わんがお前みたいな奴はかなり稀だぞ」
「なーるほど」
まあ悲しいは悲しいけど何時までもグダってられんやろ? 人間生きていくなら前を向かなきゃあかんのやし。
それに奴隷ならお客相手に自分を売り込まなきゃならんだろうから今の内に仲介役のあんちゃん何かに覚えが良かったら後々有利やん。
そんな事をあんちゃんに伝えると目を丸くして驚いていた。
「お前本当に10のガキか? 現実をキッチリ受け止めて次に繋げるとか大人でも上手く出来ない奴が居るのに」
「ガキだからこそ、じゃない? 自分1人じゃなーんも出来ないんだから大人に頼る。だから媚売って次に繋げないと先が無いだもの」
「くくっくっく、あっははははは」
何だ何だ? あんちゃん狂ったか?
「くっくっく、別に狂ってねぇよ。つくづく変な奴だな……気に入った、お前には成るべく上客を紹介してやるよ」
よっし!ついガッツポーズを取ってしまう。
「そんな所はまじでガキなんだからお前さんは本当に分からねぇな」
いいじゃねーかよ、子供らしく喜んでるんだから。一々大人気ないぞ?
「へーへー、そんじゃ大人に上手く擦り寄ったお前さんには御者の仕方を教えてやる、着くまでに後2日はあるから覚えろ」
ふむ……やれる事が多い方が色々有利やしな。きっちり教えて貰おうか。
「そんな事もちゃんと分かってる辺りがマジで子供じゃねぇや」