2話「泣きました」
7/8:バッソ表記をバッツに変更
森へ遊びに行く事を断念して数日、雨が降ったり、畑仕事で疲れて行くのを断念したりしていたが。今日、遂に森へ行く!
というのも自宅の台所事情が非常にまずくなってきたからだ。今日なんて芋オンリーだったからな!!
正直肉が食いたい。ゲームから出せばそれでいいじゃん! 等と思うかもしれないがソイツは出来ない。
イヤ、正確にはソレは可能だがやると『余計に腹が減る』のだ。
この反則めいたゲーム機も一応デメリットが存在していた。それは『エネルギー残量』、分かりやすく言えばバッテリー。
ゲーム機は一度俺の体に『戻す』と残量が100%になる。
では何処からエネルギーを補充しているか?
答え、俺の体。
詳しくは知らんが残量が減ったゲーム機を体に戻した途端ごっそりと自分の中から抜け落ちる感覚がある。
途端に手足が振るえ力が抜ける。そして非常に腹が減る。
ゲーム機から漫画肉を取り出して食べてから、ゲーム機を戻すという行為を試したところ。
①.肉を食べて体が張る。
②.調子に乗って幾つも肉を出して食う&予備にする為更に幾つか出しておく。
③.余は満足じゃ、っとゲーム機を体に仕舞う。
④.ぶっ倒れる
体力は有り余っている筈なのに貧血の様な症状が出て引っくり返った。
一個二個位なら平気だが大量に出すのはマズかった。ついでに言えば肉が旨過ぎたのも原因か。何せ文字通り何個でも食える。
だからついつい食べて、ゲーム機のバッテリー残量が10%になってたのは焦った。
そして結果として倒れる。
体に入れると100%になるバッテリー残量。これから推察すると、ゲーム機は俺の中の『何らかの力』で動いている。
そしてソレは俺の中から減った分だけゲーム機に『補充』すると思われる。
分かりやすく言えば俺という『器』からゲーム機という『器』に力を移し変えた。
結果として俺の中の力が減り、倒れた。
ここ数日で調べた結果として、肉を出すのにバッテリーを3%消費する。
そんな肉を10や20も食い、あまつさえ予備として5個確保したら25×3%で単純計算75%の消費。
それだけ消費したゲーム機を体に戻すと消費した分を補充しようと体から75%が出て行く訳で……100-75=25%しか力が残らなかった為倒れたっぽい。
でもこの計算だと実はちょっと希望がある。
もしコレが%表示なら俺の力の総量が増えればコストが減る可能性がある。100%は何処まで行っても100%。
だが総量が100でも10000でも表記は変わらないが、消費されるコストが変わらなければ相対的にコストが下がって見えるはず。
この不可思議な力を鍛える事が出来るなら色々便利になる、その為にも毎日の食卓を彩り豊かにせねば!!!!
「っちゅー訳で、森いってきまーす」
「待たんかい」
『ズドム』
兄貴の右ストレートが貧弱ボディの俺に突き刺さる。
「オゥフ…………何すんじゃい!このアホ兄貴が!!」
「アホはお前だバッツ、畑仕事ほっぽり出して何処行こうとしてるんだよ」
俺を右ストレートで止めたこの男、俺の兄貴で次男、そして俺の名前が『バッツ』。
農家の平民ピーポーである今世には家名なんぞ無いのでただのバッツだ。
「うるへー!ちゃんとオヤジにも今日は遊んで良いって言われてんの!!」
「はぁ? オヤジ、本当かよ」
「ああ、バッツは今日は遊んでくれていいぞ」
我が意を得たりとドヤ顔で兄貴を見る。
「ほらー! サボリ魔の兄貴と違って俺はちゃんと許可貰ってるもんね!!」
「うるせ!」
『ゴィン』
ヌォォオ……拳骨が振ってきた……まじで痛い。
「お前等、喧嘩は止めろ」
「でもオヤジ……」
「いいから止めろ! バッツ行って良いぞ」
ざっまぁ! ついでに兄貴の脛を蹴ってから外へダッシュして行く。
「アダァ!」
「へっへーん、そんじゃ行って来まーす!!!!」
後ろで兄貴が喚いてるが知らねぇ、ざっまぁ!!!!!
さて、森へやってきました。
森の中へ入りゲーム機を出す、でもってソフトを立ち上げ初級装備一式を装備して『決定』を押すと一瞬でレザーアーマー一式とショートソードにレザーシールドを身に付けた。
装備した途端にこの森とその周辺までの地図が頭の中に浮かぶ、というか視界の右隅に地図が浮かんでる。
地図へ意識を移すと視界の端にあったソレは目の前に移動してきて拡大して表示され、地図の中に大小様々な点として生き物が表示されている。
本気でゲーム画面だなー等と思っていると視界の左端にバーが2本表示されている事に気がつく。
何ぞコレ?
良く見ればバーの上には『バッツ』の表記。………………つまり俺のHPとMP??
「え゛?」
この世界って魔法ってあるのか? ど田舎だから誰も魔法なんて使ってるの見た事無いし、そんな事一言も聞いたこと無いんだけど……。
でも魔物が居るんだから魔法があっても不思議じゃないのかな?
何て事を考えながらゲーム画面の家具から望遠鏡と道具を幾つか取り出す。
因みにこのソフトを使って取り出した道具は『持ち物リスト』に入っており、現在俺の視界にもそのリストが表示されている。
取り出したのは、回復薬、匂い玉、煙り玉、スタミナドリンク、携帯トラップ【穴】。
一応森に来る前、畑仕事中なんかに道具を試してたりするから大体の道具は効果が分かっているが、トラップだけは場所取りそうだし試してない為森で使ってみようと思う。
というかこの道具類、現実でも使えるようになると無茶苦茶便利だった。
回復薬は飲めば傷が一瞬で治るし、匂い玉はぶつければドレだけ離れても匂いが分かる。(しかも他人にはまったく分からない)
煙り玉は地面に叩き付ければ半径10mは一瞬で視界が隠れて1分間は風が吹いていても煙は流されないし、スタミナドリンクは飲んだら1時間は休憩無しで全力疾走出来る優れもの。
トラップは未使用だが、ゲーム内の仕様だと設置時に選択肢があり、頭かお尻どちらを地面から出して落すかが選択出来る。
これがちゃんと使えれば動物でもそこまで苦労せずに狩れる……という何とも道具任せな狩りを今日はする予定だ。
所詮10歳のガキだからどれだけ頑張っても厳しいモノがあるしな。
地図を見ながら森の中ほどまで移動して来た。
来るまでにいくつかの点とすれ違い、どの点が何の動物かチェックしていた。
小さな点はヘビだったり兎だったりと種類も豊富だが、ある程度大きなモノはイノシシだった。
イノシシ……うん、良いよね! お肉食べたい!!
というかこの地図、点が何の動物か随時表示されるようになるのね、便利だわ……いや、ユーザーに優しい仕様なのかな?
兎に角、この先にイノシシが何匹か群れて表示されてる。こいつ等の1匹を狩りたい。
足元に携帯トラップ【穴】を置いてスイッチを入れる、するとタイマーがカチカチと鳴り始めたので直ぐに離れる。
『ボン!』
という音と共に即席の落とし穴が出来上がる。
うーん、初めて使ったがなんという出鱈目感、因みに今回は頭が出る様に設定しておいた。便利だから良いけど!
地図を見てイノシシの群れに近づく、何とものんびりとした奴等だが群れで追いかけられるとコロコロされてしまうのでスタミナドリンクを飲む。
甘いドリンクを飲み干すと、全身に力が回り無性に走り出したくなる。
ドリンクの効果が出ている事を確信してから足元の石を拾ってイノシシへ向けて投げつける。すると石は見事に食事をしていたイノシシの額に当りイノシシは急な攻撃に驚いてる。
だがそれ以上に驚いてるのが俺だったりする。前世じゃ球技関係に才能が全く無かった俺が石を真っ直ぐ、狙った方向に投げれて、その上目標にジャストミートとか何の冗談だと言いたい。
そんな風に俺が驚いていると石が当ったイノシシと眼が合った。
「ブギイィイッィーーーーーーーー!!!!」(待たんかいおどれーーーーーー!!!!)
「ぬおぁーーーー!!!!」
実際鳴き声しか聞こえないけど何となく野太いオッサンの声で怒鳴られた気がする。
即座に罠に向かって全力疾走!!
はっや!
イノシシの足はっや!!
マジ舐めてました! スタミナドリンク飲んでおけばいけるっしょ、位に考えてた自分のアホさ加減を殴りたい!!
「ギャー!」
直ぐ後ろにまで迫ったイノシシへ盾を構えて振り返る。盾にイノシシが当り後ろへ弾き飛ばされるも、倒れる事無く着地。
あっぶな! 超脇汗出る! 腕もぷるぷる震える!!
俺にぶつかって通り過ぎたイノシシが「マダマダ許さんけんのぅ」と言わんばかりに俺を睨みつける。
お前その眼止めろよ、こちとら10歳のガキやぞ? 漏らすぞ!!どっちも!!!!
そんな思いが伝わるはずも無く、再度突進してくるイノシシ。それを只管掻い潜りながら、というより転がり泥に塗れながら罠を設置した方へと逃げ回る。
「おぎゃー!!死ぬぅーーーー!!!!」
命を懸けた鬼ごっこにイノシシさんが1体追加されました☆ミ。
『追加されました☆ミ』
じゃねぇ!!アカン!割とまじで死ぬ!死んでまう!!
逃げてる最中、段差がある場所を跳んで着地、と思ったらソコに別のイノシシが居て思いっきり踏んづけた。
ソレでヘイトを稼いだ為かそのイノシシも追いかけてきた訳で……。お陰で何度かイノシシの突進を受け地面コロコロさせられている。傷薬無かったら今頃地面をズタボロになって転がってるだろう。
「むがーーー!お前らしつこいっつーの!猪突猛進なんて諺だけにしとけやボケー!!」
「「ブギイィーーーー!!!!」」
ヒー!こいつ等言葉が分かってるんじゃ? って位俺の言動に一々リアクション取りやがって!!
許さん! 絶対イノシシ鍋にしてくれる!!!!
というか罠の地点まで遠い!何せ突進を避ける事を優先させてるから思い通りに誘導出来ない、し難い!
ちらりと視界にあるバーを見る、恐らく体力を表すバーが6割りを切りそうになっている。
流石に20分以上走り回っていると何度も攻撃を食らっているので回復薬のストックも無くなる。
今更だがスタミナドリンク無かったら速攻地面転がってるぞコレ。
「ゼー、ゼー、こいつらドレだけ体力あんだよ!今世のイノシシは化け物か!!」
体力的には全然走れるが追いかけられ続けるのが精神的に疲れる。かといって走らなければ物理的にコロコロされるので走らない訳にもいかんのだが……。
ダッシュで罠へ向けて全速全身!!
ゲームだと武器で倒してしまうんだがどうにも武器を振るうのは俺だから『攻撃力=武器攻撃力+俺の攻撃力』らしく、ぶっちゃけ殆ど攻撃が通らない。
正確にはショートソードの攻撃力はちゃんと通るが俺の攻撃速度が遅いため『当らない』ってのが正解。
装備の性能はゲームの通りだがそれを振るう俺自身がへっぽこ過ぎて使い物にならんとは世の中ままならん。
逆に言えばたかが10歳でそこまでやれる様になるゲーム機の恩恵がでかいとも言えるが。
そんな事を考えながら走っていると唐突に後ろから。
「プギィ!!??」
と聞こえたので振り返ると罠に嵌って戸惑ってるイノシシの姿。
どうやら考え事をしている間に罠の設置地点まで誘導出来たらしい。
「……っくっくっく。イノシシ~貴様も年貢の納め時らしいな~」
「ブギィ!?」
ゆらりと振り返り手に持ったショートソードを構える。
「往生せいやぁぁああ!!」
「ブギィイイ!」
俺の剣が1匹のイノシシの首に……『1匹』?
「ブッキイイィ!!!!」
「はぼん!!」
横からのイノシシの突撃をモロに受け吹き飛ぶ。着地も出来ず何度かバウンドして漸く止まる。
ぬぉぉおお、頭血が!頭血がぁ!!
忘れてた俺もアホだがゲームの仕様だと簡易トラップは1匹にしか作用しない。つまり『2匹』居た内の1匹しか罠に掛かっておらず片方が突進を仕掛けてきた。
罠に掛かってない方がまだやる気満々って面で俺を睨んでやがる。
「だったら、これで!!」
リストから取り出したのは『煙り玉』。ソレをすかさず地面へ叩きつける。
一瞬で広がった煙は相手の視界を奪い目標である俺を見失わせる。
じゃあ俺はどうかと言うと、確かに煙りは俺の視界も奪う。但し『薄っすら』と。
この煙りは周りから見ると濃密な煙に見えるが俺から見れば薄い煙りに見えるらしい。その所為で煙り玉を実験的に使ったときはしこたま怒られたが……。
煙りの中、俺を探しているイノシシを横目に罠に掛かったイノシシへと近づく。未だに罠に囚われたままだが罠の効果が解けようとしているのが何故か感じられるので後1分もせずにイノシシは穴から這い出てくるだろう。
その前に喉へ剣を突き立てる!!
「プブッ……ッギュ…………」
両の手でしっかりと持った剣をイノシシの首へと突き立てる。子供の力でちゃんと通るか不安ではあったが武器としての性能は初期装備でも確かなモノだった様で『ゾブリ』と首に埋まった。
剣を刺し込んだら血がドバドバ出て、次第に血が噴き出さなくなり、煙が晴れる頃には血の出る出る量はそこそこになっていた。
煙りが晴れた為にもう1匹のイノシシに見つかったが、同胞の血が一面に広がっている場面を見て恐怖したのか、甲高い鳴き声を残しながら逃げていった。
俺はというと自分の突き立てた剣で命を奪うという行為が思いの外ストレスだったのか……震える手で剣を抜いて、地面に座り込んだ。
目の前のイノシシの眼がこっちを見てる。
俺を殺したのはお前だ、と言わんばかりのその眼を見て自覚する。
ああ、俺がお前を殺したんだ、自分の為にお前の命を刈り取った。
どの位そこにへたり込んでイノシシを見ていたか……すっかり携帯トラップの効果が切れてイノシシは全身を顕わにして横たわっている。
のそのそと立ち上がりイノシシを持って帰ろうとして気がついた。
俺以上に大きいコイツをどうやって家まで持ち帰ろう。
素手のまま持ち帰るのは無理と判断した俺はここでもゲーム機から取り出した道具に頼る事にした。まあ、道具というか『素材』という方が正しいんだが。
ゲームの中から取り出したのは「ロープ草」というゲーム内で採取する事で取れる蔦。名前の通りロープの代わりとして使われる素材だ。
コイツをイノシシの体に括りつけ、ひたすら引きずって森の外を目指している。
こいつ一体でどれだけ食いつなげるかなー。暫くは持つだろうし、オヤジやオカンも褒めてくれるかね?
なんちゅーか10歳の体に引っ張られるというか、精神的には大人なんだろうけど親に褒められるのが嬉しくて仕方ない。
ひぃひぃ言いながらズリズリとイノシシを引きずって歩く。
森から出てゲーム機を使って装備を戻し、家を目指す。
「ただいまー!」
やっと家に着いた。オカンは居るかな? イノシシを見せたらどんな反応するかな?
家の前に馬車停まってたけど客が居るんかな?
「オカンー? オヤジー? 兄貴ー?」
ありゃ? 皆何処にいった?
と思ったら部屋の奥から親父と母が出てきた。
「おかえりバッツ」
「おかえり」
「オトンもオカンもただいま!あのさ、外見てよ!外!!すっげーの取って来たからアレ晩飯で食いたい!!」
今日の晩飯は肉が食える!肉!肉!!
今日は腹いっぱい食うぞ!!!!
何て思ってると母が抱きついてきた。
「オカン?」
「……ごめんなさいバッツ」
「オカン? 何謝ってるん?」
「本当に……ごめんね」
え? オカン本気で泣いてるし、親父もめっちゃ暗い顔してるけど……どしたん?
そう思ってると部屋に知らない男が入ってきた。
「その子で宜しいですか?」
「……はい、宜しくお願いします」
「バッツ……この人の言う事をちゃんと聞くのよ?」
は? え? どゆこと?
入ってきた男に手を取られ引っ張られる。
「え? ちょ!離せや!オトン!オカン!何とかしてくれ!!」
二人を振り返るとどちらも顔を伏せてる。
そこで漸く気がついた。
『売られた』
途端に体から力が抜ける、男の引く力に逆らえない。
男に連れられて馬車に乗せられた。仕事仲間なのか他にも男が1人、俺みたいなガキが数人居る。
「なあ……」
「何だ」
俺を引っ張ってた男に話しかける。
「俺の親に言っておいてくれんか?」
「……言ってみろ」
「ありがとうって、後イノシシ皆で食ってなって言っといてくれんか?」
男は暫く黙ってから伝える為に家へと向かってくれた。
俺は残ったもう1人に言われるまま馬車の隅へ移り、体育座りをする。
さっきまでワクワクしていたのが嘘の様に心が静かになっている。
「お父さん……、お母さん……。」
口に出したら涙が出てきた。
こうして俺は10歳の春に奴隷になった。
書きました!
書けました!
続きは不定期更新ザマス!