1話「前世を思い出しまして」
農村に生まれ10年。前世を思い出しました。
死んで真っ暗な場所に居たと思えば、唐突に光の球が出てきて言ってきた。
「望みを言え」
だから言った。
「ゲームがしたい」
これだけ。
まあ、何となく言ったからこんな事になるなんて思ってもなかった訳で……。
もしやり直しが利くなら自衛出来る力が欲しい、何せ今世は魔物が跋扈する世界なのだから……。過ぎたるは及ばざるが如し、いまさらなので諦めてはいる。
兎も角、ど田舎農家の三男は10歳の誕生日の夢で前世を思い出し、朝起きると『ゲーム』を手に入れていた。
前世を思い出した時点で基礎的な数学は出来るし、朧げながら経済の事も大体分かる。
今世は余り裕福な国に生まれていないので、金を貯めて街に出よう。
どうせ12で成人なんだ、それまで準備をすればいい。
で、気になるのは手持ちのゲーム。
前世で見た形で二つ折りの液晶タイプに下画面がタッチパネルでペンが付いてる。
ソフトを刺すスロットが無く、つるんっとしてる。取り敢えず電源を入れてみると問題無く点く。
画面右上にある残り電気量には100%の表示。
ホーム画面にはソフトが2つ。
片方は売れてたタイトルだし、持っていたから知ってる。様々な敵を狩猟するゲームだ。もう一つは……わからん。
一先ず慣れた手つきで知っている方のゲームを立ち上げる、記録は……流石に無いか。
懐かしいなー、ナンバリング15迄はやってたけど流石に飽きて買うの止めたんだよね。最新作だとファンタジーなのかSFなんだか分からなくなってたけどさ。
おー、おー。主人公が敵から逃げてる。其処に颯爽と現れて敵を倒すハンター。
コレがキッカケで主人公はハンターを目指す事になり、青年になった主人公は数々のモンスターを屈服させ、ソレ等から得た素材で自身の装備品を強化していく。
勿論それだけでなくストーリー性があり、主人公がどの様な人からどういった依頼を受けそれをどの様にこなしていくかで話しの展開があるのも割りと根強い人気の一つ。
伊達にナンバリングが長い訳では無い。
取りあえずゲームを進める、初期のクエストは簡単で10分もあれば1クエストが終わる。さくさくと進めチュートリアルクエストは終了。ここから本格的な狩猟が始まるという所でセーブして電源を切る。
母親がさっさと飯を食えと怒鳴っているのだ、行かないと飯抜きで畑の手伝いをさせられる。
朝から畑仕事を手伝って昼飯時、一旦家に戻って飯を食う。
ちょっと時間もあるからゲームをもう一度やろうと自室に戻ってみるがゲーム機が見当たらない。確かにベッドの枕元に置いたはずが無い。
無い、無い、無い。何処にやった? と腕組してうんうん唸っていると不意に手の中に異物感。
手を開いてみると掌からゲーム機が『生えてきた』
どうにもこのゲーム機は体の中に仕舞えるらしい。無駄に高性能なのは神様製だからか?
何はともあれ電源を入れる、右上の電源は……100%になってる。朝にゲームを終了させた時は確か90%程だった筈だが……仕舞っていると電源が回復する?
何とも不思議なゲーム機だと思いながらもゲームを進める。ついつい夢中になるが午後からも畑仕事があるので程々にしておく。
仕事が終わって自宅へ戻り自由時間、ゲームを取り出し遊ぶ。
ゲーム内のホームで狩猟の為の道具を作る。回復薬、罠、各種道具、食料。
そういや如何にも漫画肉な食料はリアルで作って食べるっていう動画が投稿サイトにもあったなぁ等と下らない事も思い出す。今世の食糧事情は質素な事この上ない為、画面の向こうに見える食料が本気で食いたくなる。
そんな風に思いながらゲームを弄っていると妙な事に気づく。
メニューアイコンに『取り出す』とある。
字面だけ見れば拠点のアイテム入れから持ち物に入れる様に受け取れるがその役目はメニューに『移す』という項目がある。
分からないなら試せば良い。取りあえず実行。
するとゲーム機から漫画肉が出てきた。
「は?」
困惑するのも無理は無い、何せ何気なくコマンドを選んだらゲーム画面から肉が出てきたのだから。
件の肉は呆気に取られている俺の前でふわふわと浮かんでいる、暫くそれを口を開けてぼけっと見ていたが正気に戻り『ソレ』を改めて見る。
まごう事なき漫画肉、しかも香辛料が効いているのかとても芳醇な香りが漂い食欲を刺激する。
今世の生活はお世辞にも裕福では無い。それでも最底辺という訳ではなく、多少は肉を食う事もあるが『前世』を思い出したこの身には非常に味気ない食事で目の前に魅せつけられた『極上』につい手が出てしまってもしょうがない事だ。
手に取るとまずその重さに驚く、ふわふわと浮かんでいたのが嘘の様にずっしりと重い。前の世界ですらこんな肉の塊を持った事は無いのだから尚の事驚く。
驚きながらも食欲を刺激され齧り付く。見た目こそ漫画肉で見た目からはそれなりの歯ごたえのありそうなソレは予想に反して高級和牛の様な柔らかさと口当たりだった。
一口、又一口と口に運び気がつけば骨だけが残った。そして食べ終えると途端に体が『張った』。
何とも言えない感覚だが『張った』、体力が一回り程『増えた』そんな感覚。
その感覚に戸惑っていると家族から畑へ行くぞと声が掛かって現実に引き戻され、戸惑いながらもゲームを自分の中に仕舞って家族の元へ駆ける。
昼からの作業は畑の作物にまく水運び、普段この作業が結構な重労働のはずだが今日はそこまで疲れない。
昼間に食べたあの肉のお陰か?
何にせよ体力に余裕が残っている内に作業が終わって自宅に帰った。
俺が手に入れたこのゲーム機、ただ遊ぶ為のモノと思っていればそんな事は無い。
どうやらこのゲーム器はゲーム内の物を『取り出す』事が可能。
そしてこの狩猟ゲーム、狩猟を題材にしている為に、罠や回復アイテムに便利道具、特殊能力付きの武器防具等色々要素が入っている訳で……なんとも壊れ性能なゲーム機だ。
試しにゲームを進めてから要らなくなった初期装備品を『取り出し』てみる。
レザーアーマー一式にショートソードにレザーシールド。武器には特殊能力は無いがレザーアーマー一式には『マップ』と『感知』スキルが付与されている。
案の定というか、ゲームの主人公は成人なので10歳の俺からみたらコノ装備品は余りにも大きい。(因みに性別は選択式)
それでもゲーム内の装備品が目の前にあるという興奮には勝てずぶかぶかの鎧一式を着てみる。気分はコスプレである。
完全に中二病患者だが興奮の最中に居るから気づけない、武器と盾を構える。剣の重さにちょっとふらつきながらも自分がゲームの主人公の様な気分になる。
初期装備でもこれだけ男心擽るのだ、もっと良い装備になれば……なんて考えも出てくる。
そんな妄想でニヤニヤしていると不意に武具が光りだす。
咄嗟の事で何も出来ず、ただ眩しさに両の目を閉じてやり過ごす。光が収まり何かと目を開けるとさっきまでサイズの合っていなかった武具が、まるで設えた様に丁度良いサイズになっている。
理解出来ない事が起きたが……まあ良いや。と考えるのを放棄した。
二度目の人生ってだけで割とおなか一杯なのに他の不思議まで理解したくない。そういう物として使えれば良い位に理解しておく。
兎も角、道具のサイズに困るって事は無さそうだし気に入ったら出してもいいのかも? 何気にこの装備品軽い、というより重さが無い? いや、重さが無いと言うよりしっくりし過ぎて重さを感じない。
着た服を意識しないように、自分の体の一部の様に扱える。
右手で剣を取り回し、左手で盾を構える。斬る、払う、突く、凪ぐ、どれも自分の思い通りの軌跡を描く。
うーん、これは思っていた以上に良い物っぽい。
しかもサイズが合ってからは頭の中に『自分以外の生き物』がどの程度の距離に居るかを感じる。しかも害意の有る無しまで分かるオマケ付き。
こんな物を手に入れたらやっぱり使ってみたくなる。だが使うといっても戦うつもりはない、何せ自分は10歳のガキでしかも農家。戦う術なんてものは一欠けら持って無い。
なので森に出て動物でも眺めようと思う。ゲームから取り出したこの『望遠鏡』で。
と、勇み足で家から出ようとした時に思った事が1つ……この格好を家族が見たらどう思う?
①.どこでそんなもの貰ったの?
②.どこからそんなもの盗ってきた?
③.どうやってそんなもの作った?
確実に②だねー……ガキがこんな設えた(様に見える)専用装備持ってたら盗んだと思うのが当然か。
仕方ないので装備は外して……外してどうしよう。部屋に置いておく? 不安しかねえ。
だったら持っていくか? 嵩張るが持って外にでればワンチャン……。
そんな風に思っていると頭の中で『ピコン!』と音が鳴った。……勿論実際に鳴ったかどうかは分からないけど鳴った様な気がした。
何だ何だと辺りを見回しているとゲーム機が体から出てくる。
手に取り開いてみると触っていなかったゲームが立ち上がっている。
見ると何だかデフォルメされたキャラクターが俺と同じ装備をして部屋の中央でポーズを決めてる。まさか……と思いながらもキャラクターの装備を全部外して決定キーを押す。
次の瞬間には元の服しか着ていない俺の出来上がり……つまりこのソフトに表示されてるキャラクター=俺らしい。
試しに部屋にある家具まで近寄って調べると、物が収納出来る。手持ちのリストにある『望遠鏡』を家具に『移す』。
すると手元にあった望遠鏡が光の玉になってゲーム機に吸い込まれる。
逆に家具から手持ちのリストに『移す』。ゲーム機から光の玉が出て望遠鏡の形を取り、ふよふよと浮かんでる、これはゲームから物を取り出したときと同じか。
つまりコイツがあれば手ぶらで色々な物が持ち歩けるしゲーム機自体を体に『入れて』おけば盗られる事も無い。
…………俺が思ってた以上にゲーム機ってチートでした。
外に出る前にちょっと調べてみたが、ゲームの中に収める事が出来るのはどうやらゲームから取り出した物限定っぽい。
俺が元から着ている服はどうやっても『装備』からは外せないし、試しに物を持っても『持ち物リスト』には反映しない。
逆にゲームから出した物は手に持って無くてもリストに載っている。
装備もセット化が出来るので初期装備品一式をセット登録しておいた。これでゲームをちょっと弄れば早着替えが出来る。
因みに全裸でセットを起動させたら全裸にレザーアーマーという変態冒険者っぽくなった。
兎も角これで準備が出来た。いざ、森へ出発!
出来ませんでした。……夜に森へは入りたく無いです。
何となく書いてみたモノですが如何でしたでしょうか。
適当に書いたので先の展開なんぞ考えてなかったり……反響悪けりゃ即終了コースという気軽な感じで書いてます。
ネタや感想等、活動報告に場所を設けているので宜しくお願いします。