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「その夢を見てるうちに、夢をモチーフに小説を書けないだろうかって思いついたんだ。でも、今のところそれはあまり上手くいってないけどね」

 僕は孝明の顔を見ると微苦笑して言った。それから、喉が渇いてきたので、残り少なっていたグラスのコーラを一息に飲み干した。


「でも、同じ内容の夢を繰り返して見ているっていうのが気になるよね。細部がリアルだっていのうも。何か心当たりとかあったりするの?」

 僕は孝明が言ったことについて少し考えてみたけれど、何も思いつかなかった。


「いや、ないよ。ただ頻繁に見て、それが妙にリアルだっていうだけだね」

 僕は言った。すると、孝明は軽く顔を伏せて何か真剣に考え込んでいる様子でいたけれど、しばらくしてから、

「ひょっとして、その、木下の夢に出てくる世界っていうのが実際にあったりしてね」

 と、ふと何か恐ろしい真実に気が付いたように、孝明は顔を俯けたままポツリと小さな声で言った。

「そして、木下は夢を見るたびにその世界に召喚というか、強制的に移行されていたりして」


「・・・ちょっと、怖いこと言うなよ」

 僕は正直に言うとちょっと怖くなったけれど、それを隠してからかうように言った。でも、孝明は笑わなかった。孝明は伏せていた顔をあげて僕の顔をじっと見た。


「いや、実際に、人間はどこかに実在しているパラレルワールドを、夢というものを媒介にして見ているのかもしれないっていう話が、科学者のあいだでも真剣にされていたりするんだ」

 と、孝明は説明するように言った。


「もちろん、全部が全部そうじゃないし、というか、夢のほとんどは記憶の整理であったり、普段そのひとが考えていることや、普段見聞きしたことものが再構築されているだけなんだけれど、まれに、そうことが起こるんじゃないかって言われてるんだ」


 僕は孝明の科白に耳を傾けながら、自分の内部で何かが身動きするのを感じた。僕は孝明に向けた視線を動かすことができなくなっていた。


「タキオンっていう、光の速さを超えることのできる粒子が存在するんじゃないかと言われていて・・・といってもその存在はまだ証明されていないんだけど、でも、仮にそういった粒子が存在していたとして…夢はそのタキオン粒子を通して、遠く離れた世界の情報を知覚しているんじゃないかって言われているんだ・・・だから、俺は、木下がいつも夢で見ているその世界っていうのは実在しているんじゃないかって思う」

 孝明は真面目な表情でそう語った。


 僕はまた喉が渇いてきたので、ペットボトルに入ったコーラを自分のグラスに注いで、一気に半分程飲んだ。


「・・・その、孝明言っているパラレルワールドっていうのは、よくSF小説なんかにタイムパラドックスを解決するためによく用いられる説のこと?つまり、たとえば、僕が過去に戻って両親を殺すと僕は存在しないことになるけど、そうすると、今度は存在しないはずの僕がどうやって両親を殺したことになるのかっていう・・・それを解決するために、僕が殺害したのはB世界の僕の両親で、それとはまたべつA世界に僕の両親は存在するから矛盾は起こらないっていう」


 僕の問いに、孝明はそうだというように頷いた。

「でも、パラレルワールドっていうのはべつにSFの話じゃなくて、ほんとうに存在するんじゃないかって言われてるんだ。たとえば、俺が今こうやってコーラを飲むとするよね?」

 孝明はそう言ってから、実際にグラスに入っているコーラを飲んでみせた。


「でも、一方で、コーラを飲まないことを選択した僕もどこかにいて、そういったちょっとずつの選択の違いが無数の分岐した世界となって存在しているんじゃないかって結構真剣に議論されているんだ」


 僕はまたコーラを飲んだ。


「その根拠になってきているのが重力問題で」

 と、孝明は話続けた。

「この世界においてなぜか他の力に比べて重力の力というのは弱過ぎるらしいんだ。本来であればもっと大きな力を与えていなければならないはずなのに、その力があまりにも小さすぎると言われているんだ。で、それがなぜなのかということを考えていったときにひとつの可能性として唱えられているのが、他の世界に、その重力の力が漏れ出ているからなんじゃないかというものなんだ。つまり、平行して存在している世界に重力は分散しているから、本来あるはずの力よりも弱いんじゃないかっていう考え方だね」


 僕は孝明の話に耳を傾けているうちに、次第にパラレワールドというものはほんとうに実在するんじゃないかと思えてきた。僕の自分の感情のなかで興奮と恐怖が入り混じって高速回転するような感覚を覚えていた。


「やけに詳しいんだね」

 僕は感心して言った。

「こういう話がもともと好きなんだ。だから、ネットとかで色々見てるんだよ。それに暇だっていうのもあってね」

 孝明は苦笑するように軽く笑って言った。それから、孝明は一転して真剣な表情を作ると、

「でも、べつに木下を脅かすわけじゃないんだけど、ネットで見ていると、実際にそういったパラレルワードに行ったっていうひとの体験談が最近増えて来てるんだ」

 と、言った。


「なかには行ったまま戻ってこられなくなったり、あるいは俺たちがこうやって生活しているこの世界に他の世界からやってきたって証言してるひとたちもいる・・・まあ、もっとも作り話である可能性の方が高いし、実際作り話なんだろうけどね」


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