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まだ試し書きの段階です。

 僕はそのドアを開けた。ドアを開けると、その先は階段になっていて、僕はその階段を下りて行った。階段はらせん状になっていて、降りても降りてもその終わりはなかなか訪れなかった。辺りはしんと静まり返っていて、そのなかに僕の階段を降りる足音だけがやけにくっきりと響いていた。


 周囲の空間はかなり薄暗いのだけれど、でも、全くの暗闇というわけではなくて、ほのかに青みがかった暗闇とでも呼べばいいのか、たとえば夕暮れの、夜の一方手前くらいの明るさがあった。空気もひんやりとして冷たくて、その冷気が僕の身体をぴったりと縁取っているような感覚があった。   

 僕には自分が何故階段を下りて行っているのかわからなかった。ただ階段があってそれが下に向かって続いているから降り続けているだけのことだった。


 どれくらい階段を降り続けたのか、たぶん時間の感覚で二時間近くが経った頃、ぷつんと、なんの脈略もなく、それは突然終わった。僕は当然まだ階段は続いているものだと思って無意識に足を動かしていたので、その自分の動かした前足がそれまでは違う、何か硬くて広い面積をもったものに触れたときに軽い混乱を覚えた。僕はあまりにも長い時間階段を降り続け、ほとんど前なんて見ずに機械的に足を動かしていたので、まさかそこで唐突に階段が終わってしまうなんて思ってもみなかったのだ。


 目の前にはまたドアがあった。そのドアは鉄でできていて、かなり時間が経過しているのか、錆びの、濃い赤褐色が目立った。目立つというよりドア一面がその何か汚らしい感じのする赤褐色で覆われていた。思いっきり足で蹴り飛ばせば砂で作られたもののように簡単に崩れ落ちてしまうんじゃないかと思えるほどだった。反対に、ドアのノブはつるりとしていて、まだ新品みたいに光沢を放っていた。


 僕はドアを開けようとして、ドアのノブに手をかけた。ドアのノブに触れると、それはかなり冷たかった。まるで氷に直接触れているような、ずっと触っていられないような異様な冷たさがあった。でも、僕はその極端な冷たさを堪えてドアのノブを回した。でも、ドアは開かなかった。鍵がかかっているのだ。僕は諦めきれなくてもう一度ドアのノブを回した。でも、駄目だった。それから、前後に強く引っ張ってみたけれど、やはり結果は同じだった。ドアは開かなかった。


 自分でもどうしてなのかはわからないのだけれど、どうしても、このドアを開けなければならないという思いに僕は駆られていた。この目の前にあるドアを開けて、先に進まなければならないのだという焦燥感に僕は駆られていた。だから、僕はドアに鍵がかかっていることを知ると、なんとしてもドアを開けようとしてドアを蹴った。何度も。何度も。激しく。


 でも、そのドアは見かけにとは対照的にしっかりとした強度を持っていて、僕が蹴ったくらいではどうにもならなかった。それでも僕はドアが開かないのだということを受け入れることができなくて、ドアを蹴り続けた。何度も。何度も。執拗に。僕のドアを蹴る音がしんと静まり返った青暗い暗闇のなかに虚ろに響き続けた。


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