表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第七話

第一話の内容を一部変更しました。

そうしないと楽就の紀霊に対する態度が

おかしくなってしまうので……

楽就は紀霊に対しては生真面目な態度ですが、

それ以外には多少砕けた態度で接します。


※追記、陳蘭の自分称がしっくり来ないので変えました。

 アタシが死に損なって何週間か経った。

 アタシと沙雪は各々別の牢屋に入れられ、

 自害を防ぐためかアタシだけ

 手枷を付けられている。

 ……こんな物を付けなくても、

 自害なんざしやしないんだがねぇ。

 それに手を塞いでも舌を噛み切っちまえば

 死んじまうんだから、猿轡もしなけりゃ

 意味無いだろうに……勿論するつもりはないが。

 紀霊(名前を教えてもらった)と戦ったおかげか、

 死にたいという気持ちは無くなっていた。

 今考えてみれば、馬鹿なことを考えた物だ。

 死んだとしても、犯した罪が無くなるわけではなく、

 罪を償えるわけでもない。



 「罪を償いたいのならどんなに辛くても

 生きていかなけりゃいけない。

 死んで償うなんざただの逃げてしかないんだ。

 それを分かっていたはずなんだがねぇ……」



 罪悪感に耐えられず、逃げを選ぼうとした

 自分自身に腹が立つ。

 初めて人を殺した日に誓った。

 罪を背負って生きていく。

 犯した罪から絶対に逃げ出さない。

 その誓いすら守れないのか?

 本当に情けない……!!



 「っと!いかんいかん。

 落ち着かないとな……」 



 ここで怒っても意味はない。冷静にならないと……

 アタシは深呼吸をして気を鎮めていると、

 足音が響いてきた。

 この数日で何度も聴いた足音。

 誰の物かは顔を見なくとも分かっていた。

 アタシを捕らえた張本人、紀霊だ。



 「よう、アンタかい。

 何度もこんな場所に来るなんて、

 余程暇なんだねぇ」


 「馬鹿を申すな陳蘭。

 眠る暇が無いほどに忙しいわい。

 儂が何日眠っておらぬと思っとるんじゃ」


 「知らないよそんなこと。

 アタシにゃ全く関係の無いことさ。

 そもそもそんなに忙しいんなら、

 こんな場所に来なけりゃいいじゃないか」


 「むぅ……」



 アタシの言葉に紀霊は唸って黙り込む。

 紀霊はアタシの様子を見に何度もここに

 足を運んでくれていた。

 それは嬉しいのだが、

 会う度に紀霊の顔色が悪くなっている。

 アタシが何度も休むように言っているのだが、

 頑として休もうとしない。



 「アンタ……日に日に顔色が悪くなっていくねぇ。

 本当に少しでも良いから休みなって。

 じゃなけりゃ死んじまうよ?」


 「そのような暇は無い。

 やらなければならぬことが山ほど

 残っておるのでな」


 「少しぐらいは暇は作れるだろう?

 暇は自分で作るもんなんだからさ」


 「いや、儂が休めば政務が滞ってしまうのじゃが……」


 「そんなもんよりも自分の命を優先しな。

 真面目なのは良いけどね。

 死んじまったら元も子も無いだろう?」


 「そうは言うが--」



 その後も紀霊が休むかどうかで盛大に揉め、

 一日に必ず一刻は睡眠を取ると言うことで、

 一応の決着がついた。

 休みぐらい素直に取れば良いのにねぇ……





 陳蘭との口論をようやく終え、牢屋から出てこれた

 儂は執務室へと向かっていた。

 やれやれ、予定よりも遥かに長く居てしまったわい。

 早く戻って政務を行わねば……



 「……休み、か」



 まともな休みが取れたのは何年前だったか?

 儂とて休めるのならば休みたい。

 だが、人手不足が解消されるまで

 休むことが出来ないのだ。

 あぁ……優秀な文官が五人……いや、六人居れば

 儂が休めるだけの余裕が出来るというのに……

 休みが欲しい……


 「……うん?」



 休みが無いことを心の中で嘆いていると、

 微かな気配を感じて立ち止まる。

 この気配は--



 「楽就……か?」


 「お見事にごさいます」



 儂の言葉に呼応するかのように

 楽就が音も無く現れた。

 最近、気配を消すことが随分と上手くなった。

 気配を消してしまえば、儂以外には気付かれぬほどだ。



 「腕を上げたのぉ楽就よ。

 今のお主ならば容易く儂を殺せて

 しまうのではないか?」


 「いえ、まだ貴女様の足元にも及びません。

 この不肖楽就、更なる鍛練を重ね、

 高みを目指していく所存です」


 「相変わらず固いのぉ……もっと砕けて喋れんのか?」


 「性分ですから」



 表情を変えずにそう言う楽就に苦笑いする。

 相変わらずの生真面目さ。

 こやつは初めて会ったあの時から

 殆ど変わっていない。

 変わったことと言えば、あの頃に比べて

 色々な表情を見せてくれるようになったくらいか。

 あの頃は、一切の表情を見せてくれず、

 常に無表情だった。

 それがある出来事によって崩れて以来、

 様々な表情を見せるようになり、

 この前のように取り乱した姿も見せるようになった。

 出会った当初のことを思い出せば、

 実に感慨深い物だ。



 「それで……一体何用じゃ?」


 「ハッ貴女様にどうしても申し上げたき

 ことがごさいます。

 ……少しだけお時間をいただいても

 よろしいでしょうか?」


 「ふむ……構わぬぞ。話してみぃ」


 「はい。……紀霊様、貴女様は何年間

 纏まった休みを取っていないか覚えていますか?」



 楽就の突然の問いに首を傾げながらも、

 記憶の糸を手繰り寄せていく。

 確か今ほど忙しくなったのは

 三年前だったはずだ。



 「三年か?」


 「……四年です」


 「おぉっ!そうじゃった!

 いかんいかん、違えてしまったわい!

 ハッハッハ!」


 取り敢えず笑ってみる。

 だが、実際は笑い事ではない。

 四年もの間、休みを取らずに働き続けたのだ。

 もはや人間のやることではない。



 「笑い事ではありません。

 貴女様はこれが如何に重大なことなのか、

 分かっておいでですか?」


 「……分かっておる。

 儂が如何に馬鹿げた生活を送って

 きたのかはのぉ……

 じゃが、それも仕方あるまい。

 人手が足りんのだからな」


 「それは確かにそうですが……

 少しは我々を頼ってくれても良いはずです。

 我々はそれほど頼りになりませんか?」


 「そんなことはない。

 お主らには随分と助けられておる。

 だがのぉ……」



 あの面倒な仕事の数々を僅かにしても、

 押し付けることに罪悪感を感じてしまう。

 まぁ、誰も押し付けられたとは思わぬだろうが。



 「……このまま話していても埒が明きませんね。

 この手だけは使いたくなかったのですが、

 仕方ありません。衛兵!彼女を捕らえてください!」


 「「「ハッ!」」」



 楽就の指示に従い、何処からともなく現れた衛兵達が

 抵抗する暇もなく儂を取り押さえ、

 縄で雁字搦めに儂を縛った。



 「な、何をする!?放せ!放さぬかっ!」


 「手荒な真似をしてしまい、申し訳ありません。

 ですが、これも貴女様のため……

 どうかご理解ください」


 「楽就……」


 「紀霊様。貴女様にはこれから一月ほど

 街で生活してもらいます。

 今日まで酷使されたそのお身体をゆっくりと

 癒してきて下さい」


 「ま、待てぃ!この様なこと袁術殿が

  許されるはずが「この事に関しては袁術様から

 許可は取ってありますのであしからず」

 なんじゃとぉ!?」



 馬鹿な!あの袁術殿が許可したと言うのか!?

 一体どんな心変わりをしたのじゃ!?



 「後のことは我々に任せてください。

 では衛兵、紀霊様を連れていってください」


 「ハッ!」



 楽就の指示に従い、衛兵が儂を引き摺っていく。



 「待て!まだ仕事が残っておる!

 仕事が残っておるのだぁぁぁぁ!!」



 儂の声が場内に空しく響き渡った。



次からは新章。

だけどまだ黄巾の乱には入らない……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ