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第四話

戦闘……にはまだ入らない!

 「紀霊将軍!」



 謁見の間から出たところで楽就の下へ

 向かわせていた兵士に出くわした。

 この様子からすると、無事に楽就に儂の

 指示を伝えることが出来たようだ。



 「うむ、儂の指示は伝えたようじゃな。

 あやつは何か言っておったか?」


 「ハッ!楽就将軍から最高の兵士を見繕っておくと

 伝えて欲しいとの言伝がありました」


 「ふっ……あやつめ、言いおるわい」



 あの楽就がここまで言い切るとはのぉ。

 これは期待出来そうじゃ。





 「お待ちしておりました。紀霊様」



 調練場に到着すると、既に兵士は整列していた。

 どの兵士も良い面構えをしており、

 選ばれたことによる誇りと自信を

 感じることが出来た。



 「良い兵を選んだの。お主に任せて正解じゃった」


 「いえ、実のところ彼らを選んだのは私ではなく、

 楊泰さんなのです」


 「楊泰?」


 「貴女と一番最初に組手を行なった少女の名です。

 さぁ、楊泰さん」


 「は、はい!」



 楽就に促されて楊泰が儂の前に現れる。

 緊張しているのか楊泰の顔は強張っていた。

 先程のことを気にしておるのだろう。

 なんとも分かりやすい奴じゃ。



 「さっきはすいませんでした!

 つい頭に血が上っちゃって……」


 「いやいや元々けしかけたのは儂じゃからの。

 謝らねばならぬのはこちらの方じゃ。

 すまなかったのぉ」



 調練場での一件について、互いに謝り合った。

 儂が悪かった、いやいやあたしの方が悪かったと

 どちらも退かずに謝り合う。

 何時までも終わる気配が無い謝罪の応酬に、

 楽就が待ったをかけた。



 「互いに罪の意識があることは分かりました。

 ですが、続きは賊を討伐なさって

 からにしてください」


 「む……それもそうじゃな。

 では、続きは帰って来てからと言うことで」


 「そうですね!さっさとケリをつけちゃいましょう!」


 「……」



 謝り合いを一時中断して、儂らは賊討伐へ

 向かったのだが……楽就が何故呆れたような

 視線を儂らに向けたのかは分からなかった。





 アタシは一人、城壁の上で酒を飲んでいた。

 砦の中では宴が行われているが、それに

 混ざるつもりはない。

 連中は同業者ではあるが、仲間ではないからだ。

 必要以上に馴れ合うつもりはなかった。



 「不味い……」



 酒の不味さに顔を顰める。

 この頃酒を上手く感じなくなった。

 それだけじゃない。

 何もかもに嫌気が差していた。

 もう奪いたくなんかない。

 もう誰も殺したくなんかない。

 だが、自分から止めることは出来なかった。

 外道に堕ちた人間は、自らの意思で正しい道に

 戻ることは出来ないのだ。



 「何時になったら死ねるのかねぇ」



 ポツリとそう呟く。

 もう死んで楽になりたかった。

 アタシが死んだところで誰かが悲しむことは

 ないのだから。

 ……いや、一人だけアタシのために

 泣いてくれる奴が居たな。

 アタシが死んだら、アイツは絶対泣く。

 ……それは嫌だな。



 「……疾風」


 「うん?」



 後ろからアタシの真名が聞こえため、

 後ろを振り向く。

 そこには今頭に思い浮かべていた人物、

 アタシの相棒であり親友である

 雷銅が怒りに顔を歪ませ、佇んでいた。



 「……何故、そんなこと言う?」


 「おいおい、何をそんなに熱くなってんだい?

 冗談だよ冗談」


 「……嘘」


 「嘘じゃな「嘘!!」っ!?」



 珍しく荒げられた声にアタシの声は封殺される。

 本気で怒ってるみたいだねぇ……

 だが、アンタに話すわけにはいかないんだ。

 話しちまったら、間違いなくアンタは泣いちまう。

 アタシはアンタが泣いてる姿を見たくないんだ。

 だから--



 「……アタシは嘘をついちゃあいないよ。

 アタシがさっき言ったことは、単なる冗談。

 それ以上でもそれ以下でもないのさ」


 「……疾風」



 そんな泣きそうな顔すんなよ。

 アタシまで泣きたくなるじゃないか。

 アンタには笑って欲しいんだよ。



 「ほら、そんな顔しなさんな!

 アタシにアンタの綺麗な笑顔を見せとくれよ」



 そう言って雷銅--沙雪の頭を撫でる。

 しばらくは表情は晴れなかったが、

 その内沙雪の表情は晴れ、

 ニコリと綺麗な笑みを浮かべてくれた。

 そうだ……アンタは笑ってくれ。

 アンタが笑ってくれるだけで、

 アタシはどんなことだって出来るんだから。





 「これより砦に攻撃を仕掛ける。

 それに至って、まずは隊を二つに分ける」


 「ちょっと待ってくださいよ!

 そんなことしたら、ただでさえ

 少ない戦力が……」


 「皆まで言うな。分かっておる」



 そう言って楊泰を制した。

 今儂らは森の中で移動を止めている。

 この森の奥深くに賊共が集結している砦があるのだ。

 正直、今の戦力で砦を攻略することは不可能だ。

 ならばどうするか?

 簡単なことだ。奴等を砦の中から

 引き摺り出せば良い。

 野戦となれば、勝ち目は十分にある。

 隊を二つに分ける理由は、森の中に兵を

 伏せるためだ。



 「お主らが言いたいことは分かる。

 じゃが、今は儂の指示に従って欲しい。

 この通りじゃ」



 儂は兵士達に向けて頭を下げる。

 それを見た兵士達は顔を見合わせざわめく。

 そんな中でバチンと肌を叩く音が響いた。

 その音でざわめきが止み、視線が音の元へと

 向けられる。

 視線の先には、両頬を赤くして

 涙目になっている楊泰が居た。

 大方、気合いを入れようとして頬を強く

 叩きすぎたのじゃろう。

 おかげで空気が変わったのじゃが……

 なんだかのぉ……



 「いたたた……強く叩きすぎちゃった。

 ……うぇ?何皆してあたしのこと見てるの?」


 「……まぁ良い。ではこれより

 お主らを二つに分ける。

 名を呼ばれた者は前に出てくるようにの」



 その後、無事に隊を分けることは出来が

 楊泰は微妙な空気に首を傾げていた。

因みに雷銅ともう一人はどちらも女性です。

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