表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第二話

残念だったなぁ!袁術はまだ出てこないぜ!

 「これより調練を始める!まずは走り込みからじゃ。

 着いてこい!」


 「「「ハッ!」」」



 兵達を率いて調練場を走り始めた。

 儂は調練の際には兵士達と共に調練を行い

 汗を流すことにしている。

 自らの鍛練にもなるし、良い気分転換にもなるからだ。

 気分転換でもせんと精神が持たんからのぉ。



 「よし!走り込み終わり!続いて組手を始める。

 新兵は儂の下へ集合せい!それ以外の者は

 二人一組となり組手を始めよ!」



 儂の指示に従い、新兵が儂の下に集まり、

 それ以外の兵士が組手を始める。

 ……うむ、大分ましになってきたな。


 「全員集合しました!」


 「うむ、結構」



 集合した新兵を見渡す。

 やはり初めての調練に緊張しているのだろう。

 殆どの者の表情が固い

 緊張がある内は問題は無いじゃろう。

 緊張が無くなれば調練に身が入らなくなり、

 軍規を乱すようになるからの。

 ある程度の緊張は常に持っていた方が良い。



 「皆、知っておるとは思うがもう一度

 自己紹介させてもらうかのぉ。

 儂は紀霊、軍事の全てを任されておる。

 よろしく頼むぞい」


 「「「よろしくお願いします!」」」


 「うむ、良い返事じゃ!では早速本題に

 入るとするかのぉ。

 これからお主らには儂と組手をやってもらう」



 儂の言葉を聞いて新兵達がざわめく。

 皆負ければ辞めさせられるのではないかと、

 不安を感じているようだ。

 いきなり集められて組手をなどと言われれば、

 こうもなるか……

 だが、一人だけ全く動じずに儂を見つめる

 背中に巨大な槌を背負った十六歳ぐらいの女童が居た。

 女童の目は儂を倒してやるという意思を

 強く感じることが出来る。

 ……なるほど、活きが良い奴がおるようじゃ。



 「なに、そう気負うことはないぞい。

 この組手はお主らの実力を図るために

 行うのじゃからな。

 別に儂に負けたところで辞めさせる

 わけではないから安心するが良いぞ」



 安心したのか新兵達の顔に安堵の表情が浮かぶ。

 が、女童だけは何処か不満気な表情をしていた。

 あやつは全力で戦いようじゃな。

 ならば……

 儂はわざと尊大な笑みを浮かべ、それにと続けた。



 「お主らごとき小童共に儂が負けようはずが

 ないからのぉ!ハッハッハ!」



 新兵達は何か言いた気ではあるが、

 口を開く者は居なかった。

 --一人を除いては。



 「待ってください!」



 不快さを隠そうとせずに女童は前に出てくる。

 さてさてどの様な言葉が出てくるか……?





 あたしは武に自信を持っている。

 そんじょそこらの武官に遅れを取ったことは

 一度だって無い。

 何百人もの盗賊だって一人で倒せるのだ。

 だからこそあたしは自分の武に自負と

 誇りを持っていた。

 それなのにこの女はあたしの武を見ることもなく、

 勝てるはずか無いと笑ったのだ。

 気に入らない……ぶっ飛ばして二度と

 笑えなくしてやる!!



 「なんじゃ?何か文句でもあるのか?」


 「あります」


 「……ほぅ?」



 迷わず言い切ったあたしを見て、僅かに目が細まる。

 周りの皆が止めた方が良いと言ってくるが、

 あたしは構うことなく口を開いた。



 「実力を見たわけでもないのに敵わないと

 判断するのは、少し早計ではないでしょうか?」


 「儂の判断が誤っておると言いたいのか?

 お主らの中に、儂を倒すことが出来る者が居ると?」


 「はい」



 頷くあたしを見て紀霊が大声で笑い出した。



 「……何がおかしいんですか?」


 「笑いもするじゃろう!お主らの様な、

 調練を受けたことの無い小童共が儂に勝てると

 言うのじゃからな!アッハハハハッ!」


 「--っ!!」



 歯を食い縛って必死に怒りを抑え込む。

 今すぐぶっ飛ばしてやりたい。

 だけどそれじゃ駄目だ。

 ちゃんと組手で倒さないと意味が無い。



 「……だったら、試してみますか?」




 背中にある破城に手をかける。



 「儂に勝つつもりかの?」


 「最初からそのつもりです」


 「中々に威勢の良い女童じゃ。

 ……ふん、良いじゃろう相手を

 してやろうではないか。ただし--」


 「ただし?」


 「それだけ大口を叩いたのじゃ。

 お主が負けた場合は問答無用で城から追い出す。

 ……構わんの?」



 そんなことか、なら問題は無い。



 「構いませんよ。要は勝てば良いんですから」



 紀霊め……ぶっ飛ばして大恥かかせてやる!





 なんと言うか……乗せやすすぎて

 拍子抜けしてしまった。

 こやつは思慮が足りなさすぎるな。

 若さゆえに……か。



 「では、始めようかのぉ」



 女童と向かい合い腕を組む。

 それを見た女童の眉間に皺が刻まれる。



 「……何故武器を抜かないんですか?」


 「こうでもしなければ、組手にすらならぬからの。

 さぁ、何処からでもかかってくるが良い」


 「--っ!!どうなっても知りませんからね!!」



 女童が踏み込み、槌を振り下ろしてくる。

 後ろに軽く飛んで避けた。

 槌は地面に振り下ろされ、地面が大きくへこむ。

 ふむ……力は一級品のようじゃな。



 「オ……ラァァァァ!!」



 今度は槌を横に振るってくる。

 儂はそれを屈んで避け、足を払った。



 「きゃっ!?」



 女童は尻餅を突く。

 一瞬だけ呆けていたが、すぐに立ち上がり

 槌を構える。


 ……う~む、大振り過ぎるのぉ。

 筋は悪くないんじゃがなぁ。

 どれ、ちと仕掛けてみるとするか。



 「ほっ」



 軽く拳を放つ。女童は軽々と拳を防いだ。

 流石にこれは防げるか。

 では、速さを上げていくとするかの。

 儂は徐々に速さを上げて、拳を放っていく。

 最初は難なく防いでいくが、次第に

 防げなくなっていき、どんどん体に当たっていく。

 反応速度はまぁまぁか……それなりには

 伸びそうじゃな。



 「どうした?大口を叩いた割には大した

 ことはないのぉ。

 手を抜いてくれておるのか?」


 「ふざけるなっ!!あたしは……

 あたしはぁぁぁぁ!!」



 自分の攻撃は当たらず、儂の攻撃が当たることに

 苛立ったのだっているのだろう。

 女童はただ我武者羅に槌を振るってくる。

 冷静さを失ったその攻撃はあまりに大振りで遅い。

 やれやれ、仕方がないのぉ……

 横凪ぎに振るわれる槌を片手で受け止める。



 「……へ?」



 女童は目の前の光景が信じられないのか、

 唖然とした表情をして固まっている。

 何とも面白い顔をしておる。

 では、もっと驚かせてやるかのぉ!

 僅かに力を入れて、槌を押し返してやる。

 すると--



 「はぇ?ちょっおわぁぁぁぁ!?」



 女童はぐるぐると回転しながら壁へ向かって行く。

 そして壁に盛大にぶつかり、地面に倒れる。

 近付いてみると、目を回して気を失っていた。

 ……やり過ぎたかの?



 「まぁ、良いか」



 その内目が覚めるじゃろう。

 それに十分に実力を図ることが出来た。

 中々の素質の持ち主じゃ。

 もしかしたら化けるやもしれんな……

 兵士に女童を医務室に運ぶ様に指示を出し、

 新兵達の下へと向かった。 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ