ACT9
なんとか今週に間に合った(汗)
ストーリーが出来ていくのと反比例して、だんだん文章が書けなくなってきたような気がする。
時刻は23時を少しまわり、ニューデウスの街も昼間の喧騒は息を潜め、辺りは闇に覆われている。ところどころに街灯は灯っているが、なぜか全てが途切れ途切れで、かなり心細く光を放っている。
その中でもスラム街は格段に静かだった。街灯も無いエリアなので、普段から他のエリアとはその闇の深さで一線を画しているのだが、今日のそれはまるで何かから隠れるような、そんな緊張感を纏っている。時折聞こえる何かを引きずったような音は、ゴミが風に流された音だろうか。
そんなエリアの一角。
ゴミ袋が大量に積まれている、常人なら生理的に受け付けないような場所で、本当に幸せそうな、間抜けな笑顔を浮かべてぐっすりと眠っている男がいた。
ハルトだ。
昼間のクエストのせいで、余程疲れが溜まっていたのだろう。歓楽街だと思って向かった先がスラム街で、それに気づかないハルトが睡魔により霞む意識の中やっと宿屋を見つけたと思った場所がゴミ捨て場だなんて。
不幸すぎる。
いや、そうでもないのかもしれない。
この姿を見たらそう思えて来る。全力で弛緩した身体は四肢をゴミ袋の上に投げ出し、顔面筋が無くなったくらいに緩んだ笑みを浮かべた顔は口をだらし無く開き、大量のヨダレを垂れ流している。その姿はまさに、睡眠という生理行動がいかに人間にとって必要な行動なのかを体現していた。
本当に、心の底から幸せそうである。
しかし、それを人としては不自然な形をした影が見下ろしていた。
その影は遠目に見ても身体が異様に細く、そして縦に長かった。その身長は約2メートル30センチはあるだろう。左肩に何か、人くらいの大きさの荷物を抱え、空いた右手をハルトに向かってゆっくりと伸ばし、すぐに引っ込める。またゆっくりと伸ばしすぐに引っ込める。何回も。何回も。まるでお菓子を買っちゃ駄目、と母親に言われた子供のように。しかしハルトは気づかない。深い眠りに落ちているハルトは相変わらずマヌケ面のままだ。あまつさえのんきに寝返りを打つ始末である。
ハルトが寝返りを打ったことで、高く積まれていたゴミ袋が1つ影に向かって転がった。影は足元に転がってきたゴミ袋をその細長い腕で掴み上げ、顔の前まで持ち上げる。すると次の瞬間、バリボリバリッ!!と凄い勢いで食べ始めた。空き缶でも入っていたのだろうか。金属音も聞こえてくるが影はものともせずに咀嚼を続ける。
そしてゴミ袋を食べ終わった影はまた何事も無かったように先程の、ハルトに手を伸ばしては引っ込めるといった動作を繰り返しだした。
「ッ!?」
何かに気づいたのだろうか。影が勢いよく振り向き遠くを凝視する。そして最後に物惜しそうにハルトに手を伸ばし、触れる前に姿を闇に消した。
「……ヤツはここにいたな」
しばらくして、先程の影が振り向いた方向から一人の男がやってきた。姿は辺りが暗いせいか、視認しづらいが身長は低く、160センチ程だろう。その男は影が立っていた位置にしゃがみ込み、呟く。
「上手く痕跡を消しているが、俺の眼は誤魔化せない。俺の眼は全てを見抜く。そしてこれが、その証拠だ」
そう言って地面からつまみ上げたのは数本の黄金の細長い糸。
「こんなに目立つ物を落とすなんて、どうやら俺の事を余程畏れているらしい。まあ、それも仕方ないか。俺自身、コイツが解き放たれたら、なんて想像もできないもんな」
なあ相棒、と囁きながら男は左腕を優しく撫でる。
男は気づいているのだろうか。その糸がその煌めきをこの夜闇の中放って、とても目立っていたおり、誰でも気づくことができたということに。その妙に芝居かかった口調から察するに、わかっていて無視しているのだろうが。
そして、その言葉が全て独り言だ、ということに。
「絶対に逃がしはしない。必ずこの手で滅ぼしてやる。仇は、打つ」
クククッ、と笑みを漏らし男は回りながら立ち上がる。回転した勢いで黒いロングコートの裾が翻った。そのまま右手を肩の高さで真横に伸ばし手の甲を正面に向け言った。
「−−−さあ、Show Timeだ」
そこで男は気づいた。目の前のゴミ袋の山の中に人がいることに。
手汗が滲む。冷や汗が背中を伝う。鼓動が速まる。身体が動かせない。
「あ、あの!これは、その、えーっと」
恥ずかしいところを見られテンパり度マックスになった男は、何度も吃りながら必死に言い訳を試みる。
「決してそんなんじゃないんです僕は。……だから!」
「ぐがー」
男が何かを言いかけるがそれを遮るようにハルトが大きくいびきをかいた。
「……へ?」
「ぐごー」
「ね、寝てる!?」
男は、ハルトが寝てることに気がついた。その事実に安心し、ホッと胸を撫で下ろす。
「っていうか、ここで……?」
口調が普通の人のそれになっているがそれはひとまず置いといて、男はハルトが寝ている場所に戸惑う。
「こんな物騒な時になんで?とにかく運ばなきゃ」
男はゴミの匂いに顔をしかめながらもハルトを担ぎ、まだ動きの鈍い身体を必死に動かし歓楽街へと歩きだした。
ようやくハルト以外のプレイヤーを出せた。
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