ACT4
宿題の多さに学生をやめたい今日この頃(嘘)。微分積分ェ……。これからは週1更新くらいで頑張ります。
そしてボス戦は次になっちゃいました。
ハルトはとても困っていた。
あの後、子供エルフ達は長々と喋り続け、急にハルトの手を取ったかと思うと光に包まれ、次の瞬間、見知らぬ集落が眼前に広がっていたのだ。
しかしハルトが困っていた理由はそこにはない。というか、そんな出来事は頭に入っていない。唯一頭にあるのは、
(な、ななな、なんか喋らないと)
これだけである。
三ヶ月間、話し相手と言えばペッポしかいなかったハルトは、この状況にものすごくテンパっていた。
念のためにつけくわえるが、エルフ達もペッポと同じでプログラムによって動くAIであることをお忘れなく。ハルトはすっかり忘れていたが。
「こちらです」
「です」
二人に連れてこられたのは大きな武家屋敷。まだ少し混乱が残っているハルトはその様相を見て、サマー○ォーズを思い出した。
しかし、あの映画は名作だったと思う。いやホント。夏休みにふとテレビをつけたら、偶然サマー○ォーズが流れていたのが出会いだった。最初は他の番組がつまらなく、暫定的に見ていただけのアニメだったのに、終わってみたらこれだよ。終盤で流れるCMにどれだけイライラしたことか。結局最後まで見てしまった。ストーリーが重厚で、絵での感情表現が爆発的に上手い。髪が揺れることで感情を表すところとか半端ないでしょ。今更だろう、とか、ニワカだな、とか思う方々もいるでしょうがしかし!!どれだけ貶されようと、どれだけ罵られようとも声高にサマーウ○ーズへの愛を訴え続けます!
閑話休題。
とにかく、立派な屋敷である。
少し落ち着いてきたハルトは、二人に手を握られながら思う。
(この中に入るのかな……)
庶民であるハルトには、ゲーム内とはいえ少し気後れすることであった。
ギギギ、と渇いた音を出しながら両開きの扉がゆっくりと開く。そこには老齢のエルフがいた。
「ようこそおいでくださりました。立ち話もなんですからこちらへ来て下さい」
老齢のエルフはそう言って歩きだす。拒否権ってなんだっけ、等という質問は、新たな登場人物に人見知りを発動し、混乱しているハルトが思いつくわけもなく、ただ、その後をついて行くのであった。
「お話があります」
ハルトの、黒い上質な机をはさんで向かい側に座った老齢のエルフがそう切り出した。
「私達の村は半年前に襲撃され、そして滅びかけました。たった一体の鬼によって。鬼は圧倒的な力で戦士達を瞬く間に捩じ伏せ、村を制圧しました。しかし間一髪、私の幻術が間に合い、鬼が幻を見ている間に村の女子供達を連れ出し、ここへ逃げ込み結界を張ったのです」
ハルトはまだ人見知りが発動中のようで、ろくに話を聞いておらず、相槌なのだろうか、時々発する言葉も「うぁ…」とか、「ああ…」という意味の無いものばかり。しかしイベントには何も影響は無いらしく、エルフは話を続ける。
「しかし、かの地は先祖代々受け継いできた歴史ある地。私の力量が足りず、女子供を逃がすので精一杯だったとはいえ、手放すべきではありませんでした。しかし私では取り戻すことは不可能。そこで私は思いつきました。鬼族の天敵である<破鬼の民>を育てようと。そしてすぐさま森に幻術をかけ<餓鬼の森>を作り上げ、そこで育ったあなたをこの集落へと連れてきた次第であります。どうか、鬼を討っていただけないでしょうか」
ようやく説明が終わり、ハルトの目の前に『クエストを受注しますか?』の文字が浮かび上がる。
人見知り発動中のハルトは、早くこの場から、この時間から逃れたい一心で『Yes』ボタンを連打する。
「おお!ありがとうございます!それではこちらをお納めください」
『クエストを受注しました』の文字が空中に浮かぶと、老齢のエルフの顔が喜びに染まる。そして二人の間にある黒い上質な机の中から、一振りの漆黒の刀を取り出し、ハルトに差し出す。その刀からは今にも斬れるような冷たい緊張感と、周りのものを威圧するような存在感が滲み出ていた。
「この刀<絶の太刀>。我が一族に伝わる最高の太刀です。遠く極東の地よりもたらされた、とされています。どうか、どうかこの刀であの鬼を討ち、かの地を取り戻してください!!」
そう言ってエルフはハルトにその黒刀を渡した。
刀がエルフの手を離れたその瞬間、一瞬だけエルフが表情を歪ませるがハルトは気づかない。まだ情けない顔で「うぁ…」とか「ああ…」等と口から音を発しているのみであった。
あの後、ハルトは無事に<見習い>から<武士>に転職し、ボス戦に向けて回復薬などの消耗品を集落で補充した。
(しっかし、浮いてるよなぁ)
ハルトは腰に差している黒刀を見て溜め息をついた。それもそのはず、無駄に存在感を放ち過ぎるその刀は、初期装備で身を固めているハルトをアンバランスな姿にしていた。
(ランク1とランク8だもんな……)
集落でハルトが真っ先に考えたのは装備の充実であった。
ハルトの見たところ、あの老齢のエルフのレベルは40を越えていた。レベルが表示されなかったのだ。そのエルフが為す術も無く倒される相手はレベル40は軽く上回っていることが予想できる。
だからといってレベルアップをしにフィールドへ行ける訳ではない。老齢エルフの施した結界はかなり強力で、ハルトは通り抜けることができなかった。
そこで装備を一新しようと集落へ来たのだが挫折。というのも、武器は黒刀があるからいいとして、問題の<見習いの服>をどうにかしなければ、と防具屋を探し出したのだがどこにも見当たらない。先に回復薬を補充しようと寄った道具屋でのことだ。
「あら、あんたがあの鬼退治へ行くという冒険者かい?」
宿屋で「いらっしゃい!」と言ってるのが1番似合いそうな恰幅のいいおばちゃんエルフが声をかける。
「生憎、武器屋と防具屋は無くてねぇ。二人ともあの鬼にやられちまって」
人見知りのハルトは何も言えずにいたが、その情報にかなりの動揺を覚えた。
慌てて自分の着ている服を確認する。
<見習いの服>だ
ランク1の初期装備。無装備に毛が生えたような防御力で、ログインした街、<リーフシティ>の防具屋で150Gで<旅人の服>を買えることから、開始1時間もあればすぐに使用者がいなくなる優れもの♪
今まではβテストでの経験とレベル差にものをいわせてモンスターの攻撃をかわせていたが、これから戦う敵はボスモンスター。かわし続けられるとは到底思えない。ハルトの心に諦めの気持ちが少し過ぎった。
準備を終えたハルトはあの武家屋敷へと再度赴く。
「どうやら準備は終わったようですな。では」
ハルトを迎えたエルフは、大きな庭で何やら呟き出す。
「−−共鳴せし双印よ。その道を照らせ」
呟きが終わると同時にフォン、という音が響き目の前に光の扉が現れた。どうやらこの扉をくぐるとボスの元へと行けるらしい。
ハルトは光の中へ足を踏み入れた。
書き方変わったのはミスではありません。ただ作者が安定して書けないだけです。
次こそはボス戦。