ボーイ・ミーツ・ガールあるいはバディもの、もしくはダブル主人公
月の自転車とともに
「おーい。待てよー。置いてくなって」
僕は車の窓を開け、前方を走る自転車に声をかける。
「スイが遅いのがわるーい」
そう大声で僕に返事をすると、ユエは自転車のペダルを踏み、また一段と加速した。
「はあ、まったく。これも『お国柄』ってやつかねぇ」
ゆっくりと加速してユエの自転車の後ろを車で走りながら、僕は独り言ちる。
僕が同じことをしたなら、きっと早々に息切れしてしまうだろうが、体力の有り余っているユエには、これくらいの速さは何てことないらしい。
整備の進んでいない道の上でも、楽し気に自転車を走らせている。
『お国柄』――僕らがつい使ってしまうこの言い回しが、ユエはあまり好きではないらしい。
一時期ユエがこちらで暮らしていた子どものころに、同年代の子どもたちと、ユエが喧嘩した原因がそれだった。
「ぅわ――っと……」
ユエのそんな声とともに、前方で自転車が大きく揺れ、砂埃を巻き上げて動きが止まる。僕もその近くに車を停めた。
「やっちゃったー」
近づいてみると、どうやらパンクしてしまったらしい。恥ずかしそうに照れ笑いをするユエがこちらを振り向く。
「てことで、次の町まで乗せてって」
「ん。まあ、そのためについてきたわけだし」
「ふふ。さっすがスイ、わかってるー」
ふざけて小突きあうのは、お互い照れ隠しのためだ。久しぶりに会ったこともあり、少し距離感をつかみかねているのはお互い様だ。
「けど、物好きだよなー。わざわざ自転車で一周旅行とか」
「んー。まあねー」
自転車を車に載せ、助手席に乗り込んできたユエと話す。窓から入る風に髪をなびかせるユエは、目を細めて道の先を眺めている。
「そーいうのも、地球育ちだからってやつかねぇ……」
重力の違いから、地球出身者は月出身者よりも身体能力に優れていることが多い。
月の自転に沿って月を一周するというユエの話を聞いたときのことを思い出して、ぼそりとつい、そんなことをこぼしてしまうと、ユエに睨まれる。
「私がそう言われるの嫌いって知ってるくせに……! そっちがそのつもりなら、こっちにだって考えがあるんだからね、この、月育ち……!」
「悪い悪い」
子どものころと変わらない反応に、つい笑みがこぼれてしまい、またユエに睨まれる。
ユエの自転車での月一周旅行に付き添う、僕の旅は、まだ、始まったばかりだ。
* * *
月の自転車とともに。
月の自転、車とともに追いかける。




