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三題噺もどき4

タイミング

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくはちじゅうなな。

 




 激しい雨が、窓を叩いている。

 仕事に集中し始めた後は気づかなかったが、かなりひどい雨のようだ。

 一時警報が出ていたらしい。私が住んでいるこの辺りはそうでもないようだが、山の方なんかは大変だろうな。

「……」

 雷こそなっていないものの、音だけ聞くとその激しさがよくわかる。

 風はそこまで強くないのだろうか、その音は聞こえない。

 ひたすらに、水が降り続ける音が町を支配しているのだろう。

「……」

 煌々と光るパソコン画面から視線を外し、カーテンの隙間から外を見る。

 基本的には、しっかり閉じているのだけど、何かの拍子で引っかかって開いてしまったのだろう。雨の作り出す簾のかかったような景色は、大雨の時の特権だろうか。

「……」

 後できっちり閉めなおそうと思いながら、視線を壁にかけられた時計にやる。

 もうそんな時間なのか……今日はこの雨で散歩に行けなかったから、仕事の再開時間がいつもより早かった。だから、さて集中が続くだろうかという心配が少しあったのだが、今日の仕事は集中するには持ってこいだし時間をつぶすには丁度いい量の仕事だったのだろう。いつもの時間に、こうして集中が途切れた。

「……」

 凝り固まった体をほぐすように腕を伸ばす。

 気づかなかったが、足を椅子の上に持ってきて胡坐のような姿勢になっていたので、それも伸ばす。無意識に足を動かしていたのだろう……おかげで変に痺れている気がする。

 丸くなっていた背中も伸ばしのけぞるような姿勢になっていると、視界の端にクローゼットが写る。

「……」

 その隙間に、冬に引っ張り出しておいたグローブが挟まっていた。

 少し前に洗濯をして、適当に直しておいたのが飛び出していたらしい。

 手の甲を挟まれるような形で、戸に挟まっており、何とも痛々しいものだった。

「……」

 伸ばしていた体を元に戻し、椅子から立ち上がる。

 こういうのを見ると、本や漫画で見るような母親のように、あれこれと口を出し始めるやつがいるので、気づかれる前に片付けるに限る。

 もう少し気温が安定してきたら、衣替えというのもしなくてはいけないな。

 その時にでもしっかり片づければいいだろうから、とりあえずは中に放っておこう。

「……ご主人」

「……」

 タイミングが悪いなぁ。

 ノックもしないからこういうことになる。

 外側に開かれた部屋の戸の入り口には、腰にエプロンを巻いた私の従者が立っていた。小柄な少年の姿をした彼は、呆れるような口調で声を掛けてくる。

 今日は比較的機嫌がいいのか、後ろ手にリボンで結ぶタイプのモノを着ているようだ。

「……何をしているんですか」

「……いや、片づけようと思って」

「適当に中に入れるのは片づけとは言いませんよ」

 それはそうなのだが。

 もう使うことのないグローブなのだから、とりあえずで片づけてもいいと思わないか。……とまぁ、そんなことを言うと、これからの休憩のお供がなくなりかねないので下手なことは言わない。

「……今日は仕事も終わりそうだし、あとで衣替えでもしようと思っているから」

「……」

「その時に冬物とまとめた方がいいだろう?」

「……そうですか」

 はたしてごまかしがきくようなやつではないので、ここで引き下がらずに問い詰められるかと思ったが。

「アイスが溶けるので、休憩しますよ」

「あ、うん」

 珍しく、これ以上の追及はなかった。

 ……これは、ホントに今日の仕事が終わった後に衣替えをしないといけないやつだな。

 それはそれで面倒だ。この休憩中にご機嫌取りでもしておくかな。

 まぁ、でも、すでにご機嫌はいいようだしそこまで気にしなくてもいいかもしれないな。




「ん、これうまいな」

「それはよかったです」

「仕事が捗りそうだ」

「そのあとに、衣替えしましょうね」

「……うん」











 お題:グローブ・洗濯・溶ける

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