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第六章:仲間との再会

 迷宮を抜け出したとき、朝日はまだ昇りきっておらず、空は紫と橙が入り混じった不思議な色合いに染まっていた。夜の残滓と昼の兆しが空で綱引きをしているような光景だった。湿った土の匂い、静かに揺れる草の音、その全てが生きていることの証のように感じられた。

 里香は、光が差し始めた空を見上げて、そっと息を吐いた。隣には、大樹がいる。その事実だけで、心の奥にゆっくりと温かさが広がっていく。迷宮での出来事は、まるで遠い夢のようだった。でも、大樹の手のぬくもりが、現実だと静かに教えてくれていた。

「……戻ってこれたね。」

「うん。君のおかげだ。」

 大樹の声は、低くて優しい。彼がそう言うたび、胸の奥がくすぐったくなって、どうしていいかわからなくなる。でも――悪くない。むしろ、もっと聞きたいと思ってしまう自分がいた。

 街の門が見えた頃、異様な雰囲気にふたりは足を止めた。門の外には、ギルドの旗を掲げた馬車と、慌ただしく行き交う冒険者たちの姿。人々の顔には緊張が走り、誰もが口を揃えて同じことを叫んでいる。

「モンスターが街に向かってきてる!早く応援を呼べ!」

「数が多すぎる!防衛線が崩れるぞ!」

 聞こえてくる声に、里香はぎゅっと拳を握った。大樹もすぐに状況を把握し、街に向かって走り出す。その背中を追いかけるように、里香も駆けた。

 ギルドホール前には、すでに仲間たちの姿があった。神谷昌敏は額に汗を浮かべながらも、静かに詠唱を続けている。川本田健三は前線で剣を振るい、怪我を負いながらも必死に踏ん張っていた。高松田貴志子は冷静に陣形を整え、石倉佳那子が後方で傷ついた人々を手当てしていた。

 その中に、里香も自然と飛び込んでいった。だが、一瞬の隙を突かれ、大きな爪を持つ獣が彼女に向かって跳びかかる。

「――ッ!」

 次の瞬間、光の壁が彼女の前に展開され、モンスターの爪を弾いた。眩い閃光が周囲を照らし、獣は後退する。その光の向こうにいたのは、大樹だった。

「危ないだろ、無理するな。」

 光の余韻を背にして、彼が言う。その顔は落ち着いていて、それでいてどこか心配そうだった。里香は唇を噛んで、それでも笑った。

「来てくれて……ありがとう。」

「君が傷つくのだけは、見たくない。」

 そう言いながら、大樹はそっと里香の手を取る。その手は戦いの緊張の中でも確かに温かく、彼女の鼓動が一気に跳ね上がるのを自覚させた。

 その後も激しい戦闘が続いたが、仲間たちと力を合わせてどうにかモンスターたちを撃退した。騒がしさが引いていき、ようやく訪れた静けさの中、里香はようやくその場に座り込んだ。

「はぁ……もう、無理……」

「お疲れ。」

 大樹がそっと彼女の前に膝をつき、ポーチから布を取り出す。彼は黙ったまま、里香の腕の小さな切り傷に優しく布を巻いた。その仕草があまりに自然で、優しくて、息が詰まりそうになる。

「もっと自分を大事にしろよ。」

「そっちこそ、無茶しすぎ……ほんとに、見てるこっちが心臓に悪いってば。」

 言いながらも、彼の手に触れているだけで、妙に安心してしまう。大樹の手が布の結び目を整えながら、ふと視線を合わせた。

「君が無事で、本当に良かった。」

 その目は、嘘がなかった。まっすぐに、自分の心の中を見透かすような、けれど包み込むような目。視線が絡まったまま、誰も何も言わない。けれど、心のどこかが確かに震えている。

 そのとき、ふと風が吹いた。ふたりの間をすり抜けるように、光の粒が舞う。それはまるで、空気が祝福しているようだった。ふと見上げると、空には無数の小さな光が浮かんでいた。精霊たちだった。

「……なに、あれ……?」

 里香が息を呑む。精霊たちは舞いながら音を奏で始めた。鈴のような、笛のような、どこか懐かしくて優しい音色。気づけば街中が、その音に包まれていた。

「君と俺が、守ったんだな。この場所を。」

 大樹がぽつりと言ったその言葉に、里香の胸がまた、ひときわ高鳴った。

 精霊の音楽は、ふたりの距離をさらに近づけた。触れれば壊れてしまいそうな、でも温かいものが、確かにそこにあった。

 ──章終──


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