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第二章:旅立ちの決意

 翌朝の空はどこまでも高く、雲一つない青が街を優しく包んでいた。冒険者の街の中心に位置する広場は、いつになく賑やかだった。荷馬車の軋む音、商人たちの元気な声、そしてギルドを出入りする冒険者たちの足音が重なり合い、活気に満ちていた。

 大樹はその人混みの中にあっても、どこか浮いて見えた。黒いローブをひらめかせ、広場をゆっくりと横切っていく姿には、知的で静謐な雰囲気が漂っている。彼の手には、昨日の戦いの後、図書館で拾った古文書が握られていた。それは「光の遺跡」についての僅かな記述を含む、貴重な手がかりだった。

 彼の目的はただ一つ。光の遺跡に眠ると言われる「光耀の刃」を見つけること。そしてその剣の魔法構造を解き明かし、世界に新たな魔法体系を打ち立てること。それは、かつて失った師の夢でもあった。

「本当に行くつもりなのか?」背後からの低い声に、大樹が振り返ると、そこには川本田健三の姿があった。分厚い鎧を身にまとい、眉間にしわを寄せたその顔には、明らかな不安が浮かんでいる。

「お前ら、あの遺跡に行くのか?正気かよ。あそこは、ただの伝説じゃない。戻ってきたやつなんて、ほとんどいねぇんだぞ。」

「知ってるよ、健三。でも、行かなきゃいけない理由がある。」大樹は静かにそう答えると、視線を前に戻した。もう迷いはなかった。

 その時、後方から足音が近づき、大樹の隣に小柄な影が立った。小村里香だった。今日はいつもの赤いチュニックの上に、軽装の防具を重ねている。装いは簡素だが、どこか凛として見えるのは、彼女の内に秘めた決意のせいだろう。

「これ、持って行って。」

 彼女が差し出したのは、小瓶に入った淡い紫の液体。魔法のポーションだった。大樹は目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んでその瓶を受け取った。

「ありがとう。大事に使うよ。」

「危険な旅だから、少しでも役に立てたらって思って。」里香はそう言うと、すぐに視線を逸らした。頬がほんのり赤く染まり、風が彼女の前髪を揺らしている。大樹はその横顔をしばらく見つめていた。

「……大丈夫。君がいてくれたら、何があっても乗り越えられる気がする。」

 ぽつりと漏れたその言葉に、里香は驚いたように目を丸くした。だがすぐに、恥ずかしそうにうつむいて、ぎこちなく笑う。

「そ、そんなの…言われたら、ドキッとするじゃない。」

 その言葉に、今度は大樹が照れ笑いを浮かべた。ふだんは理知的で冷静な彼が、こうして感情をあらわにする瞬間は、どこか特別に見える。里香の胸が、ほんの少し早く脈打った。

「じゃあ、準備は整ったみたいだな。」

 二人のやり取りを見ていた健三が、渋い顔をしながらも微かに笑った。「くれぐれも無茶すんなよ。戻ってくるまでが冒険だって、忘れるな。」

「もちろん。」大樹が答えると、里香も頷いた。

 陽が中天に差し掛かり、広場の影が短くなる頃、二人はギルドを後にした。街を抜け、草原を越え、遠くの地平線に薄く見える山々の向こうにあるという「光の遺跡」へと向かう。

 その背中を風が押す。柔らかく、温かな春風だった。未来は見えない。けれど、不思議と心は軽かった。

 たとえどんな困難が待ち受けていても――隣にこの人がいる。それだけで、勇気が湧いてくる。

 大樹はふと、里香の手元に視線を落とした。彼女の小さな指が、ぎゅっとポーションの袋を握っている。その仕草に、またひとつ心が温かくなった。

 冒険の旅は始まったばかりだった。

 ──章終──


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