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エピローグ:新たな冒険へ

 春が訪れ、丘の上の家は花々に囲まれていた。風に舞う花びらはまるで祝福の羽のように舞い、空の色と溶け合って、世界にふんわりとした透明な喜びを注いでいた。大樹と里香は、その家の庭先に立ち、並んで空を見上げていた。視線の先には、かつてドラゴンと共に戦った空よりも高く、さらに遠くを旅する手段――空飛ぶ絨毯が、ゆっくりと浮かんでいた。

「本当に行くんだね?」

 里香が問いかける声には、不安と期待が入り混じっていた。もうすぐ、新たな旅が始まる。戦いの旅ではない。けれど、それ以上に胸が高鳴る、新しい世界を巡る旅。

 大樹は頷き、そっと里香の手を握った。指先のぬくもりが交差し、互いの心がふたたび重なっていく。

「世界を見てみたいんだ。あのとき救ったこの世界が、今どんなふうに輝いているのか、君と一緒に見に行きたい。」

 その言葉に、里香は目を細めた。まだ見ぬ空、まだ聞いたことのない音、知らない風、そして新しい出会い。彼となら、きっと全部が“宝物”になる。

「うん。私も、見たい。」

 そう言って手をぎゅっと握り返したその瞬間、背後から小さな鳴き声が響いた。庭の花の間から、翼を持つ小さな獣――ふたりが育ててきた守護の子が、くるくると羽ばたいて近づいてくる。まだ飛ぶのはおぼつかないが、その姿はどこか誇らしげだった。

「君も一緒だよ。家族なんだから。」

 大樹がそう言うと、獣は誇らしげに鳴いて、くるりと宙で一回転した。里香は思わず笑い、そっとその小さな体を撫でた。

 空飛ぶ絨毯が庭に滑り込むように降りてくると、ふたりはそっと乗り込んだ。足元がふわりと浮き、世界が少しずつ小さくなっていく。空はどこまでも青く、太陽はやさしく彼らを照らしていた。

 絨毯が高度を上げると、ふたりの背後に光の都が遠ざかっていく。あの戦い、あの涙、あの誓い。すべてがこの風景の中に溶け込み、今ではひとつの物語となって彼らの背を押してくれていた。

 空を翔ける途中、ふと、里香が何かを見つけた。絨毯のすぐ下、雲の切れ間にぽつんと浮かぶ岩の上に、光る石があった。絨毯がふわりと高度を下げ、ふたりはその石の前に降り立った。

「……これって……!」

 そこにあったのは、透明な魔法石。その中央には、金色の光でふたりの名前が刻まれていた。“Daiki”と“Rika”。まるでこの世界そのものが、彼らの旅路を讃えて記録してくれたようだった。

「……私たちの絆が、世界に刻まれたんだね。」

 里香がそっと呟く。その声には、どこか神聖な響きがあった。大樹は彼女の隣に立ち、頷いた。

「でも、まだ終わりじゃない。まだ知らない場所が、たくさんある。」

 再び絨毯に乗り込んだふたりは、今度は夜の空へと舞い上がった。そこには無数の星が瞬き、光の川のように流れていた。流星群がきらめき、その中に一本の道のような星の並びが浮かび上がる。

「……あれ……星の道?」

「うん。ふたりにしか見えない、心で繋がる道だよ。」

 大樹の言葉に、里香は口元を緩めて笑った。静かな風の中、彼女の心は不思議なくらい落ち着いていた。もう迷うことはない。ここに、歩いていくべき道があるから。

 絨毯が星の道を滑るように進んでいく中、ふたりは語らい、笑い、時には肩を寄せ合って眠った。翼を持つ獣は、くるくるとその周囲を飛びながら、まるでふたりの旅の記録者であるかのように、空を舞っていた。

 新しい町、新しい森、新しい魔法、新しい出会い。時には迷い、時にはすれ違い、それでも手を離すことはなかった。どんな世界に降り立っても、大樹は里香を守り、里香は大樹を支えた。

 愛と冒険と、ほんの少しの奇跡に包まれて。ふたりの物語は、まだ終わらない。

 この世界のどこかで、今日もまた、ふたりは新しい“ドキドキ”に出会いながら歩き続けている。

 ──完──


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