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第一章:運命の出会い

 冒険者の街、その片隅に古びた図書館が佇んでいる。昼下がりの陽射しが埃まみれの窓から差し込み、光の筋が静かに浮かび上がっていた。外の喧騒が嘘のように、館内は重たい静寂に包まれている。長年人々に忘れ去られたかのようなこの場所には、魔法と歴史の膨大な書物が眠っていた。

 館の奥、棚と棚の隙間に腰を下ろし、古びた書物を一心不乱にめくっている男がいた。岩本大樹。淡い金髪が肩にかかり、黒いローブが彼の細身の体を包んでいる。その端正な横顔には微かな疲労感が滲み出ていたが、琥珀色の瞳には知的な光が宿っている。彼は古代魔法についての文献を探し求めていた。特に、伝説の剣「光耀の刃」に関する記述を手がかりにしようとしていた。

「これもダメか…」ページをめくるたび、期待と失望が交差する。大樹は一息つき、本を閉じた。その時、隣の棚から物音がした。目を凝らすと、そこには一人の女性が立っていた。

 小村里香。茶色のショートボブが柔らかな印象を与え、深紅のチュニックが冒険者らしさを際立たせている。手には色褪せた薬草学の書が握られていた。里香の表情は真剣そのもので、どうやらポーションの調合について調べているようだった。

「そこ、ちょっとどいてくれない?その棚の本、必要なの。」

 大樹は唐突な要求に一瞬驚いたが、彼女の真剣な瞳を見つめ返すと、言葉を返すことができなかった。少し気後れしながらも、大樹は静かに答えた。

「この本が必要なのか?悪いけど、今調べ物中なんだ。」

「いや、私が先に来てたんだから、そっちがどいてよ!」

 お互いに一歩も譲らない視線の応酬。里香は腰に手を当て、不満げに大樹を睨みつけた。一方、大樹は淡々と受け流すように本を持ち直した。

「古代魔法について調べているんだ。急いでいるから待ってくれ。」

「こっちだって急いでるの!ポーションがないと仲間が困るの!」

 二人の言い争いがヒートアップしていく。そんな時だった。図書館の外から不気味な咆哮が響き渡った。ガラス窓が震え、埃が舞い上がる。

「何だ…?」

 突然の出来事に二人は顔を見合わせた。次の瞬間、図書館の扉が勢いよく破られ、巨大な狼型モンスターが乱入してきた。鋭い牙を剥き出しにし、唸り声を上げながら周囲を威嚇する。パニックになった人々が次々と逃げ出し、書棚が倒れて本が散乱する。

「危ない!」大樹は里香の手を引き、とっさに背後の柱まで駆け込んだ。

「何が起きてるの…?」

 怯える里香の手が微かに震えている。大樹は片手を突き出し、低く呟いた。

「リフレクション・シールド!」

 透明な魔法の障壁が二人の前に広がり、突進してきたモンスターを弾き返す。激しい衝撃音と共に、壁が青白く輝いた。

「助けてくれて…ありがとう。」

 息を整えた里香が、小さく礼を言う。その瞬間、大樹は一瞬、彼女の頬が赤らんでいるのに気づいた。しかし、すぐに気を取り直し、モンスターに向き直る。

「まだだ…油断するな。」

 モンスターは怯むことなく、再び襲いかかってきた。だが、今度は里香が前に出た。柔らかな光が指先から溢れ出し、周囲に広がる。

「ヒーリング・グロウ!」

 負傷した人々に癒しの光が降り注ぎ、次々と傷が癒えていく。大樹はその光景を見つめ、ふと心の中で感嘆した。

(すごい…こんな短時間で回復魔法を使えるなんて。)

 里香の額には汗が滲んでいたが、その表情は集中しながらも確固たる意思を示している。二人の呼吸が一つに重なり、次第に息が合っていく。

 モンスターが再び突進してきた瞬間、大樹は一気に呪文を唱えた。

「フレイム・ランス!」

 燃え盛る火槍が宙を舞い、モンスターの胸に突き刺さる。断末魔の叫びを上げ、やがて崩れ落ちた。

 戦いが終わり、静けさが戻った図書館。里香は息を切らしながら、大樹を見上げた。

「助かったけど…あなたって何者?」

 大樹は少し気恥ずかしそうに笑いながら、手の甲で汗を拭った。

「ただの魔法オタクさ。」

 その軽口に、里香も少し微笑んだ。二人の間に生まれたばかりの共闘の絆が、静かな図書館の中で淡く輝いていた。

 終


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